2020年度から始まる、小学校のプログラミング教育の本質とは?

おすすめ本の本文抜粋「本当は、ずっと愚かで、はるかに使えるAI」

本当に子供たちに必要なプログラミング教育とは


■身につけたいのはプログラムの書き方ではない

 二〇二〇年度から小学校では「プログラミング教育」が始まります。
 プログラムとは、コンピュータに対する命令を書いたものです。プログラムを書くことをプログラミングと言います。コンピュータは、プログラムに書かれた命令を間違わずに実行します。図にプログラムのイメージとしてJavaScript(ジャバスクリプト)という言語で書かれたプログラムを示します。

【図】プログラミングの例:テキストベースで処理内容を記述

 ところで、このプログラミング教育の目的は、いわゆるプログラミングの技術を習得することではなく、「プログラミング的思考」を身につけることだそうです。
 筆者は、情報系の研究者であると同時に大学教授という教育者でもありますが、恥ずかしながらこの「プログラミング的思考」という言葉を聞いたことがありません。
 文部科学省の「小学校プログラミング教育の手引(第二版)」(平成三〇年文部科学省発刊)には、「プログラミング的思考」について、次のような説明があります。

 「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」

 具体例がないため、分かりにくい文章ですが、簡単に言えば「目的達成に必要な手順を論理的に考える力」ということです。「目標達成に必要な手順」とは、プログラムそのものを指すので、言い換えると「プログラムを論理的に考える力」です。さらには、単に「論理的思考」と言ってもよいと思います。
 論理的思考を養うとしたこの方針には、筆者もまったく同じ意見です。なぜなら、この論理的思考こそがプログラミングの本質だと考えるからです。

■子供のうちから徹底的に論理的に考えさせる

 普段、私たちは物事を相当いい加減に考え、またいい加減な言葉で人に伝えています。日常的にはいい加減なことを言っても、聞いた人が上手く解釈してくれるからです。しかしその一方で、ここいちばん「相手を納得させたい」「相手を説得したい」というような場合は、決していい加減でよいとは考えないはずです。
 そのようなとき、人類共通で有効な伝達手段は「論理」を使うことだと言われています。それほど論理的に筋道立てて考え・伝えることは、コミュニケーションの観点から普遍性があり、重要なのです。
 もちろん、現実的には理屈ではなく相手の感情に訴えることが有効な場面もありますが、それは理屈が通じない場合のプランBであり、プランAとしては理屈が通っていることが大事です。
 翻って考えると、コンピュータというマシンは、まったく融通がきかず、完全に論理的な命令しか聞かない「超堅物な奴」と考えることができます。ただし、この相手は、論理的命令を与えさえすれば、どんなことでも嫌がらずにその通りにやってくれる「忠実な奴」でもあります。
 このような融通のきかない奴(コンピュータ)とのコミュニケーションを体験すること、またそのコミュニケーションに必要なプログラムを考えることは、私たちが日頃、あまり経験しないことです。だからこそ、小学校の「プログラミング教育」は、子供たちにとって、物事を完全に論理的に考えてみるというとても貴重な訓練になるのです。「論理的思考の獲得」、これこそが、「プログラミング教育の本質」であるべきです。

■プログラムが書けても、AIは作れない

 さて、プログラミング教育は、AIの開発にどう役立つのでしょうか。
 本書の冒頭に紹介したように「AIとはプログラム」なので、プログラミングを習得することは、AIを作るための基本的な技術を身につけることを意味します。
 ただし、プログラミングができるようになったからと言って、AIを作れるわけではありません。AIを作るには、その基本となるアルゴリズムを考える必要があるからです。
 アルゴリズムとは、問題を解くために必要な手順を形式的に表現したものであり、そのままではコンピュータに通じない、人間向きの表現です。
 プログラミングは、このアルゴリズムをコンピュータに通じるプログラムに書き換えることなのです。そして、このアルゴリズムを作り出す作業は、今のところ「人間にしかできない仕事」なのです。

書籍紹介
本当は、ずっと愚かで、はるかに使えるAI 近未来 人工知能ロードマップ
山田 誠二 著、四六判、172頁、1,400円(税抜き)

日本のAI研究の第一人者である著者が大胆にAI込みの未来社会を予測する。2020年代~2040年代ごろまでのAIの社会への浸透の具合とは―。AIに関する様々な誤解を解きほぐし、等身大の姿を浮かび上がらせるとともに、AIを受容するために社会に求められる要件を明らかにする。

著者紹介
山田 誠二(やまだ せいじ)
1984年 大阪大学基礎工学部卒。1989年 大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。1989年 大阪大学助手、1991年 大阪大学講師、1996年 東京工業大学助教授を経て、2002年 国立情報学研究所・総合研究大学院大学教授、現在にいたる。
専門は人工知能、HAIヒューマンエージェントインタラクション。ここ10年の研究テーマは「人間と協調するAI」であり、現在HAI、知的インタラクティブシステムを中心に様々な研究プロジェクトを推進中。2016〜2018年 人工知能学会会長。
○著書『ヒューマンエージェントインタラクションJ(山田誠二、小野哲雄、近代科学社)、『人工知能の基礎(第2版)』(馬場口登、山田誠二、オーム社)ほか。

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目次抜粋
第1章 そろそろ等身大のAIの話をしよう
AIは人間になれるのか
AIはなぜだまされるのか
なぜシンギュラリティは起こらないのか

第2章 私たちはAIに何を期待しているのか
「AIが仕事を奪う」という大きな誤解
実は、クリエーターの仕事こそAIに代替される⁉
AIは非常に使える「ツール」だ ―弱いAIバンザイ!

第3章 AIを学ぶ、AIに教わる
AI家庭教師〈アダプティブ・ラーニング〉による教育のカスタマイズ
本当に子供たちに必要なプログラミング教育とは
教育→就職→再教育→再就職 ― リカレント教育はAIに任せろ

第4章 あらゆる現場で仕事につくAI
IoT+AI=インダストリー4・0&精密農業
AIは自動運転よりもMaaSとの相性が良い
RPAにAIを組み込むとどうなるか

第5章 AIと生きる未来シナリオ
AI社会のダークサイドも直視しよう
XAI(説明可能なAI)でブラックボックスを許さない
HAI ―進化する人とAIのインタフェイス

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