東京が世界で勝ち抜く都市へ、“新しいオフィス空間”を創出せよ

 不動産デベロッパーとして、重きを置くのがマクロとミクロの発想だ。東京の開発であれば、まずこの都市の未来というマクロに思いを巡らせる。ロンドンやニューヨークだけでなく、近年は香港やシンガポールも存在感を増している。こうした都市との競争を勝ち抜くために、東京はどうあるべきか。不動産開発はその一つのピースだと捉えている。

 東京の未来をどう描き、価値や地位を高めるアイテムをいかに効果的に実装するか。一つひとつの要素を磨き、形づくっていく役割は不動産デベロッパーならではだろう。その上で求められるのが建物の周囲に広がる地域というミクロな視点だ。建物はコミュニティーの中に存在し、単独では成立しないことを忘れてはいけない。

 それはオフィスビルでも同じだ。近年はオフィスにコミュニケーションを促す仕掛けを作る力が問われる。味気ない照明やタイルカーペットを使い、部署ごとにキャビネットで仕切るような“伝統的”な空間はもう古い。当社で言えば、テナントによる内装の作り込みを可能にした「クリエイティブフロア」が一つの答えだ。

 社内だけでなく、企業間のコミュニケーション充実に向けた動きも活発だ。その一例が、オフィスビルに設けられるラウンジだ。テナント各社の従業員がオン・オフに集まる場としての機能を、そのままオフィスの外にも展開したい。地域内で働く人、地域に訪れた人、住民までもが集まる仕組みを整えるのが理想であり、当社ではコ・クリエイションをコンセプトに共創・共栄の持続可能な街づくりを推進している。

緩やかな交流、気付きに


 追求しているのは、緩やかなコミュニケーションの中で生まれる化学反応だ。集客力のあるイベントも、単にオフに仲間と過ごす場になりやすく、ビジネスを含む新たな気付きにはつながりにくい。緩やかに、軽やかに語り合う中で気付きを得られるような場を、さりげなく地域に点在させたい。

 次世代にとって、仕事と遊びはボーダーレスだと強く感じる。ネット世界で、他愛のない会話を通じ、さまざまな情報を交換するのは当たり前だ。これはリアル社会でも目指す絵であり、そのような空間がサードプレイスとなる。

 全ての人が働きやすくクリエイティビティを促進させるようなハードが整えば、東京で働く人たちは世界で勝てる人材に育つ。明確なオフィス空間ではないが、仕事で訪れても居心地がよく、他人との交流も楽しめる場所。そんな空間づくりが、都市の活動を担う不動産デベロッパーとしての目下の課題だ。

まずサービス基盤づくり


 当然、それに伴うソフトの開発も大切だ。思い描くような空間にふさわしいソフトを導入できれば、化学反応が生まれる確率はさらに上がるだろう。リアルでもサイバーでも、ロケーションと融合させたコミュニティーやサービスができれば、重みが増すと考える。これからはIoT(モノのインターネット)時代の到来で、モノとの連携も増えるだろう。

 既に人の動きを把握する用途でIoTの活用が始まっている。しかし、そのデータから傾向を把握しても、サービスを提供できる基盤や目的がなければ、分析にはつながらない。ワークスペースにおいては、どんな行動も、根幹には健康で創造的な毎日を送り、やりがいを感じていたいという思いがあるのは明らかだ。そのため、IoTの活用を焦るのではなく、地域内のあらゆる施設を上手に連携させながら、コンセプトを持ち、マーケットインの発想でサービスを構成する基盤づくりが何よりも重要だ。

 こうしたサービスを磨き上げる過程で、サービスの品質を上げるためにおのずと行動を分析したくなる。そして、どのように分析するべきかイメージがわいてくるものだ。サービスの基盤を着実につくりながら行動を科学的に捉えられれば、相乗効果が生まれ、あるべき未来の姿になるだろう。
(文=伊達美和子<森トラスト・ホテルズ&リゾーツ社長>)
【略歴】だて・みわこ 96年(平8)慶大院政策・メディア研究科修士修了。コンサルティング会社を経て、98年森トラスト入社。00年取締役、03年常務、08年専務、11年森トラスト・ホテルズ&リゾーツ社長、16年森トラスト社長を兼務。東京都出身。

森トラスト・ホテルズ&リゾーツ社長・伊達美和子                 

日刊工業新聞2019年10月14日

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