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吉野氏を生んだ旭化成、研究開発トップが語った「思いの強い人間がやる」

高山茂樹副社長(技術機能部門統括)インタビュー
吉野氏を生んだ旭化成、研究開発トップが語った「思いの強い人間がやる」

高山茂樹氏

 ―研究開発の環境をどう見ていますか。
 「私は50歳頃まで研究に携わり、セパレーターなどの事業担当を経て、4月に戻ってきた。昔に比べ技術の賞味期限が短くなり、『研究は時間がかかる』と言っても通用しない。新事業の創出は以前より難しい。一方、開発を加速させる方法も増えた。オープンイノベーションが重要だ。良い製品ができても、市場が飽和した後では意味がない」

 ―重視することは。
 「(1)技術を見極める力(2)技術と事業の関係をつくる力(3)スピード―の3点だ。事業は一つの技術だけでは成り立たない。研究開発から事業へ移行する時、エコシステムを考える必要がある。また技術の賞味期限を考えながら開発していく」

 ―増額した研究費を何に充てますか。
 「研究成果と事業成長が直結するヘルスケア分野が多い。大変革期にある自動車は多くのチャンスがある。欧州での存在感を高めたい。既存事業と新事業へのリソースは柔軟に調整する。小堀秀毅社長が『社会に貢献できること以外はやらない』と口酸っぱく言う通り、そこはブレない」

 ―新卒でもデジタル人材に高額給与を提示する企業が話題ですが、旭化成の考え方は。
 「高度専門職制度を活用すれば、若くても部長待遇が可能だ。新卒の事例はないが、30代半ばで名だたる企業で経験を積んだ“筋金入り”が入社した。データや人工知能(AI)は研究開発、新規事業創出に貢献する。高度専門職の枠は使い切れないほどある」

 ―難しくても、社会貢献として成し遂げたい研究はありますか。
 「グリーン水素製造プロジェクトはその一つ。ただ、何事も最後は人次第だ。『できる』と信じる、思いの強い人間がやる。私は旭化成の、自分で仕事の範囲を広げ、自分事として挑戦できるところが好きだ。研究者がそうできる環境にする」

【記者の目】
 新事業の創出は、化学業界に共通した課題だ。顧客業界も同じ悩みを抱えているため、電機や自動車メーカーの要望に応えていけば新しい需要を獲得できるという化学業界の定石は通用しなくなった。とがった特徴を持つ新素材の研究開発スピードを上げながら、顧客業界と同時にイノベーションを起こすことが求められる。
(梶原洵子)

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日刊工業新聞2019年7月30日

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