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官民ファンド“新ツートップ” 美しい出口戦略の条件

どうなるシャープ、そしてルネサスの嫁ぎ先。ベンチャー投資にも意欲見せる
官民ファンド“新ツートップ” 美しい出口戦略の条件

勝又社長(左)と志賀会長

 政府系ファンドの産業革新機構が経営体制を一新して再スタートを切った。会長兼最高経営責任者(CEO)に日産自動車の志賀俊之副会長、社長兼最高執行責任者(COO)にファンド運営経験の豊富な勝又幹英氏を招聘(しょうへい)して“フェーズ2”へ突入。前経営体制が手がけたユニキャリアホールディングスの成功に加えて、69%出資するルネサスエレクトロニクスの再建も順調だ。多額の遺産を相続した新経営陣はこのまま安全運転に徹するのか、それともさらなる挑戦に踏み出すか。大きなジレンマを抱えている。

なぜキオンではなく三菱重工だったのか


 「非常に美しい案件だった」。革新機構の勝又幹英社長はユニキャリアホールディングスを巡る一連の流れをそう自画自賛した。7月末に三菱重工業グループへの株式譲渡を決め、約300億円の売却益を得る見通し。もちろん革新機構は政府系であり、金額のみで出口戦略の成否は判断できない。

 日立建機と日産自動車のフォークリフト事業を統合したユニキャリアは誕生後、一度も人員削減を行わずに現在に至る。その一方で、業界再編は進み、この3年で国内フォークリフトメーカー4社が1社に集約されて世界3位の日本メーカーが誕生することになる。

 ユニキャリアの業績が改善して“売れる会社”になったポイントは「経営陣と従業員の頑張りに尽きる」と革新機構の豊田哲朗専務は強調する。具体的には調達資金により海外でM&A(合併・買収)を繰り返したほか、リベートなどの悪しき商慣習と決別することで収益を向上させたと言われる。たしかに業界再編のお手本と呼ぶべき成功事例だろう。

 ただ、将来への懸念がないわけではない。ユニキャリア買収を巡っては三菱重工グループ以外に、世界2位の独キオングループが参戦していた。むしろ先に手を挙げていたのはキオンだったと見られる。現在でもキオンとの“結婚”の方が地域などの補完性が高く、よりシナジーを発揮できるはずだとの声は業界内で根強い。


“外野の声”騒がしく判断に影響?


 革新機構がユニキャリア売却を検討しだした14年初頭以降、所管する経済産業省や産業界の一部から、キオンに中国資本が入っていることなどから「外資へ売却するな」と注文がついた。もちろん、それが革新機構などの判断にどれほど影響を与えたかは不明だ。豊田専務は「価格、契約条件、ユニキャリアにとってどうか、我々の特殊な(半官半民の)背景の4要素を基にフェアにやると言い続けた」と振り返った。

 革新機構には“幻”の1号案件があった。09年に東芝と組んで、仏原子力大手アレバの送変電・配電機器事業を買収しようと入札に参加。ただ、仏政府の意向により重電大手アルストム中心の仏連合が落札した。「アルストムは本当はほしくなかった。政府に言われて買収した」と当時の関係者は語る。そして現在、業績低迷中のアルストムはエネルギー部門を米ゼネラル・エレクトリック(GE)へ売却する計画だ。経済合理性を軽視した企業再生や業界再編の末路は悲惨だ。

 革新機構は9月でルネサスエレクトロニクスのロックアップ(株式の売却禁止契約)が解除される。新たな出口が近づいている。ルネサスエレクトロニクスの現在の株価は13年9月の株式取得時と比べて約5・4倍に上昇した。革新機構の“含み益”は約6100億円に膨れあがっている。半民ファンドとしては高値のうちに売却したい気持ちが頭をもたげる。

 出口戦略を模索している最中だが、豊田専務が挙げた四つの判断要素が基本方針となりそう。加えて、「車載分野はまだまだ海外の顧客に開拓の余地がある。(売却先が)国内という考えが前面に出るのは良くない」(豊田専務)と視野を広く持っている。しかし霞が関周辺からは「トヨタグループに売ればいい」との注文が一部で聞かれる。革新機構には外野の声に惑わされずフェアな判断が求められる。

「逆に聞きたいが、我々が投資すべきなんですかね」


 シャープが最近、液晶事業の分社化・売却を示唆したことから、ライバルのジャパンディスプレイの筆頭株主である革新機構の周りも騒がしくなった。豊田専務は「逆に聞きたいが、我々が投資すべきなんですかね」と笑う。「もちろんシャープの行く末は同じ業界として気になるのは事実だが、できることとできないことがある」と慎重な姿勢だ。
 
 革新機構は25年までに保有株式を全て放出することが法律で決まっている。最後の5年間は新規投資を抑えて回収期間に入るため、残る投資期間は4年程度とわずかだ。経産省幹部は「モチベーションの低下が気になる。今後積極的に大型案件を手がけていく雰囲気をあまり感じない」と心配する。

 ルネサスの含み益で余生を過ごしても、史上最も成功した政府系ファンドの称号は揺るがないだろう。ただ、産業界のためにもう一働きしてほしいとの声も多い。

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
シャープについて豊田専務が「逆に聞きたいが、我々が投資すべきなんですかね」とコメント。これが本音だろう。官民ファンドであってもファンドである限り、まずはリターンで出口戦略が評価されるべき。ルネサス救済の時も「国のお金でなぜ?」というマスコミのお決まりフレーズが踊った。今のルネサスは一定の再建が進み、社内の中堅・若手は見違えるように活気づいている。 ほかの再生ファンドでもそこまでは同じことができたかもしれない。出口戦略は、「官」が入っている意義を考えると、色が出るのはしょうがない。志賀さんをCEOに招聘した意味は、より現政権の意向を反映させるためだろう。

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