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中国ロボコン、世界から100人の高校生を集めて合宿する理由

【連載】中国ロボコンの巨大エコシステム #6
中国ロボコン、世界から100人の高校生を集めて合宿する理由

世界から集まった高校生らがDJI主催のロボット開発合宿に参加した

 エコシステム(人材や企業の生態系)を構成する1人の技術者にとっては縦と横のつながりが大切だ。コンテストは同世代で競い合い横のつながりができる。そして後輩世代の教育に携わることで縦のつながりができる。DJIはロボットコンテスト「ロボマスター」を開催する傍ら、世界から100人の高校生を集めてロボット開発の夏合宿を開く。(取材・小寺貴之)

 「この一冊がぼくの道を変えた。その先生に教えてもらえるんだ」と、北京から参加した刘昕宇さんは胸を躍らせる。その手は人工知能(AI)の専門書を大切そうに握っている。夏合宿では南方科技大学の教授陣が講義をし、DJIの技術者が開発を指導する。サポーターにはロボマスター経験者も加わる。2018年は夏冬合わせて242人が合宿に参加した。

 刘さんは参加2回目でアルゴリズム開発を担当した。ロボの自己位置認識や経路計画技術を開発した。合宿で出会った友達は地元の友達と比べて「(開発への)熱量が違う。合宿が終わった後も連絡をとる。いい友達ができた」と目を細める。

 内容は盛り沢山だ。3週間、9―22時までの講義と開発演習が、みっちりと詰め込まれている。メキシコから参加したアビエル・フェルナンド・カンツさんは「みんな打ち込んでいる。手を抜くなんてできない」と苦笑いする。

 南方科技大の吴景深教授は「合宿で技術者魂を養う。諦めずにチームで分担しロボットを完成させる。将来どんな技術が求められるかわからない。だからこそ自ら学び、人と協力して成し遂げる基礎力が大切になる」と強調する。

 こうした技術者の卵の育成に現役世代がかかわることでコミュニティーは強くなる。コンテストは同世代で切磋琢磨(せっさたくま)するが、光が当たるのは上位チームに限られる。

 競技の成績は振るわなくても、優秀な技術者は多い。自ら学んだことを整理して後輩世代に伝えることで、改めて自身を見つめ直し、技術者としてのアイデンティティーが確立されていく。縦と横のつながりはエコシステムを強固にする。

 実際、ロボマスター経験者は企業から引く手あまただ。DJIの包玉奇ロボマスター技術責任者は「経験者たちは企業から大人気。人材競争力がある」と話す。企業の技術者や起業で成功すると、今度はロボマスターを支える側として戻ってくる。

 ただ学生の中ではAIなどIT産業の人気は高い。ハードウエアに縛られず、開発した技術を世界に展開できるためだ。刘さんも「コンピューターサイエンスの道に進みたい」と目を輝かせる。ロボマスター参加チームに先輩の進路を聞いても、まず華為技術(ファーウェイ)やIT大手の名が上がる。ロボット業界やDJIが必ずしも第一志望というわけではない。見方を変えると、ITに流れている優秀な人材をロボットに惹きつけることに成功している。

 ロボマスターの参加者は約1万人。楊明輝運営責任者は「人材育成が第一。卒業生はロボット以外にもさまざまな分野に進む」という。ロボコンを通して巨大なエコシステムが築かれつつある。(おわり、全6回)
日刊工業新聞2019年9月20日(ロボット)
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
夏合宿の高校生や競技会場の大学生と話すと、ロボット産業が第一志望ではないなと感じます。テンセントやファーウェイなど、学生にとってもっと身近なテクノロジーカンパニーが別にあり、給与面でも人材の奪い合いが起きているのだと思います。どこに就職してもロボマスを戦い抜いた経験は、その人のアイデンティティになり、社会人になると大会を運営して人を育てる貴さがわかり、成功したら恩返ししようと思うのだと思います。これを人のつながりが、より強固にします。日本のロボットのコンテストにかかわる組織の一構成員としては甚だ羨ましい限りです。

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