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1万人参加の中国ロボコン、世界進出目指すDJIの野心

【連載】中国ロボコンの巨大エコシステム #1
1万人参加の中国ロボコン、世界進出目指すDJIの野心

プログラミング教育用の「S1」でレースや対戦ゲームができる

 ロボットコンテスト「ロボマスター」が8月に中国で開かれた。主催した中国DJIはロボコンをeスポーツのようなエンターテインメントに昇華させた。子どもが楽しめるゲームとして設計したことでファン層を広げ、プログラミング教育などの教材市場に事業を広げた。(取材・小寺貴之)

 もともと技術者はプロ人材の市場があるが、スターが生まれてこなかった。裏方に隠れていた技術者を、スポーツ選手のように表舞台に押し上げている。この手法から日本の技術開発コンテストが学ぶことは少なくない。

 「ロボコンは日本から中国に導入された。ロボマスターは中国発のコンテストとして世界に広げたい」と、DJIの楊明輝ロボマスター運営責任者は説明する。DJIはロボマスターにエンタメやゲームの要素を取り入れた。5種類7台のロボットがフィールドを走り回り、撃ち合い、連係し駆け引きする様子は子どもをくぎ付けにした。開発に没頭する大学生の人間ドラマにも光を当て、アニメや漫画も制作してファン層を広げている。

 中国の若い親世代の教育熱も取り込んだ。ロボマスターをモチーフにしたミニ戦車ロボ「S1」を開発。S1同士で対戦ゲームができ、プログラミングや画像認識などを学ぶ教材にもなる。

 親にとっては子どもの興味をゲームからロボット技術に誘導するチャンスになった。通常のロボット教材は技術を学ぶために設計され、ゲーム性は乏しかった。DJIはS1を公的な学校教育に組み込むために中国政府とカリキュラム開発を進めている。

 対して日本のロボコンの多くは“手弁当”の世界だった。ロボコンの数はあるものの規模の小さなイベントが多い。競技会が目指す崇高な未来と、舞台に上る未完成なロボとのギャップが悩みの種だ。そこでロボットの開発コミュニティーと災害やコンビニなどのユーザーのコミュニティーを結びつける目的で「ワールド・ロボット・サミット(WRS)」が企画された。プロ同士のコミュニティーをつなぎ、社会実装を加速させる。

 中国のロボマスターは開発コミュニティーと次の世代をつなぐ。公式には173チーム、約1万人が参加。

 eスポーツとしてロボットの機体は完成の域にある。課題は国際展開だ。すでに米バージニア工科大やワシントン大学なども参加しているが、中国チームのレベルが高すぎて海外チームが決勝トーナメントに進めない。中国内は大学生から小中高生まで巻き込むためのエコシステム(人材や企業の生態系)ができたが海外はこれからだ。

 楊明輝運営責任者は「日本や北米を強化したい。日本は地区大会を開くなどコミュニティーを立ち上げている。日本で成功させ、そのモデルを米国に導入したい」と説明する。日本にとっては技術開発コンテストにエンタメを導入し、手弁当から興行に移行するチャンスともいえる。興行が成り立つエコシステムが一つできファンが再生産されると、さまざまなコンテストに人材が供給される。手弁当だと人の奪い合いになる。ロボマスは若い世代に向けて技術者が格好いい職業だと発信する機会になる。(全6回)
日刊工業新聞2019年9月4日(ロボット)
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
「ロボコンは日本から中国に輸入された。ロボマスターは中国発として日本、世界に広げたい」とDJIの楊明輝運営責任者は展望します。そのためアニメ化や漫画化など、IPを大切にしていて、競技会とコンテンツの両面から投資しています。対して日本のロボコンの多くは〝手弁当〟の世界です。放送局主催のロボコン以外にも水中ロボや廃炉ロボ、小型二足歩行ロボなど、競技会の数はあるものの規模の小さなイベントが多いです。各分野で競技会が作られて、大学教員などが学生を動員してきました。学生の関心がハードからソフトに移るにつれて、IT企業主催のハッカソンなどに人をとられています。いま大切なのは限りあるロボット好きの学生を競技会でとりあうよりも、競技会の魅力を高めてファンが再生産される仕組みを作ることだと思います。その上で競技会がキャリアに生きるようレベルを引き上げないといけません。学生などの手作り感はドラマにはなるのですが、学生の青田買いが起きる技術レベルにはしたいところです。  

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