異なる「禅」と「ZEN」、両方感じられるデザインとは

「思索空間と水鏡の庭」(鈴木大拙館提供)
 数年前にロンドンで和の美を表現した空間デザインを紹介した時の欧米のデザイナーやデザイン関係者の反応は「ZENを感じる」というものが多かった。彼らにとって日本的なもので、そこにスピリチュアルな要素があると禅と映るようだ。

 欧米の経営者で禅に興味を持つ人は多い。禅がZENとして英語になっていることからも、人々の関心の高さがうかがえる。

 海外のデザイナーがZENにインスピレーションを感じて空間をデザインした場合はどうなるのだろう。

 2001年に公開された映画「ノッティングヒルズの恋人」のラストを飾る主人公の結婚式のシーンが撮影されたのはロンドンのブティック・ホテル「Hempel」の禅ガーデンだ。当時、ラグジュアリーホテルとして評価され、有名人にも好まれたようだが、英国人が解釈したZENのデザインを見ることができる。残念ながらホテルは数年前にクローズしたそうだ。

 日本で禅を表現したデザインの代表格と言えば禅寺だが、それ以外では何が思い浮かぶだろうか。

 禅のような精神の世界観をデザインで表現するのが難しいのは、人によって感じ方が異なるからだ。まして文化の異なる海外の人と日本人では大きな違いが生じる。

 ところが、双方を満足させる建築物が金沢市にある。東洋の思想や日本の文化を西洋に伝えた仏教哲学者・鈴木大拙(だいせつ)の世界観を体験できる文化施設だ。英語での著書も多い大拙は、禅をはじめとする仏教思想と西洋の思想とを共に語るなどその卓越した知識は世界的に評価されている。

 建物の設計は、ニューヨークの近代美術館の設計などで有名な建築家谷口吉生氏による。敷地の特長を生かした背景や水景によって大拙の世界観を表している。三つの棟と三つの庭からなる空間を回遊することによって大拙について知り、学び、考えるように意図されている。

 「水鏡の庭」の前に腰掛け、静寂に包まれた空間で水面に映りこむ建物や植栽の影や空の色を見つめていると自然と体の力が抜けて無心となり、禅とZENの両方を感じることができる。(西谷直子・三井デザインテック・コミュニケーション・エディター)

日刊工業新聞2019年9月6日

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