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バイオプラスチック開発に挑む、若手研究者の群像
大量生産・大量消費を支える便利な素材として、プラスチックが登場してから半世紀以上ー。軽量で強度に優れ、かつ加工しやすいその性質は、さまざまな産業分野に広く普及してきた。しかしいま、資源制約時代の到来を前に、持続可能で低炭素・効率的な資源利用の象徴として、再びプラスチックをめぐる基礎研究が脚光を集めている。様々なアプローチでこれに挑む若手研究者の姿から、その可能性を覗いてみよう。
「非可食性バイオマスから高機能・高性能な高分子材料を製造できれば、木質系の産業廃棄物の有効利用と石油などの枯渇資源からの脱却に貢献できる」ー。こう話すのは理化学研究所環境資源科学研究センターの竹中康将研究員(47)。
「非可食性」とは人間が食用にしない草や樹木といった植物材料、「バイオマス」とは化石資源を除いた生物由来の有機資源。世界的な資源需要の高まりや食料安全保障の観点から、近年、こうした「非可食性バイオマス」を原料とする化学素材の製造技術が注目されている。
OECD(経済協力開発機構)によると、世界の資源利用量は年間800億トンを超え、2060年には現在の倍の1670億トンまで増加するとみられている。人口増や所得平均の向上に伴い、バイオマス(生物資源)や化石燃料、金属、非金属鉱物といった資源の採掘と加工が増えることが予想される。
バイオマスから作られるバイオプラスチックは、これまで主にトウモロコシやサトウキビ、大豆など人間や家畜が食用とできる植物を原料としてきた。しかし、これらを大量にプラスチックの原料として用いると、食料や飼料不足を招きかねない。非可食性バイオマス素材に注目が集まるのはこのためだ。
竹中氏は、理化学研究所内に2010年に発足した「バイオマス工学研究プログラム」(現在は環境資源科学研究センターの「新規能性ポリマー」プロジェクトに移行)に参画。石油由来のプラスチックと同等以上の性能や機能を持つバイオプラスチックの開発に取り組む。
これまでの成果のひとつとして、木材の主要成分のひとつである「リグニン」の分解生成物として知られる桂皮酸やカフェ酸といった「リグニン誘導体」を原料に用いたポリマーの合成に成功。現在、実用化を目指して機械特性の評価などを行っているという。
「非可食性バイオマスを原料に、地球環境に配慮した石油由来のプラスチックを凌駕する機能・性能を持ったバイオプラスチックを開発していきたい」と語る。
同じく、非可食性バイオマスの可能性に惹かれ、触媒を駆使して新たな材料開発に挑むのは、産業技術総合研究所触媒化学融合研究センターの根本耕司主任研究員(38)。根本氏によると、バイオマスを効率よく分解し、いかに目的の物質に変換させるかは「触媒」がカギとなる。
これまでに数十種類の触媒を検討し、コスト的にも性能的にも優れたアルミニウム系の触媒にたどり着いた。この触媒を用いてバイオマスから製造するのは「レブリン酸」と呼ばれる有機酸の一種。レブリン酸を出発原料に、燃料やプラスチックの原料となる様々な化学品を製造することができるなど、「基幹化合物として優れた特性を有している」(根本氏)。
レブリン酸は米国のエネルギー省なども注目する化合物の一つであり、世界各国でバイオマスを原料にしたレブリン酸の開発競争が繰り広げられているという。
そのような中、根本氏らの研究グループではすでに粗製パルプや林地残材、サトウキビの搾りかすなど、さまざまな原料から高効率でこのレブリン酸を合成できることを確認されており、共同研究のパートナー企業と共に、バイオマスを原料にしたレブリン酸の製造プロセスの経済性の評価も行っているという。「バイオマス由来のレブリン酸を原料に、社会の役に立つプラスチックを開発する」と意気込む。
同じく、非可食性バイオマスを原料として微生物発酵プロセスによってプラスチック合成に取り組むのは東京農業大学分子機能学分野生命高分子化学研究室の廣江綾香助教(33)。
自然界には、エネルギー貯蔵物質としてプラスチック(ポリエステル)を合成する微生物が200種類ほど発見されている。微生物が作り出すポリエステル成分(モノマー構造)は150種類以上と多種多様だが、これまでの微生物産生プラスチックは低温環境では用いることができなかった。
廣江氏らは、微生物の代謝系を改変することで、ポリマー成分(モノマー)の側鎖炭素数を均一化させることに成功し、パーム油の副産物(混合脂肪酸)から低温に強い新たなバイオプラスチックの合成法を確立した。
微生物発酵を利活用した材料開発を目指す廣江氏
また、どんなに性能の良いバイオプラスチックを作ることができても、量的供給が困難であれば社会実装には至らない。そういった観点から、より高効率にプラスチックを生産できる微生物の培養法の開発などにも取り組んでいる。
また、微生物産生プラスチックの特徴に、好気性・嫌気性を問わず、あらゆる自然環境下で分解されやすい点が挙げられるという。そのため、世界的に課題となっている海洋プラスチックごみ問題でも解決の糸口として注目される素材のひとつである。
「微生物の力を引き出しながら、新たな材料を開発し、バイオプラスチックの多様な用途への展開に貢献したい」。廣江氏らの挑戦は続く。
リグニン誘導体を原料に
「非可食性バイオマスから高機能・高性能な高分子材料を製造できれば、木質系の産業廃棄物の有効利用と石油などの枯渇資源からの脱却に貢献できる」ー。こう話すのは理化学研究所環境資源科学研究センターの竹中康将研究員(47)。
「非可食性」とは人間が食用にしない草や樹木といった植物材料、「バイオマス」とは化石資源を除いた生物由来の有機資源。世界的な資源需要の高まりや食料安全保障の観点から、近年、こうした「非可食性バイオマス」を原料とする化学素材の製造技術が注目されている。
OECD(経済協力開発機構)によると、世界の資源利用量は年間800億トンを超え、2060年には現在の倍の1670億トンまで増加するとみられている。人口増や所得平均の向上に伴い、バイオマス(生物資源)や化石燃料、金属、非金属鉱物といった資源の採掘と加工が増えることが予想される。
バイオマスから作られるバイオプラスチックは、これまで主にトウモロコシやサトウキビ、大豆など人間や家畜が食用とできる植物を原料としてきた。しかし、これらを大量にプラスチックの原料として用いると、食料や飼料不足を招きかねない。非可食性バイオマス素材に注目が集まるのはこのためだ。
竹中氏は、理化学研究所内に2010年に発足した「バイオマス工学研究プログラム」(現在は環境資源科学研究センターの「新規能性ポリマー」プロジェクトに移行)に参画。石油由来のプラスチックと同等以上の性能や機能を持つバイオプラスチックの開発に取り組む。
これまでの成果のひとつとして、木材の主要成分のひとつである「リグニン」の分解生成物として知られる桂皮酸やカフェ酸といった「リグニン誘導体」を原料に用いたポリマーの合成に成功。現在、実用化を目指して機械特性の評価などを行っているという。
「非可食性バイオマスを原料に、地球環境に配慮した石油由来のプラスチックを凌駕する機能・性能を持ったバイオプラスチックを開発していきたい」と語る。
レブリン酸の開発競争をリード
同じく、非可食性バイオマスの可能性に惹かれ、触媒を駆使して新たな材料開発に挑むのは、産業技術総合研究所触媒化学融合研究センターの根本耕司主任研究員(38)。根本氏によると、バイオマスを効率よく分解し、いかに目的の物質に変換させるかは「触媒」がカギとなる。
これまでに数十種類の触媒を検討し、コスト的にも性能的にも優れたアルミニウム系の触媒にたどり着いた。この触媒を用いてバイオマスから製造するのは「レブリン酸」と呼ばれる有機酸の一種。レブリン酸を出発原料に、燃料やプラスチックの原料となる様々な化学品を製造することができるなど、「基幹化合物として優れた特性を有している」(根本氏)。
レブリン酸は米国のエネルギー省なども注目する化合物の一つであり、世界各国でバイオマスを原料にしたレブリン酸の開発競争が繰り広げられているという。
そのような中、根本氏らの研究グループではすでに粗製パルプや林地残材、サトウキビの搾りかすなど、さまざまな原料から高効率でこのレブリン酸を合成できることを確認されており、共同研究のパートナー企業と共に、バイオマスを原料にしたレブリン酸の製造プロセスの経済性の評価も行っているという。「バイオマス由来のレブリン酸を原料に、社会の役に立つプラスチックを開発する」と意気込む。
微生物発酵プロセスで成果
同じく、非可食性バイオマスを原料として微生物発酵プロセスによってプラスチック合成に取り組むのは東京農業大学分子機能学分野生命高分子化学研究室の廣江綾香助教(33)。
自然界には、エネルギー貯蔵物質としてプラスチック(ポリエステル)を合成する微生物が200種類ほど発見されている。微生物が作り出すポリエステル成分(モノマー構造)は150種類以上と多種多様だが、これまでの微生物産生プラスチックは低温環境では用いることができなかった。
廣江氏らは、微生物の代謝系を改変することで、ポリマー成分(モノマー)の側鎖炭素数を均一化させることに成功し、パーム油の副産物(混合脂肪酸)から低温に強い新たなバイオプラスチックの合成法を確立した。
微生物発酵を利活用した材料開発を目指す廣江氏
また、どんなに性能の良いバイオプラスチックを作ることができても、量的供給が困難であれば社会実装には至らない。そういった観点から、より高効率にプラスチックを生産できる微生物の培養法の開発などにも取り組んでいる。
また、微生物産生プラスチックの特徴に、好気性・嫌気性を問わず、あらゆる自然環境下で分解されやすい点が挙げられるという。そのため、世界的に課題となっている海洋プラスチックごみ問題でも解決の糸口として注目される素材のひとつである。
「微生物の力を引き出しながら、新たな材料を開発し、バイオプラスチックの多様な用途への展開に貢献したい」。廣江氏らの挑戦は続く。