「死の質」を向上させる終末期ケア、考えていますか?

終末期ケアにおける情報共有とQOD(上)

地域包括ケア


 急速に進む高齢化を背景にしたわが国の社会保障改革では、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体提供することで、なるべく長く住み慣れた地域で生活を続けられる「地域包括ケアシステム」の導入を推進している。高齢者を中心にしてケアが提供される仕組みは、高齢者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)向上に寄与する。世界保健機関(WHO)の定義では、QOLは「単に疾病がないということではなく、完全に身体的・心理的および社会的に満足のいく状態にあること」とされている。日本でも、医療現場を中心に取り組みが始まり、単に病気を治療するだけでなく、本人の希望を踏まえ、治療後の生活を重視したケア提供へと変化してきており、介護や予防、生活支援にもQOLの考え方が広がってきている。

 高齢者の増加は、高齢者の死亡も増加する「多死社会」でもあり、QOLの考え方は人生の終末期にも広がり、QOD(クオリティー・オブ・デス)という言葉も生まれている。より良い人生とは、人生の終末期においても自分自身の意思がきちんと反映され、本人の希望する死を迎えられることが重要であり、QOLとQODが連続してつながっていくべきだ。

なじみが薄い


 終末期ケアにおいて、本人と家族、医療・介護従事者が互いに理解しあうには、今後の治療・療養についてあらかじめ話し合うプロセスである「ACP(アドバンスト・ケア・プランニング)」や書面による生前の意思表示である「リビングウイル」などが必要となるが、まだ多くの人々にとってはなじみの薄い概念であり、健康な人にとっては「自分には関係ない」と捉えがちだ。しかし、加齢とともに意思決定能力は低下していくのが常であり、もし認知症になれば、意思決定能力の低下は避けられない。

 厚生労働省は2018年に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を改訂し、「本人が自らの意思を伝えられない状態になる前に、本人の意思を推定する者について、家族等の信頼できる者を前もって定めておくことの重要性」「繰り返し話し合った内容をその都度文書にまとめておき、本人、家族等と医療・ケアチームで共有することの重要性」などを強調している。

市民の理解


 終末期ケアにおける情報共有は、自治体主導による取り組みも進んできている。神奈川県横須賀市では、引き取り手のない遺骨が10年間で倍増していることから、全ての市民が安心して暮らしていけるよう、緊急連絡先や墓の所在地などを市に登録し、死後の葬儀などの手続きを本人の意思に基づいて行う「終活情報登録伝達事業」を開始している。愛知県半田市でも、急性期医療の現場において医療同意を取れないケースが出ていることをきっかけに「半田市版事前指示書」を作成し市民に配布している。毎年12月の市報に事前指示書についての記事を掲載し、年末に家族で話し合うよう広報するとともに、市民の理解を深めるための講座も開いている。

著者:国際社会経済研究所(NECグループ)主幹研究員 遊間和子

日刊工業新聞2019年8月9日

  

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