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ノーベル賞受賞!吉野氏が明かすもう一つの「EV社会実現」シナリオ

 2019年のノーベル化学賞は旭化成の吉野彰名誉フェローに贈られることが9日、決まった。7月の記事を再掲載する。


 電動車シフトが進む一方、電気自動車(EV)は高価で、航続距離などに課題も多い。EV社会は本当に到来するのか。リチウムイオン電池を開発し、今も研究の最前線に立つ旭化成の吉野彰名誉フェローは、クルマ社会をつくり変える“シナリオ2”の存在を指摘する。従来の、電池を高性能かつ普及価格帯とするアプローチ以外も考えていく必要がある。

 EVの低価格化と航続距離延長によってEVが普及するシナリオ1に対し、吉野名誉フェローの言及する“シナリオ2”は、自動運転を担う人工知能(AI)を搭載した「AIEV」が主要モビリティーとなるというものだ。人は自動車を運転も保有もせず、必要な時に無人運転のAIEVを呼び出して乗る。マイカー所有に比べ個人の負担は7分の1を見込んでいる。2025年以降にAIEVに漸次置き換わると予想する。

 AIEVを提案する理由は、EVだけで二酸化炭素(CO2)排出量の削減をはじめとした環境負荷低減を達成するのは難しいからだ。「自動車とエネルギー源を連動して考えなければ、ゼロ・エミッションとはならない」(吉野名誉フェロー)。EVを巨大蓄電システムとして利用し、変動の大きい再生可能エネルギーで発電した電気を利用する。

 いつどこで充電するかは、何台ものAIEVと再生エネ発電の状況を見ながら管理システムが判断し、自動で充電する。「エネルギー補給も自動化が必須。EVで無人運転でなければ成り立たない」(同)と強調する。

 電池への要求も変わる。シナリオ1では1回の充電当たり500キロメートル走行できることや、ガソリン車並みの大幅なコスト低減が必要だが、シナリオ2ではシェアリングに対応できる長期耐久性が求められる。

 電池や車が高価なままでも、シェアリングで個人負担を減らせる。電池材料開発の方向を変える必要はないが、エネルギー密度とコスト、耐久性のバランスを取る際に耐久性を重視する必要がある。

 自動車の保有から所有へ価値観の大転換が前提となり、現時点で既存の自動車メーカーは簡単には受け入れられないだろう。だが、「いずれ誰かがシナリオ2を打ち出す時になれば、反対することはできない」(同)と予想する。

 こうした既存構造の転換を打ち出すのはIT大手が得意とするが、「本来は自動車メーカーが主導権を持ってほしい。少なくとも対等でなければ、IT企業の下請けになる」(同)と警鐘を鳴らす。100年に一度の自動車業界の大変革を前に、日本の自動車メーカーの変革を期待する。
(文=梶原洵子)

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日刊工業新聞2019年7月11日

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