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「人生100年時代」、日本の最悪シナリオ

社会保障制度のあり方、国民に問うべき
 現役の1・5人が高齢者1人を支える時代が2040年にやってくる。政府はこれまで、「団塊の世代」が75歳となる25年を念頭に社会保障と税の一体改革を進めてきたが、さらに高い峠が見えてきた。一方、金融庁の「公的年金だけでは2000万円足りない」とした報告書をめぐって、野党などの非難が殺到している。政府は明確な説明責任を果たすべきだ。

 40年は、どのような社会になるのだろうか。最悪のシナリオは、世代間と地域の格差が極限まで拡大。相互扶助を基本としてきた日本の社会構造が根幹から崩れることである。

 総務省の推計では、40年にはわが国の人口は1億人程度に落ち込み、1971―74年生まれの「団塊ジュニア世代」が65歳以上の高齢者となる。その時点で高齢化率は36・8%に達し、85歳以上人口も高齢人口の3割近くになる計算だ。

 それだけではない。就職氷河期に就職活動をした現在35―44歳の世代の高齢化も進む。これらの世代は安定的な職を得られなかったため結婚や子育てができなかったケースが多く、単独所帯の割合が高い。社会保障費上振れの要因だ。

 政府も危機感を強める。厚生労働省は5月末、「40年を展望した社会保障・働き方に関するあり方」をまとめた。その中で、「人手不足の中での絶好の機会」として現役世代を増やすため就職氷河期世代の就労支援を盛り込んだ。これらの施策を閣議決定した経済財政の基本指針「骨太の方針」や予算などに反映させる方針だが、中年の域に達している人材をスキルアップさせるのは難しい。

 一方で、年金制度改革の必要性を強調する。5年ぶりとなる今年の年金制度改革に向け、公的年金不足を埋めるため私的個人年金や民間金融商品の活用など「自助努力」を求めている。

 しかし、資産運用経験がない高齢者にもリスクがある金融商品の運用を勧めるのはあまりにも危険だ。政府・与党は、「人生100年時代」に向けた新たな社会保障制度のあり方を国民に問うべきだ。

日刊工業新聞2019年6月27日(社説)

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