VR研修は社員教育を変えるか

大企業の採用広がる

 大手企業が社員教育に仮想現実(VR)を活用する動きが広がっている。VRを用いることでよりリアリティーのある研修を低コストで効率よく行うことができ、業界も建設、機械、金融など幅広く浸透してきている。より充実した研修を実施することで企業としても社員のスキルアップ、人材定着に結びつけられることが期待でき、今後も採用する企業は増えていきそうだ。

 武田薬品工業は2020年初頭にもVRを活用した社員研修を始める。まずは国内工場の従業員を対象に品質保全に必要な作業手順などを教育する。社員はヘッドマウントディスプレー(HMD)を装着。仮想の無菌室での作業を疑似体験し、作業を誤った際の適正な対処法などを学ぶ。

 戸田建設はトンネル工事向けにVR技術を活用した安全教育ツール「バーチャルNATM」を開発。HMDを装着し、トンネル工事の3次元(3D)コンピューターグラフィックス空間内を自由に行動し、安全巡視を体験、学習できる。入社5―7年目の中堅社員教育研修に使用したところ「視覚からの情報だけで浮遊感を感じ驚いた」との声が上がった。

 新入社員向けや危険予知研修にも役立つとみている。今後、自社の全トンネル現場で使用する。学習内容のシナリオも現在の4作業区分(通路、覆工、インバート〈底部〉、切羽〈掘削面〉)から増やす考え。

 鉱山向けの大型建設機械は、メーカーの社員であっても間近で見る機会が少ない製品だ。日立建機では、整備・修理を担当するサービス員や営業担当者を対象にVR装置を使った研修を行っている。鉱山向け油圧ショベルやダンプトラックなど超大型建機の点検時の一部作業が疑似体験できる。安全への意識や操作技術を向上させるとともに、社員のモチベーションを高める効果を期待する。

 今後は「機械のオペレーションに携わる人材への教育ツールとしても展開する」(人事担当)としている。

 損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険では、代理店向けにVR研修を実施している。全国の90支社に1万5000個の簡易的VR装置を配布。認知症への理解を深め、患者に寄り添う対応で保険の拡販につなげる。

 実際にないモノが見える幻視や徘徊(はいかい)して道に迷うなど、当事者目線の三つのコンテンツを体験可能。代理店からは「何に怖がり困っているか、理由を探るための声かけが安心感につながることを知った」など気付きが生まれた。

 教本では理解しにくい、危険性が高く体験機会が限られる、コストがかかるといった研修もVRを活用することで効率的に学ぶことができる。人は「聞いたことは忘れる、見たことは覚える、やったことはわかる」と言われている。費用対効果の観点から導入すれば良いというものではないが、VRはゲームなどの分野にとどまらず、社員の理解度向上など研修の分野でも効果を発揮している。

日刊工業新聞2019年7月15日

  

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