睡眠研究の権威が語る、最高の眠り方と睡眠ビジネスの懸念

連載・睡眠の値段(7)

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**スリープテックはエビデンスが伴わないものが多い
 ―テクノロジーを活用して睡眠の質を高めるサービス「スリープテック」市場が盛り上がっています。
 私自身すごく関心があるし、将来的には当たり前に利用されていくのだろうが、そうなるにはエビデンスベースでなくてはいけない。その意味で現時点では批判的な見方をしている。(米ラスベガスで)1月に開かれた(家電・IT見本市の)CESにも行ったが、エビデンスが伴わないものが多かった。また、ある睡眠改善プログラムは4月に実施し、6月に再度睡眠調査を行い、プログラムで睡眠が改善したと紹介していたが、効果は同じ時期に改善プログラムを受けていない人と比べないと話にならない。4月はストレスが溜まりやすく6月には慣れてきたり、気候も良くなったりと別の要因の可能性があるわけだから。それにもう一つ別の問題もある。

 ―別の問題とは。
 睡眠改善サービスといって「睡眠障害」を抱える人もひっくるめて対象にしてしまってはいけない。睡眠障害には「睡眠時無呼吸症候群」など医学的な治療が必要な疾患もあるが、睡眠改善サービスのみを受けていたがために治療を遅らせてしまう可能性がある。そうした懸念もあり、私が代表を務める形で「ブレインスリープ(東京都千代田区)」を立ち上げた。

 ブレインスリープ(https://brain-sleep.com/):薬用シャンプー「スカルプD」を手掛ける予防医学のアンファー(東京都千代田区)の出資をベースに5月に創業した。西野教授が最高経営責任者(CEO)兼最高医学責任者(CMO)を務める。同社広報担当の金山有沙さんは「スリープテック製品が注目を集める一方、本当に(エビデンスに)確信があるのかあいまいな部分がある中で、研究者をたてて本当によい睡眠を日本だけでなく、世界に発信するために立ち上げた」と説明する。

 ―ブレインスリープではどのような取り組みをされるのですか。
 睡眠に関する情報発信のほか、私が研究、実証した成果をベースにしたサービスや製品の開発を検討している。例えば、ベットに取り付けて睡眠状況を可視化する端末の開発には興味がある。睡眠状況を評価する上で重要なベッドに入ってから入眠するまでの時間や入床中にどれくらいの割合で寝ているかの「睡眠効率」などがわかるからだ。私は長年睡眠の研究を続けてきたので、過去にどんなデバイスが開発されてきたかやそれぞれの利点、欠点を知っている。米アップルが(睡眠計測技術の)ベドイットを買収して参入するなど、競合は厳しいが、そうした知見を活用して取り組みたい。

 ここ数年、質の良い睡眠を求める機運が高まっているが、それをブームで終わらせてはいけない。睡眠業界を盛り上げたいという思いもある。また、睡眠環境を整えるサービスは一つの企業ではできない。プレインスリープではいろいろな企業との連携をトータルコーディネーションする役割も果たしたい。

 西野精治(にしの・せいじ):スタンフォード大学医学部精神科教授、同大睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長。医師、医学博士。1955年大阪府出身。大阪医科大卒業。87年大阪医科大院4年在学中、スタンフォード大精神科睡眠研究所に留学。05年にSCNL所長に就任。睡眠・覚醒のメカニズムを分子・遺伝子レベルから個体レベルまでの幅広い視野で研究している。著書に「スタンフォード式 最高の睡眠」などがある。

連載・睡眠の値段


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COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局DX編集部
ニュースイッチ編集長

西野先生には本記事で紹介している内容以外にも、いろいろと興味深い話を伺いました。その一つが海外の航空会社がビジネスクラスやファーストクラスにかける椅子の値段の話です(西野教授はその椅子について相談を受けたそうです)。ビジネスクラスの椅子は800万円、ファーストクラスの椅子は1500万円だったといいます。欧米のエグゼクティブはいかにフライト中によい睡眠、休息を取れるかを求めており、それに応じて航空会社のサービスの考え方も変わってきているとおっしゃっていました。今回は取材しながら、「いい睡眠にはいい値段が付くようになったのだなぁ」と思う場面が多く、タイトルを「睡眠の値段」としました。約1週間ありがとうございました。

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