若い技術者は「10年くらいは失敗続きでもいい」、レンズのプロが語る育成論

 キヤノン宇都宮光学機器事業所(宇都宮市)で、半導体露光装置用の大口径球面レンズの加工・研磨を手がけてきた奥山敬正製造第2課職場長(54)。国立天文台の「すばる望遠鏡」の主焦点カメラのレンズの球面研磨にも携わった経験を持つ。現在は、勤務35年間で得た技術を数値化しながら後進の育成に取り組んでいる。

 2017年に厚生労働省から「現代の名工」の認定を受けた。19年には黄綬褒章を受章した。レンズの加工は、技術者の感覚が出来栄えを左右する。「二つと同じレンズはない。加工・研磨はレンズを削る皿状の『ピッチ』作りから毎回始めなければならない」と、難しさを語る。

 ピッチの硬さや材料の配合、手の感覚で感じ取る削り具合など気を付けなければならない点は多い。レンズのサイズが大きくなったり、曲率が深くなったりすると加工や研磨の難易度も上がる。すばる望遠鏡で使用した直径80センチメートル近いレンズの加工には、奥山職場長でさえも相当骨を折ったという。

 精度の高い加工技術を得るには、「経験を積んで自分の引き出しを増やす」ことが欠かせない。1日に加工作業ができる数には限りがあるが、若い技術者には「10年くらいは失敗続きでもいい」と指導する。「できる限界まではなるべく自分で加工させる。多様な形状や材料に対応できるように、苦手意識を持たせないように気を付けている」。

 奥山職場長は、加工技術の数値化にも取り組んでいる。同製造課には若い技術者が多く、早期に技術を習得させる必要があるためだ。新しい設備や材料が導入されると、数値を更新して指導に役立てる。「感性だけはどうにも計測できない。失敗から自力で身につけてもらうしかない」と語りながらも、全力で後進をサポートしている。
(文=国広伽奈子)

日刊工業新聞2019年7月3日

国広 伽奈子

国広 伽奈子
07月05日
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奥山職場長によると、レンズを正確に加工・研磨できるまでには10―15年の歳月がかかるとのこと。扱う材料や作る形は毎回異なるため、繰り返しの作業の中で対応力と知識を身につける必要があります。現場では新たな技術や設備の導入が進んでいることから、数値や基準の更新は頻繁に行っています。「10年前に作ったものは適用できない」という見方はレンズ作り以外にも通じそうです。

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