下町ボブスレー、平昌冬季五輪に向け再挑戦!
東京・大田のモノづくりの「底力」、世界に発信!
ソチオリンピック不採用から約1年9カ月―。東京都大田区内の中小企業を中心に結成する「下町ボブスレーネットワークプロジェクト」は、新たなソリを誕生させた。同プロジェクトは冬季五輪競技「ボブスレー」の国産ソリを製造し、大田区の技術力をアピールする目的で2011年に始動した。次こそ国産のソリでメダルを。18年に韓国・ピョンチャン(平昌)で開催される冬季五輪に向けた戦いは既に始まっている。
下町ボブスレーネットワークプロジェクトは11年12月に始動。ボブスレーは「氷上のF1」と呼ばれ、伊フェラーリや独BMWなどの自動車メーカーがソリを製造している点に着目。速いソリを作り、大田区の中小企業に自動車メーカー同様の技術があることを証明したい考えだ。14年のロシア・ソチ五輪では、日本代表チームによる採用を目指した。
しかし13年11月、日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟はソチ五輪では下町ボブスレーを採用しないと通告した。残りの改良点を直せたとしても検証時間がない、というのが大きな理由だった。そこでピョンチャン冬季五輪では十分に検証時間を取れるよう、既にソリの改良を開始。16年夏には実際に五輪で使うソリ「6号機」を完成させる。検証のため約2年の余裕を残す。
15年8月、まずは5台あるソリのうち3号機と5号機を改良、刷新した。改良機は、ソリの前部と後部とのつなぎ部分を斜めに切った。ボブスレーのソリは分かれている部分を回転させて操作する。従来、つなぎ部分は垂直に切っていた。
設計を担当するマテリアル社員の鈴木信幸さんは「斜めにすると、コーナー出口で前部と後部がねじれる際の後部の動きに幅が出る。コーナーで加速しても出口でスピードにつながらないという選手から出た意見を解決する」と自信をのぞかせる。またソリの精度にもこだわった。部品だけでなく、組み立てた状態でもきちんと精度が出るよう図面の時点から工夫した。
防振ゴムも区内企業で新たに製造。ソリの振動を吸収するフレーム部分とボディーをつなぐ部分に入れて振動吸収性を高める。今後検証を重ねてゴムの硬度など改良を進める。15年冬から改良機による検証を行い、結果を「6号機」の新設計に盛り込む。
氷に接するランナーも国産化を目指す。ムソー工業など区内5社と東京大学大学院工学系研究科の加藤孝久教授がチームを結成、研究が続く。
ランナー製造は1メートル以上の長い金属を3次元の複雑形状に加工する。3―4週間ほどかかるため、小さな町工場では本業に支障が出る。そこで製造は大手のジェイテクトに依頼した。8月中に3セット目が完成する。
メンバーの1人である関鉄工所の関英一社長は「本当は形状を変えて何種類も作り、検証したいが、1社では限界がある。協力してくれる企業を区内外問わず募集中だ」という。
ソチ五輪不採用以降、困難を極めたのは新規の協力企業集めだ。副委員長で製作委員長を務める西村修エース社長は「より多くの協力企業を集めるため、舟久保利和現委員長が大田区内にある工業関係の交流団体の会合に端から顔を出した」と振り返る。地道な活動と説明会で、約50社だった部品加工企業は60社となった。今回改良機を作るに当たり、約10社が新たに加わり、総勢約70社が部品加工に携わっている。
ソリの製作にとどまらず、選手育成にも意欲的だ。4月には、パイロットの浅津このみ選手が正式に下町ボブスレーチームに所属した。プロジェクト前委員長でゼネラルマネージャー兼広報委員長の細貝淳一マテリアル社長は「ソリを作って検証しようにもパイロットが代わったら検証にならない。選手を抱えなければと思った」と明かす。現在、浅津選手は過酷なトレーニング中だ。12月に行われる日本選手権では好成績に期待がかかる。
総数146社・団体、個人18人が協力する一大プロジェクトで、委員長の重責を担うのは舟久保利和昭和製作所社長。細貝前委員長は「大田工業連合会の会長である舟久保利明氏の力を借りる意味も込めて息子の利和氏を委員長にしたが、若い経営者を4年かけて育てるという意味も込めている。若い委員長を支えながら輪を作ってほしい」と期待を込める。ピョンチャン冬季五輪まであと約3年半。マシンと人材両方の精度を上げ続ける。
同プロジェクトの目的は三つ。世界に大田区の技術力をアピールして町工場に受注を増やすこと、大田区のモノづくりを盛り上げて人材育成につなげること、航空機など成長産業参入への第一歩とすることだ。下請けが中心のモノづくりの姿勢を変える。メダルのさらに先へ、挑戦は続く。
検証時間確保
下町ボブスレーネットワークプロジェクトは11年12月に始動。ボブスレーは「氷上のF1」と呼ばれ、伊フェラーリや独BMWなどの自動車メーカーがソリを製造している点に着目。速いソリを作り、大田区の中小企業に自動車メーカー同様の技術があることを証明したい考えだ。14年のロシア・ソチ五輪では、日本代表チームによる採用を目指した。
しかし13年11月、日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟はソチ五輪では下町ボブスレーを採用しないと通告した。残りの改良点を直せたとしても検証時間がない、というのが大きな理由だった。そこでピョンチャン冬季五輪では十分に検証時間を取れるよう、既にソリの改良を開始。16年夏には実際に五輪で使うソリ「6号機」を完成させる。検証のため約2年の余裕を残す。
15年8月、まずは5台あるソリのうち3号機と5号機を改良、刷新した。改良機は、ソリの前部と後部とのつなぎ部分を斜めに切った。ボブスレーのソリは分かれている部分を回転させて操作する。従来、つなぎ部分は垂直に切っていた。
設計を担当するマテリアル社員の鈴木信幸さんは「斜めにすると、コーナー出口で前部と後部がねじれる際の後部の動きに幅が出る。コーナーで加速しても出口でスピードにつながらないという選手から出た意見を解決する」と自信をのぞかせる。またソリの精度にもこだわった。部品だけでなく、組み立てた状態でもきちんと精度が出るよう図面の時点から工夫した。
防振ゴム製造
防振ゴムも区内企業で新たに製造。ソリの振動を吸収するフレーム部分とボディーをつなぐ部分に入れて振動吸収性を高める。今後検証を重ねてゴムの硬度など改良を進める。15年冬から改良機による検証を行い、結果を「6号機」の新設計に盛り込む。
氷に接するランナーも国産化を目指す。ムソー工業など区内5社と東京大学大学院工学系研究科の加藤孝久教授がチームを結成、研究が続く。
ランナー製造は1メートル以上の長い金属を3次元の複雑形状に加工する。3―4週間ほどかかるため、小さな町工場では本業に支障が出る。そこで製造は大手のジェイテクトに依頼した。8月中に3セット目が完成する。
メンバーの1人である関鉄工所の関英一社長は「本当は形状を変えて何種類も作り、検証したいが、1社では限界がある。協力してくれる企業を区内外問わず募集中だ」という。
協力企業増加
ソチ五輪不採用以降、困難を極めたのは新規の協力企業集めだ。副委員長で製作委員長を務める西村修エース社長は「より多くの協力企業を集めるため、舟久保利和現委員長が大田区内にある工業関係の交流団体の会合に端から顔を出した」と振り返る。地道な活動と説明会で、約50社だった部品加工企業は60社となった。今回改良機を作るに当たり、約10社が新たに加わり、総勢約70社が部品加工に携わっている。
選手育成にも意欲
ソリの製作にとどまらず、選手育成にも意欲的だ。4月には、パイロットの浅津このみ選手が正式に下町ボブスレーチームに所属した。プロジェクト前委員長でゼネラルマネージャー兼広報委員長の細貝淳一マテリアル社長は「ソリを作って検証しようにもパイロットが代わったら検証にならない。選手を抱えなければと思った」と明かす。現在、浅津選手は過酷なトレーニング中だ。12月に行われる日本選手権では好成績に期待がかかる。
総数146社・団体、個人18人が協力する一大プロジェクトで、委員長の重責を担うのは舟久保利和昭和製作所社長。細貝前委員長は「大田工業連合会の会長である舟久保利明氏の力を借りる意味も込めて息子の利和氏を委員長にしたが、若い経営者を4年かけて育てるという意味も込めている。若い委員長を支えながら輪を作ってほしい」と期待を込める。ピョンチャン冬季五輪まであと約3年半。マシンと人材両方の精度を上げ続ける。
同プロジェクトの目的は三つ。世界に大田区の技術力をアピールして町工場に受注を増やすこと、大田区のモノづくりを盛り上げて人材育成につなげること、航空機など成長産業参入への第一歩とすることだ。下請けが中心のモノづくりの姿勢を変える。メダルのさらに先へ、挑戦は続く。
下町ボブスレーネットワークプロジェクト委員長に聞く
日刊工業新聞2015年08月25日 深層断面