中小製造業が中小を相次ぎM&A、事業規模拡大の背景は?

存続困難な中小企業を支援、事業コンサルも

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 中小企業の経営者が自社の再建と新分野参入の経験を生かし、企業再生や競争力強化に乗り出す動きが目立ってきた。近年、優れた技術を持つものの、国内市場の縮小や後継者不在で存続が困難な中小製造業が増えている。そうした企業をコンサルティングする一方、M&A(合併・買収)によって競争力を高めようとする取り組みが活発化。新たな企業存続の道筋を示すものとして注目を集めそうだ。
(取材・渡部敦)

500社をグループ化へ


「M&Aによって将来は500社をグループ化し、総合OEM(相手先ブランド)メーカーとしての地位を確立したい」と、セイワ工業(三重県木曽岬町)の野見山勇大社長は意欲を燃やす。同社は高速道路の大型道路案内標識柱で25年以上の実績を持ち、東海地方で約20%のシェアを誇る。自社の強みとする溶接を生かし、橋で使われる耐震補強材などの新分野も手がけるようになった。

野見山社長は2019年4月に就任した。だが、ここに至るまでは苦難の連続だった。大学4年生だった5年前にアルバイトで家業を手伝うようになると、会社の実績以上に借入金の負担が大きいことが分かった。他社の就職も検討したが翌年入社。銀行交渉を主導し、不可能とされた追加融資と借入金の返済猶予を実現した。社員の待遇改善や新規受注獲得などで会社を成長軌道に乗せることができた。

この経験を生かして約1年前から再建や事業承継のコンサルティングを始めた。既に再建1件、事業承継2件のコンサル実績を持つ。この間、事業承継の書籍発行や講演活動などで手応えを感じた野見山社長は製造業専門の事業承継コンサル会社設立を決意した。

6月3日付で新会社のKOBATAS(コバタス、名古屋市中村区)を立ち上げた。社名は工場(こうば)を助けるの造語で経営に関する知識やノウハウに乏しい製造業を支援し、企業強化に役立てる。外部のコンサルタントも積極的に活用。顧客開拓や人材採用、コスト削減などのコンサルに加え、事業承継に関する支援を行う。

また、後継者不在などで存続が難しい中小製造業をM&Aで引き継ぐ。野見山社長は「もともと会社の成長戦略の中にM&Aを位置付けていた」と話す。そこでセイワ工業の事業と関連性が高い企業をグループ化する考えだ。グループを一つの工場として捉え、「世界一を作る町工場」(野見山社長)としてOEM製品を受託生産できる体制を整えていく。グループの統括会社を設立し、将来の株式上場も視野に入れる。

事業承継セミナーで講演する野見山セイワ工業社長


製造業のLVMHを目指す


 「製造業の仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループを目指す」。精密部品製造や受託開発を手がける由紀精密(神奈川県茅ケ崎市)の大坪正人社長は17年10月に由紀ホールディングス(由紀HD、東京都中央区)を設立した。同社は優れた要素技術を持つが、後継者不在などで経営が困難な中小企業をM&Aでグループ化する。

 高級ブランドを多く抱えるLVMHの傘下ブランドを尊重する経営姿勢を参考にグループ経営を推進する。これまでVTCマニュファクチャリング・ホールディングス(東京都中央区)など14社をグループ化。グループ年間売上高は約70億円。由紀精密も18年12月にグループ入りした。

 M&Aによる効果が出始めている。由紀HDグループで2輪車用ピストン製造のキャストワン(長野県上田市)に同年7月、同じくグループ化した昭和金型製作所(東京都大田区)の設計・製造機能を移管した。昭和金型社長でキャストワン金型事業部の森征一事業部長は「プラスチック射出成形用金型を製造していたが、受注が落ち込み経営的に厳しくなった」と事業譲渡の理由を説明する。

 一方、キャストワンはアルミニウム合金の鋳造用金型を外注していたが外注先の受注増のあおりを受け、納期が遅れ気味になっていた。そこで精密金型の製造技術を持つ昭和金型のグループ化で金型の内製化を実現した。大坪由紀HD社長は「キャストワンで足りていなかった部分がぴったり当てはまった」とM&Aの成果を強調。金型の修正も「その場でやれる」(森事業部長)ようになった。

 今後はピストンの増産体制を確立し、成長が期待される東南アジア市場で主力のアフターパーツ用に加え、チューンアップ用も提案していきたい方針だ。

 ほかにもグループの明興双葉(東京都中央区)は由紀精密と共同で強い磁場でも特性を発揮できる超電導ワイヤを開発中。明興双葉の直径0・05ミリメートルの線を連続加工できる量産伸線技術を活用し、20年以降にもろく伸ばしにくい金属化合物での製品化を目指す。由紀HDはこうしたグループ企業を事業戦略、企画・広報、製品開発、営業・海外展開、資金調達などで全面的に支援する。

 両社の経営者はそれぞれ自社の再建と新分野進出で業績を伸ばした経験を持つ。この実績を生かし、企業再生とM&Aによる事業規模の拡大を目指す方針だ。中小企業の新たなビジネスモデルとして金融機関、M&A仲介会社など外部から連携を求める動きも活発化しそうだ。

キャストワンの金型事業部で加工を手がける森事業部長


インタビュー/由紀HD社長・大坪正人氏 


由紀HDのグループ企業同士の連携が進んでいる。ニッチ分野で高い技術力を持つ中小製造業をグループ化する事業を本格的に始めて約1年半が経過した。大坪正人社長に今後の展望を聞いた。

―グループ間のシナジー効果は出ていますか。

「シナジーをどう捉えるかという問題がある。ただ、グループ内で共同開発や営業面の動きは活発化している。由紀HDが中核となり、展示会に大がかりなブースを共同出展することができた。その結果、新規受注などで効果が出ている」

―2021年にグループ売上高100億円以上とすることを目標に掲げています。

「一つの目安であって絶対に達成しなければいけないとは思っていない。規模拡大ではなくグループの内部改善、技術開発に力を入れる。業績が厳しい企業の早期黒字化、新規プロジェクトの立ち上げ、営業強化に取り組みたい」

―今後の由紀HDグループの取り組みは。

「今、製造業のグループ化の取り組みがきちんと機能していけるかを実証している段階だ。2年以内に『由紀メソッド』としてまとめ、事業再生の手法などを確立し、共有していきたい」

由紀HD社長・大坪正人氏

日刊工業新聞2019年6月24日(中小・ベンチャー)

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