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「銀座でコメづくり」から10年、次は「ロボットでコメづくり」

銀座農園社長 飯村一樹氏
「銀座でコメづくり」から10年、次は「ロボットでコメづくり」

同社はマルシェプラットフォームも提供する

**独創的な農業
私が代表を務める銀座農園は「銀座でコメづくり」というプロジェクトから始まった会社だ。2009年に銀座で100平方メートルのコインパーキングを借り上げて、田舎の原風景を模した水田と直売所を作り、日本各地の著名なコメ農家100人に集まってもらい、本格的なコメづくりを行ったことが創業の由来である。

従事者の減少など農業が重い空気に包まれる中、そのような空気を払拭(ふっしょく)しようと大消費地「銀座」で本物のコメづくりを伝えようと始まったのであるが、連日、多くの消費者やメディアが駆け付け、水田横の直売所で販売するコメは飛ぶように売れた。

筆者は一級建築士でもあるので日当たりから風の流れ、木材の選定までこだわった。そのような独創的な農業から始まったのが当社である。水田を経て有楽町駅前でマルシェを開き、日本で唯一、毎日開催するマルシェとして全国から農家や自治体が集まる市場となった。

その後、シンガポールに進出して日系企業としては初となる本格的なトマト工場を建設・栽培したが、この事業は3年間の赤字で撤退した。この時に実感したことが「人に頼る農業では世界進出できない」である。この失敗でこれからの農業は人に頼る「匠(たくみ)の技」から「仕組みの技術」に脱却しなければならないことを学んだ。現在、農業ロボット開発に取り組んでいるのはこの時の原体験が大きい。

近年「スマート農業」が農業界だけでなく、他の産業界からも注目されている。スマート農業とは「ロボット技術や情報通信技術(ICT)の先端技術を活用し、超省力や高品質生産などを可能にする新たな農業」と農林水産省は定義している。また安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の一環で、農業は今後の成長産業として位置づけられている。

省力化が課題


 しかし、実地で活動している筆者には農業はまだまだ厳しい状況だと感じている。担い手の減少・高齢化の進行により労働力不足は深刻な問題となっており、農業者の平均年齢は67歳で、65歳以上が6割以上という現実だ。

 農業の現場では、依然として人手に頼る作業や熟練者でなければできない作業が多く、省力化や人材の確保が急務の課題となっている。そして農業産出額は10兆円から8兆円台にまで減少している。しかし、日本の食料安保を考えると農業は重要な産業である。

スマート化政策


 各省庁からスマート農業のさまざまな政策が打ち出されており、当社でも経済産業省による果樹のリモートセンシングによる人工知能(AI)ロボット開発や農林水産省のスマート農業技術実証プロジェクトを受託し、ロボットトラクターによる超低コストによる輸出米栽培の運用データ構築事業を推進しているところである。

10年経過した19年から今度は「ロボットでコメづくり」が始まった。

【略歴】いいむら・かずき 97年(平9)日大生産工学部卒。不動産金融ベンチャー企業などを経て、銀座農園を設立。ロボットビジネス支援機構(ロビジー)アドバイザー兼スマート農業ワーキンググループ副座長。
日刊工業新聞2019年6月21日

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