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移動が変われば社会が変わる、施策も追いつけ!経産省×スタートアップ座談会

移動が変われば社会が変わる、施策も追いつけ!経産省×スタートアップ座談会

モビリティーサービスの未来を語り合う(左から田口、中島、近藤、増田の四氏)

 日本でも取り組み機運が高まってきたMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)。移動革命の旗手たちは異業種と手を携えて、あるいは業界そのものの自己変革を通じて、日本が直面する課題解決に挑んでいる。こうした中、独自技術と地域密着志向を併せ持つ地域発のスタートアップがその潜在力を発揮しつつある。特集第3回は、経済産業省の「モビリティと地域・都市の未来プロジェクトチーム」メンバーとスタートアップ経営者による座談会。AI乗り合い配車サービスを手がける未来シェアの中島秀之会長、タクシー配車システムの電脳交通の近藤洋祐社長が描く未来社会とはー。

広がる可能性、その先にあるもの


 【経済産業省自動車課課長補佐 増田陽洋(以下、増田)】
 お二人はITを活用した公共交通サービスの効率化を通じて、地域を問わず人々が移動しやすい社会の実現を目指しておられます。MaaSをめぐる最近の動きをどうご覧になりますか。
 
 【未来シェア会長 中島秀之氏(以下、中島)】
 世の中、MaaSが盛り上がっていますが、社会実装に向けてた取り組みは始まったばかりで、正直、歯がゆさを感じるところもあります。我々のシステムの特徴は、タクシーのような「デマンド型」と路線バスの「乗り合い型」という互いの長所を長所を融合し、ルートを固定せず、需要に応じて乗り合い車両を走行できるところにあります。ところが現行の法制度では、地域の交通事業者や自治体の理解なしには進められない。バスやタクシーといった業種区分に関わらずサービスを提供したいと考えていますが、現在は実証実験を通じて知見を蓄積しているのが実情です。

 【電脳交通社長 近藤洋祐氏(以下、近藤)】
 当社はタクシー会社を支援するクラウド型の配車システムおよびコールセンターサービスを提供しています。配車アプリやライドシェアといったITの進化は都市部の移動に大きな変化をもたらしつつありますが、地方では実情が異なります。そもそも都市部では走っているタクシーを捕まえて乗車するのが主流ですが、地方では事前予約する送迎がほとんどですし、高齢者にとってはスマートフォンで所在地を指定することも困難です。MaaSの機運は高まっていますが、地方の公共交通の実情を熟知した人がもっと主体的に関わることで、地域のきめ細かいニーズを拾っていく必要性を感じています。
初対面ながらも大いに盛り上がる未来シェアの中島会長(左)と電脳交通の近藤社長

 【経済産業省大臣官房総務課総括係長 田口周平(以下、田口)】
 新たなモビリティーサービスに対する潜在需要を感じさせる実証データもあるそうですね。

 【近藤】 地方交通維持に向けたビジネスモデルを探るため、当社がNTTドコモなどと共同で、この3月に山口県阿東地域で行った実証実験では、タクシーを用いた公共交通の有効性が利用実績から裏付けられました。それ以上に注目しているのは、外出がままならなかった高齢者の移動が促進されたことで、買い物や関連サービスへの消費につながり、地域経済の循環がもたらされた点です。次は事前予約でなく、即時配車に取り組みたいと思っています。しかもアプリだけでなく、電話受け付けも可能な使い勝手のよい仕組みを考えています。

 【中島】 移動を通じた経済効果に関するご指摘には全く同感です。モビリティーサービスはあくまで手段。移動によって何を実現するかという視点を見失うべきではない。モビリティーによって人の移動が活発化します。例えば、イベント開催時にオンデマンドバスを運行すれば、イベント参加の前後に周辺の商業施設に立ち寄ることが確認されており、消費拡大につながります。フィンランドのMaaSが話題ですが、世界的にみても移動の利便性向上を超えて、移動を通じて経済を活性化させる取り組みはこれからです。「イベントMaaS」「観光MaaS」「医療MaaS」のように異分野との連携戦略が、MaaSをビジネスモデルとして成立させるカギとなります。

異業種との連携がカギ


 【近藤】 「連携」は僕らにとっても大きな課題です。とりわけタクシー業界は長らく変革の波にさらされてこなかっただけに、技術面でも経営面でも閉ざされており、そもそも、異分野とつながる土壌がありません。こうした世界に自動運転のような最新テクノロジーを一足飛びに持ち込むことは現実的ではありませんが、高齢化と人材不足に直面する地域交通が生き残りを図る手段として配車業務の一元化に取り組んできました。これが今後、異業種とのアプリケーション連携、ひいては自動運転といったテクノロジー実装の土台になると考えています。

 【中島】 我々は人の移動だけに照準を合わせているわけではありません。札幌市ではゴミ処理や除排雪業務車両の運行効率化支援にも乗り出します。「貨客混載」もあるでしょう。

 【田口】 すると、お二人が考えるモビリティーの未来像とは。その中でどんな役割を果たすお考えですか。

 【中島】 インターネットが情報に関するプラットフォームになったように、我々はモビリティーに関するプラットフォームを担いたいと考えています。移動はあくまでも手段ですから、ストレスなく目的地までスムーズに到達できるのが究極の姿です。インターネットで情報を検索する際に、どんなプラットフォームを利用しているかなど意識しないのと同様です。

 【近藤】 目的地の前までお客さまを送り届けるといった物理的な意義だけでなく、情報面においても地域公共交通の「ラストワンマイル」ならぬ「ラストワンインチ」を担いたいと考えています。配車サービスの高度化や自動運転社会の到来を見据えれば、地域に根ざしたきめ細かな位置情報が一層、重要になります。グーグルマップで、長年、地域住民の中で親しまれてきる愛称、例えば「黒い鉄の橋」と検索してもヒットしませんよね。僕らは配車システムを通じて、きめ細かい、極めてファジーな情報まで蓄積しているのです。こうした位置情報が威力を発揮する日は、そう遠くないと確信しています。

 【田口】 GAFA的には、「ちゃんと命名してくれ」となるんでしょうね(笑)。 

技術は進化、施策も追いつけ


 【増田】 経済産業省と国土交通省は、自動運転社会の実現を見据え、新たなモビリティーサービスの社会実装を通じた移動課題の解決や地域活性化を目指す新たなプロジェクト「スマートモビリティーチャレンジ」をスタートしました。どんな施策に期待されますか。

 【中島】 テクノロジーが指数関数的な進展を遂げる一方、法制度との乖離(かいり)が拡大することを強く懸念しています。現在のルールの枠内で可能な範囲での実証を重ねるだけでなく、実際に社会実装につながるようイノベーティブな取り組みを後押しするような大胆な施策を展開してほしいですね。

 【近藤】 移動革命は、新たなモビリティー開発や施設整備といったハード面からのアプローチだけでなく、ソフトウエアのチューニングによって実現できる部分は多々あるはずです。とりわけ交通事業に関しては、硬直的な価格を柔軟に見直すことで新たなサービスを創出する可能性を秘めています。今後のモビリティーサービスの実現においては、需給状況に応じて価格を変動させるような、近代的な価格設定の議論が進むことにも期待しています。
初対面ながらも大いに盛り上がる未来シェアの中島会長(左)と電脳交通の近藤社長
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
METIジャーナル政策特集、次回は「モビリティーの空白地帯に挑む」と題して、多様化する移動ニーズや新ビジネスを紹介します。

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