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落合陽一氏率いるベンチャーに10億円、商工中金が実施した新たな融資審査

「今回のスキームを経営の柱にしたい」
落合陽一氏率いるベンチャーに10億円、商工中金が実施した新たな融資審査

指向性スピーカーについて説明する落合ピクシーダストCEO㊧と関根商工中金社長

 スタートアップ育成に「融資」と「投資」を組み合わせる―。商工中金は設立2年目のピクシーダストテクノロジーズ(東京都千代田区)に総額10億円の融資を決めた。スタートアップは融資として資金調達できると株式の希薄化を防げる。より柔軟に資金調達戦略を描けるようになる。商工中金はこれを機にスタートアップへの融資審査スキームの基礎を構築した。今後、全社に浸透させるため、方針を打ち出す。(文=小寺貴之)

 「創業から間もない事業への融資は、中期経営計画の重点分野に据えつつも実現できていなかった。今回のスキームを経営の柱にしたい」と商工中金の関根正裕社長は力を込める。ピクシーダストはメディアアーティストの落合陽一筑波大学准教授らが立ち上げた。人間とコンピューターの新しい関係(インターフェース)を作るスタートアップだ。まだ開発中の案件が多く本格的な売り上げは立っていない。それでも総額10億円の期限一括償還型の融資を決めた。

 落合最高経営責任者(CEO)は「融資なら株式の希薄化を避けつつ、次の資金調達にむけて成果を増やすための期間を延ばせる」という。その後INCJ(旧産業革新機構)などから総額約38億円の投資を得た。

 商工中金は融資審査に半年をかけた。技術の優位性や社会的ニーズの背景などを調査して回った。関根社長は「一般的な融資審査とは別物のアプローチ。普通は『投資』としてはかる案件を『融資』の論理で成り立たせた」と振り返る。商工中金は審査を通して社内で五つの原則を作成した。他のスタートアップ融資に展開するために審査ポイントを整理して全社方針を打ち出す。落合CEOは「ベンチャー支援の新しい仕組みとして広がってほしい」と期待する。

 ピクシーダストには商工中金の担当者を紹介してほしいとベンチャー仲間から依頼が集まる。関根喜之最高財務責任者(CFO)は「審査のハードルが低いわけではない。ベンチャーも財務戦略など体制を強化しないと金融機関を困らせるだけだ」と指摘する。

 金融機関とベンチャー双方の切磋琢磨(せっさたくま)が新スキームを本物にする。
日刊工業新聞2019年6月6日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
ピクシーダストテクノロジーズはシリーズBで10億円を融資で調達しましたが、シリーズAで融資調達できればシリーズBの投資による調達がもっと大きくなったかもしれません。融資する際のリスク査定が難しくなるぶん金融機関は大変かもしれません。金融機関は研究機関や大学などとアライアンスを組んで、科学技術や社会ニーズを調査しやすい関係を作っておいた方がいいように思います。根回しやなれ合ってしまうリスクはありますが、どのみちセカンドオピニオン程度では足りないです。また商工中金では外部から採用した人材が活躍したそうです。組織も人も変わっているんだなと思います。

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