「ウォークマン」発売40周年、進化する音楽の聴き方
ソニーが周囲の音と一緒に音楽を聴くワイヤレスヘッドセット
ソニーは耳をふさがない構造で周囲の音と一緒に音楽を聴けるワイヤレスステレオヘッドセット「SBH82D=写真」を6月8日に発売する。独自設計の音導管で音漏れを低減。鼓膜に直接音を届ける構造のため周囲の音が聞こえやすく、BGMのように音楽を楽しめる。全3色で、消費税抜きの市場推定価格は1万円前後。
重さは25・5グラム。軽さだけでなく、形状の工夫や3種類から選べるリングサポーターで長時間装着する際の快適性を高めた。長さはヘッドホンケーブルが210ミリメートル、ネックバンドは255ミリメートル。
近距離無線通信規格「ブルートゥース」に対応する。近距離無線通信技術「NFC」にも対応しており、機器とのブルートゥース接続が簡単にできる。マイク付きリモコンを搭載。ハンズフリー通話や音声検索機能などもある。1回の充電で7・5時間の連続再生が可能。
イヤホンやヘッドホンほど、価格帯の広いデジタル製品はない。100円ショップで売られる製品から100万円もする最高級品まであり、多くの人が自分好みの製品を常に身に付け、電車や街中、自分の部屋で好きな音に囲まれて暮らす。この日常風景はどうやって生まれ、人の生活をどう変えようとするのか。“音のパーソナライズ化”がもたらすものを、音楽と人を近づけてきたエンジニアと聴覚・脳の研究者の視点からひもとく。【第1部】は、1979年に発売した携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」で、音楽が人に寄り添う環境づくりをリードしてきたソニー。
ソニービデオ&サウンドプロダクツ(東京都品川区)でシニア音響アーキテクトを務める投野耕治氏は音楽と人の関係の変化について、「昔は良い音を鑑賞するという聴き方だったが、今は聴き方も音の範囲も広がっている」と説明する。音にこだわって聴く“音マニア”や、音楽でリラックスしたい人、スポーツをしながら聴きたい人―。良い音も人それぞれで、ライブ会場の大音量のロックや管弦楽演奏、教会音楽という人もいる。
これに合わせてヘッドホンも多様化した。ワイヤレスや肩掛けといった形状の違いから、周囲の騒音を聞こえにくくする「ノイズキャンセル」や高音質再生といった機能進化の違い。ソニーにはクラブ音楽向けのXBシリーズのように、個別の音楽に最適化した製品もある。特に「好きな曲を好きに聴きたいヘッドホン好き」(投野氏)の人は、高音質なハイレゾリューション(ハイレゾ)音源を好む傾向にある。
同社アコースティックエンジニアの井出賢二氏は、「エンジニアは『どこまでできるのかやってみたい』という思いが強い」と熱意を語る。
その最たる例が、18年12月発売のデジタルミュージックプレーヤー「DMP―Z1」だ。電池セル5個を使う独立電源システムにより、デジタル系とアナログ系の電源を分離。デジタル回路からアナログ回路へのノイズなど、音質劣化の要因を徹底的に減らした。価格は95万円(消費税抜き)と高額な上、簡単に持ち運べる大きさでもないが、顧客はついてくる。作り手と買い手との“幸せな関係”が多様化した製品を生み出した。
最近では、周囲の音とのバランスも製品開発のポイントになる。外の音とバランスをとる方法は2種類ある。一つは耳をふさがない構造の“ながら聞きイヤホン”。もう一つは、ノイズキャンセル機能で周囲の音をしっかり遮断しつつ、必要な時に外の音をマイクで集音してヘッドホン内に流す方法だ。
外の音をどの程度取り込むかは、手動だけではなく自動でも調整できる。スマートフォンと連携し、スマホの加速度センサーで人が「歩いている」や「止まっている」「乗り物に乗っている」などを判別。音楽に浸っても安全な時はノイズキャンセルをかけ、周囲に注意が必要な場面は外音を拾う。
エンジニアが目指す究極の音楽体験の追求が止まることはない。井出氏は、「オーディオ全体として、立体音響や没入感はますます注目される」と開発への意欲を語る。投野氏は、「その場にいるように感じる原音体験の再現には、まだまだやることがある」と探究心は尽きない。
同社は1月に米ラスベガスで開催された家電見本市「CES2019」で、空間音響技術を活用した全方位から音に包まれる音楽体験「360リアリティオーディオ」の提供を始めると発表。新しい技術進化が、また次の進化を呼ぶ。
重さは25・5グラム。軽さだけでなく、形状の工夫や3種類から選べるリングサポーターで長時間装着する際の快適性を高めた。長さはヘッドホンケーブルが210ミリメートル、ネックバンドは255ミリメートル。
近距離無線通信規格「ブルートゥース」に対応する。近距離無線通信技術「NFC」にも対応しており、機器とのブルートゥース接続が簡単にできる。マイク付きリモコンを搭載。ハンズフリー通話や音声検索機能などもある。1回の充電で7・5時間の連続再生が可能。
日刊工業新聞2019年5月16日
ソニーの技術者が語る「音と人の関係」
イヤホンやヘッドホンほど、価格帯の広いデジタル製品はない。100円ショップで売られる製品から100万円もする最高級品まであり、多くの人が自分好みの製品を常に身に付け、電車や街中、自分の部屋で好きな音に囲まれて暮らす。この日常風景はどうやって生まれ、人の生活をどう変えようとするのか。“音のパーソナライズ化”がもたらすものを、音楽と人を近づけてきたエンジニアと聴覚・脳の研究者の視点からひもとく。【第1部】は、1979年に発売した携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」で、音楽が人に寄り添う環境づくりをリードしてきたソニー。
『どこまでできるかやってみたい』
ソニービデオ&サウンドプロダクツ(東京都品川区)でシニア音響アーキテクトを務める投野耕治氏は音楽と人の関係の変化について、「昔は良い音を鑑賞するという聴き方だったが、今は聴き方も音の範囲も広がっている」と説明する。音にこだわって聴く“音マニア”や、音楽でリラックスしたい人、スポーツをしながら聴きたい人―。良い音も人それぞれで、ライブ会場の大音量のロックや管弦楽演奏、教会音楽という人もいる。
これに合わせてヘッドホンも多様化した。ワイヤレスや肩掛けといった形状の違いから、周囲の騒音を聞こえにくくする「ノイズキャンセル」や高音質再生といった機能進化の違い。ソニーにはクラブ音楽向けのXBシリーズのように、個別の音楽に最適化した製品もある。特に「好きな曲を好きに聴きたいヘッドホン好き」(投野氏)の人は、高音質なハイレゾリューション(ハイレゾ)音源を好む傾向にある。
同社アコースティックエンジニアの井出賢二氏は、「エンジニアは『どこまでできるのかやってみたい』という思いが強い」と熱意を語る。
その最たる例が、18年12月発売のデジタルミュージックプレーヤー「DMP―Z1」だ。電池セル5個を使う独立電源システムにより、デジタル系とアナログ系の電源を分離。デジタル回路からアナログ回路へのノイズなど、音質劣化の要因を徹底的に減らした。価格は95万円(消費税抜き)と高額な上、簡単に持ち運べる大きさでもないが、顧客はついてくる。作り手と買い手との“幸せな関係”が多様化した製品を生み出した。
立体音響に注目
最近では、周囲の音とのバランスも製品開発のポイントになる。外の音とバランスをとる方法は2種類ある。一つは耳をふさがない構造の“ながら聞きイヤホン”。もう一つは、ノイズキャンセル機能で周囲の音をしっかり遮断しつつ、必要な時に外の音をマイクで集音してヘッドホン内に流す方法だ。
外の音をどの程度取り込むかは、手動だけではなく自動でも調整できる。スマートフォンと連携し、スマホの加速度センサーで人が「歩いている」や「止まっている」「乗り物に乗っている」などを判別。音楽に浸っても安全な時はノイズキャンセルをかけ、周囲に注意が必要な場面は外音を拾う。
エンジニアが目指す究極の音楽体験の追求が止まることはない。井出氏は、「オーディオ全体として、立体音響や没入感はますます注目される」と開発への意欲を語る。投野氏は、「その場にいるように感じる原音体験の再現には、まだまだやることがある」と探究心は尽きない。
同社は1月に米ラスベガスで開催された家電見本市「CES2019」で、空間音響技術を活用した全方位から音に包まれる音楽体験「360リアリティオーディオ」の提供を始めると発表。新しい技術進化が、また次の進化を呼ぶ。
日刊工業新聞2019年3月28日掲載より加筆