モータースポーツ、加速する「Eの時代」
若者へ情報発信加速
国内自動車メーカーのモータースポーツ活動が新たな展開を見せている。日産自動車は日系自動車メーカーとして初めて電気自動車(EV)レース「FIAフォーミュラE選手権」に参戦中。ホンダの公道でレース車を走らせるイベントには多くの若者らが集まった。トヨタ自動車は「eモータースポーツ」といった裾野を広げる活動にも取り組む。技術の移り変わりはあるが、見る者を魅了するモータースポーツ活動の本質は変わらない。
晴天に恵まれた4月6、7日の東京・お台場。都内最大級のモータースポーツイベント「モータースポーツジャパン2019」には2日間で計10万4000人以上が訪れた。国内で人気のスーパーGTやスーパーフォーミュラのシーズン開幕直前でもあり、待ちきれない多くのレースファンでにぎわった。
会場では、トヨタや日産、ホンダなどのレース車を展示したほか、スーパーGTの車両やラリー車などのデモ走行も実施した。多くのファンがその迫力に見入っていた。KONDOレーシングの近藤真彦監督、チームトムスの舘信秀監督らによる軽妙な掛け合いのトークショーも会場を盛り上げた。
注目を集めていたのが、EVレース「フォーミュラE」に日系自動車メーカーで初参戦している日産のゾーン。4月6日のトークショーに立った日産チームの高星明誠選手は「多くの方に知ってもらいたくてさまざまなイベントにも力を入れている。銀座のパブリックビューイングにも足を運んでもらえたら」とフォーミュラEへの応援も呼びかけた。
「電動化を通じてテクノロジーを活用し、ドライビング体験をよりワクワクさせる」。日産のグローバルマーケティング、ブランド戦略を担当するルードゥ・ブリース常務執行役員はこう力を込める。日産にとって、フォーミュラEが達成しようとしていることと日産ブランドが目指すこととは「より密接な関係がある」と参戦の理由を語った。
フォーミュラEはEVでのレースであり、ゼロエミッションという環境への貢献や、公道を走るのでF1(フォーミュラ1)などと違ったスピードの体感、観客との距離が近く迫力を間近で感じられる。日産は参戦1年目だが、早くも結果は出てきた。3月に中国で開催された第6戦で日産チームのオリバー・ローランド選手が2位に入った。「今年は競争力をあるということを示したい」(ブリース常務執行役員)と力を込める。
当然、事業面での効果もある。日産が長年取り組んできた電動化技術をフォーミュラEのレース車に活用するとともに、エネルギー制御の最適化などレースのノウハウが市販車開発に生かされている。またフォーミュラEは地域活性化や環境都市としての発信に寄与するとの期待が高まっている。東京都がフォーミュラE開催へ向けた調査を開始するなど、さまざまな自治体が関心を示しているという。
ブリース常務執行役員は「EVはレースを通じて環境とワクワク感を両立できる」と強調する。フォーミュラEでは、電動化という時代になっても、モータースポーツが持つ本来の魅力が体感できるようだ。
F1のシーズン開幕前の3月9日、F1チームのレッドブル・ホンダがホンダ本社近くのイチョウ並木の道路でレース車を走らせた。イベントには、計1万人以上が集まり、森山克英執行役員は「若い方が多かった」と驚きを隠さなかった。「レース車を体感してもらえる場を提供すれば、ファンや車に乗る層は増やしていける」(森山執行役員)とモータースポーツの可能性を改めて感じていた。
F1の開幕戦は今季からホンダがエンジンを供給する「レッドブル・ホンダ」が3位に入賞。ホンダとして11年ぶりの表彰台に立った。「復帰4年が過ぎ、大分パワーも上がり戦えるなという手応えも感じている」(同)と士気も高まっている。
ホンダにとってモータースポーツの意義は大きい。F1でのエンジンなどのパワーユニットの先端技術や、国内のスーパーフォーミュラやスーパーGTでの軽量化技術などは市販車の開発にも生かされている。「最高峰の技術に取り組む技術者の育成にもつながる」(同)と強調する。
トヨタ自動車はガズーレーシングカンパニーでモータースポーツ活動を展開する。18年には世界耐久選手権(WEC)の第2戦となる、第86回ル・マン24時間レースで初の栄冠に輝いた。通算20回目の挑戦での初制覇。豊田章男社長は「悲願だった勝利を我々はようやく手にすることができた」と喜びをあらわにしていた。
道がクルマを作る―がトヨタの思想だ。レースを通じてクルマを鍛え、走行性能を上げる活動を続けている。スポーツカーの新型「GRスープラ」はレースの知見やノウハウを注ぎ込んだ。
19年もWECや、独ニュルブルクリンク24時間耐久レース、国内レースに参戦する。さらにコンピューターゲームの自動車競技「eモータースポーツ」に本格参入する。テレビゲーム機「プレイステーション4」用ソフトウエア「グランツーリスモスポーツ」のオンラインレース内で、スープラのみで競う「GRスープラGTカップ」を実施。クルマを操る喜びの裾野を広げる。
(文=山岸渉)
イベント、2日で10万人
晴天に恵まれた4月6、7日の東京・お台場。都内最大級のモータースポーツイベント「モータースポーツジャパン2019」には2日間で計10万4000人以上が訪れた。国内で人気のスーパーGTやスーパーフォーミュラのシーズン開幕直前でもあり、待ちきれない多くのレースファンでにぎわった。
会場では、トヨタや日産、ホンダなどのレース車を展示したほか、スーパーGTの車両やラリー車などのデモ走行も実施した。多くのファンがその迫力に見入っていた。KONDOレーシングの近藤真彦監督、チームトムスの舘信秀監督らによる軽妙な掛け合いのトークショーも会場を盛り上げた。
注目を集めていたのが、EVレース「フォーミュラE」に日系自動車メーカーで初参戦している日産のゾーン。4月6日のトークショーに立った日産チームの高星明誠選手は「多くの方に知ってもらいたくてさまざまなイベントにも力を入れている。銀座のパブリックビューイングにも足を運んでもらえたら」とフォーミュラEへの応援も呼びかけた。
日産 フォーミュラE参戦 環境配慮とワクワク感
「電動化を通じてテクノロジーを活用し、ドライビング体験をよりワクワクさせる」。日産のグローバルマーケティング、ブランド戦略を担当するルードゥ・ブリース常務執行役員はこう力を込める。日産にとって、フォーミュラEが達成しようとしていることと日産ブランドが目指すこととは「より密接な関係がある」と参戦の理由を語った。
フォーミュラEはEVでのレースであり、ゼロエミッションという環境への貢献や、公道を走るのでF1(フォーミュラ1)などと違ったスピードの体感、観客との距離が近く迫力を間近で感じられる。日産は参戦1年目だが、早くも結果は出てきた。3月に中国で開催された第6戦で日産チームのオリバー・ローランド選手が2位に入った。「今年は競争力をあるということを示したい」(ブリース常務執行役員)と力を込める。
当然、事業面での効果もある。日産が長年取り組んできた電動化技術をフォーミュラEのレース車に活用するとともに、エネルギー制御の最適化などレースのノウハウが市販車開発に生かされている。またフォーミュラEは地域活性化や環境都市としての発信に寄与するとの期待が高まっている。東京都がフォーミュラE開催へ向けた調査を開始するなど、さまざまな自治体が関心を示しているという。
ブリース常務執行役員は「EVはレースを通じて環境とワクワク感を両立できる」と強調する。フォーミュラEでは、電動化という時代になっても、モータースポーツが持つ本来の魅力が体感できるようだ。
ホンダ 公道でレース車走行
F1のシーズン開幕前の3月9日、F1チームのレッドブル・ホンダがホンダ本社近くのイチョウ並木の道路でレース車を走らせた。イベントには、計1万人以上が集まり、森山克英執行役員は「若い方が多かった」と驚きを隠さなかった。「レース車を体感してもらえる場を提供すれば、ファンや車に乗る層は増やしていける」(森山執行役員)とモータースポーツの可能性を改めて感じていた。
F1の開幕戦は今季からホンダがエンジンを供給する「レッドブル・ホンダ」が3位に入賞。ホンダとして11年ぶりの表彰台に立った。「復帰4年が過ぎ、大分パワーも上がり戦えるなという手応えも感じている」(同)と士気も高まっている。
ホンダにとってモータースポーツの意義は大きい。F1でのエンジンなどのパワーユニットの先端技術や、国内のスーパーフォーミュラやスーパーGTでの軽量化技術などは市販車の開発にも生かされている。「最高峰の技術に取り組む技術者の育成にもつながる」(同)と強調する。
トヨタ 耐久レースでクルマ鍛える ゲーム競技にも本格参入
トヨタ自動車はガズーレーシングカンパニーでモータースポーツ活動を展開する。18年には世界耐久選手権(WEC)の第2戦となる、第86回ル・マン24時間レースで初の栄冠に輝いた。通算20回目の挑戦での初制覇。豊田章男社長は「悲願だった勝利を我々はようやく手にすることができた」と喜びをあらわにしていた。
道がクルマを作る―がトヨタの思想だ。レースを通じてクルマを鍛え、走行性能を上げる活動を続けている。スポーツカーの新型「GRスープラ」はレースの知見やノウハウを注ぎ込んだ。
19年もWECや、独ニュルブルクリンク24時間耐久レース、国内レースに参戦する。さらにコンピューターゲームの自動車競技「eモータースポーツ」に本格参入する。テレビゲーム機「プレイステーション4」用ソフトウエア「グランツーリスモスポーツ」のオンラインレース内で、スープラのみで競う「GRスープラGTカップ」を実施。クルマを操る喜びの裾野を広げる。
(文=山岸渉)
日刊工業新聞2019年5月6日