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JAXAやインターステラも活用、クラウドファンディングが「夢の技術」研究を加速

「お金」をピンポイントに、個人の意識が変化
JAXAやインターステラも活用、クラウドファンディングが「夢の技術」研究を加速

ISSに搭載される自律移動型船内カメラ「イントボール」を利用し無線電力伝送技術を実証する(JAXA/NASA提供)

 クラウドファンディングによる研究資金の調達が注目されている。欧米ではすでに一般的な資金調達の手段として確立しており、日本でも利用が拡大している。国立大学運営費交付金など国から大学への研究費が減少傾向にある中で、社会の課題を解決するような研究に個人が資金を提供する仕組みはイノベーションを起こす大きなきっかけとなるかもしれない。(文=冨井哲雄)

民間ロケット打ち上げに2000万円


 クラウドファンディングとは群集による資金調達を意味する。インターネット上で自分の活動や夢を発信し、そこに共感した人々からお金を集める仕組みだ。海外では一般的な方法になりつつある。クラウドファンディングの支援事業を手がけるベンチャーのREADYFOR(レディーフォー、東京都文京区)の米良(めら)はるか最高経営責任者(CEO)は「日本でもクラウドファンディングの仕組みが広がり、一般の人の抵抗感もなくなってきている」と話す。

 この手段に注目が集まる理由の一つとして、お金の流れが明確であることが挙げられる。お金を出す人たちにとって自分が応援したい研究に確実に資金を提供できるメリットは大きい。

 宇宙関連の事例では、宇宙ベンチャーのインターステラテクノロジズ(北海道大樹町)が2018年8―10月、19年5月4日に大樹町から打ち上げた観測ロケット「MOMO(モモ)」3号機の打ち上げ費用をクラウドファンディングで調達。さらに4月11日には大樹町がふるさと納税制度の仕組みを利用したクラウドファンディングを始めている。同3号機の打ち上げの支援総額は約2000万円に達した。民間が主体で作ったロケットが宇宙に到達すれば日本初の試みとなるため、同社のロケットの打ち上げは常に多くの人々の期待を集めていた。

観測ロケット「モモ」3号機のイメージ(インターステラテクノロジズ提供)

 一方、クラウドファンディングのサイトを運営し、研究資金の調達の支援を手がける企業が出てきた。レディーフォーは17年1月から大学向けに特化したクラウドファンディングの支援事業を開始。17―18年の2年間で計43件、1億5000万円の調達に成功した。サイトに掲載するプロジェクトの8割程度で目標金額を達成しているという。

 さらに徳島大学では大学支援機構と協力し、国立大学で初めてクラウドファンディングのサイトの運営を17年から始めている。さらにアカデミスト(東京都千代田区、柴藤亮介CEO)は研究費の獲得に特化したクラウドファンディング事業を手がけている。

正確な海底地図を作る


 各機関でクラウドファンディングによる資金調達の成功事例が広がっている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、国際宇宙ステーション(ISS)での無線電力伝送技術の実証実験の資金調達にレディーフォーのクラウドファンディングを利用。4月11日までに300人から資金を調達し、目標を上回る465万円を調達した。JAXAがクラウドファンディングを利用し資金調達するのは初めて。

 ISSに搭載される自律移動型船内カメラ「イントボール」を利用し、無線での給電を実証。有線での電力供給に比べ、電力損失を3割程度に抑えられる。小型人工衛星内の機器の無線給電技術の適用が期待される。山川宏JAXA理事長は「クラウドファンディングで集めた資金を利用し開発を加速させられる」と強調する。

 さらに海底地図を作るという夢に対しクラウドファンディングで資金調達に成功した例もある。海洋研究開発機構を中心とする研究機関や企業など8機関に所属する若手の研究者や技術者からなる「チームクロシオ」は海底探査技術の国際競技「シェル・オーシャン・ディスカバリー・エクスプライズ」に参加。競技の関係者の旅費や海中ロボットの輸送機器の運搬などのため、アカデミストがクラウドファンディングによる資金調達を支援した。

 自律型海中ロボットなどを使い正確な海底地図を作る決勝戦が18年12月に行われた。無人で水深4キロメートルにある広域の海底を高速に探査し、得られたデータから海底地図を作成し事務局に提出した。米エクスプライズ財団から6月に結果が公表される見込み。

 日本では研究や教育などへの取り組みに寄付するという意識がなかなか根付かなかった。だがその意識が少しずつ変わりつつある。多くの人が応援したい人々に確実に資金を届けることで夢の技術が実現するかもしれない。

<インタビュー>レディーフォーCEO・米良はるか氏


 大学や個人などがクラウドファンディングで資金調達するケースが増えている。米良はるかレディーフォーCEOに日本でのクラウドファンディングの現状を聞いた。

 ―事業を始めた理由は。
 「挑戦したいが、人やモノ、資金の調達で苦労している人々をなんとか支援したいと思っていた。もともと研究者全体への尊敬の気持ちがあったこともあり、17年1月に筑波大と提携を結び、筑波大に資金を入れ研究室に戻す仕組みを構築した。公式な寄付金となるため、寄付者は税制優遇の対象となる。寄付が集まりやすい仕組みにした」

 ―資金を集めるために重要なことは何でしょう。
 「日本人は米国人のように夢を語る文化がなかったが、自分のことをブランディングして相手に伝えることがクラウドファンディングでは重要になる。資金を出す側に『この分野にピンポイントでお金を出したい』と思ってもらわなければいけない。そのためにお金の使い方など資金の流れの履歴をしっかり管理したい」

 ―将来の展望は。
 「民間などの資金が付きにくい基礎研究にお金が回るようにしたい。クラウドファンディングは個人が少しずつでもお金を提供できる仕組み。多くの人とお金をつなぎ、大きなインパクトを残すような事業を応援したい」
レディーフォーCEO・米良はるか氏
日刊工業新聞2019年5月6日

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