東芝・室町新体制で3人の“お目付役”はどんな考えの持ち主か
三菱ケミカル・小林氏、アサヒビール・池田氏、資生堂・前田氏。企業トップ経験者の社外取締役
前田新造・資生堂相談役 「『風のガーデン』で描かれた父子の関係を見ると、ほろ苦い気持ちになる」
日刊工業新聞2011年12月26日付「書窓」より
若いころは1日とか2日で1冊のペースで読んでいた。今でも週に1冊くらい何かしらの本を読む。ペースが落ちたのは時間がないことがもちろんだが、面白い本に出会うと物語の終わるのがもったいなく、ついつい“読み惜しみ”するからだ。高校生のころまで医者になりたいと思っていたこともあり、医療関係をテーマにした小説が好きだ。渡辺淳一の『光と影』、遠藤周作の『海と毒薬』、山崎豊子の『白い巨塔』などが印象深い。
社会派の作品も良く読む。中でも五味川純平の『人間の條件』が大好きで、全6巻を一気に読んだ。映画化され、大学2年生のときには新宿で行われたオールナイト上映を見に行った。全部で9時間半もかかったが、忠実に原作が再現され、とても感動した覚えがある。
近年に読んで一番感慨が深いのは倉本聰の『風のガーデン』だ。同名のテレビドラマをずっと見ていたのだが、放送中にシナリオ本が出たと聞いて購入した。ドラマでは緒形拳が演じた父親が、絶縁状態だった末期がんの息子を北海道の富良野で迎え、その最期をみとるのだが、状況は違うもののその親子関係に私と父の思い出を重ねていた。
ドラマの父親は無口で頑固者で息子への怒りや恨みにも似た感情を抱いているのだが、一方で息子への思慕や愛情は失っていない。私の父もしつけにはことのほか厳しく、普段は笑顔もみせない明治生まれの人間だった。ただ、もう50年近くも昔のことだが、私が高校入試に合格したとき、父は本当にうれしそうな笑顔をみせてくれた。そして「早く制帽と制服の金ボタンを買ってきなさい」と余るほどのお金をくれた。
その後、大学受験では東京の大学に進学することを決めたのだが、このときの父は「良かったな」と喜こんだものの、高校入学が決まったときと違い、諦念の目をした寂しい表情だった。私は末っ子で、兄と姉はすでに東京に出ていて、父は私にずっとそばにいてほしかったのかもしれない。このため、合格した喜びより、親の期待を裏切って上京する後ろめたさの方が強かった。
もう父が亡くなって30年近くが経つが、『風のガーデン』で描かれた父子の関係を見ると、あのころの父の気持ちはどうだったのだろうとほろ苦い気持ちになる。
日刊工業新聞2015年08月19日 1面の記事に加筆