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東芝・室町新体制で3人の“お目付役”はどんな考えの持ち主か

三菱ケミカル・小林氏、アサヒビール・池田氏、資生堂・前田氏。企業トップ経験者の社外取締役
東芝・室町新体制で3人の“お目付役”はどんな考えの持ち主か

左から前田氏、池田氏、小林氏。


池田弘一・アサヒビール相談役 「“とりあえずビール”はお客さまの信頼があってこそ」


日刊工業新聞2008年10月9日付「広角」より


 人材は育てて作り出すものだと思う。そしてリーダーは人を育てるのが仕事である。社長時代に現場の支社長などと話をすると「もっとよい人材をください」と言われた。そのとき私は「おまえはクビだ。もっといい人を自分で育てられないなら、管理職として失格だ」と言い返したものだ。

 人はある時大きく成長するきっかけに出会う。私は38歳の時に、突然千葉の酒類卸会社に出向を命じられた。ビール営業の最前線でかなりの好成績を上げ、自分でも自信を持っていただけに、異例の異動命令に大きなショックを受けた。
 
 しかし実際に行って見ると、そのエリアは成田国際空港開港を控えて市場が急拡大しており、会社も急成長で大いに活気づいていた。

 そこで私自身も部下を信頼して仕事を任せることを覚え、その結果その部下が成長していくのを目の当たりにした。「昨日まで甘ったれたことを言っていたやつが、今日はこんなことを言うようになったか」と、自分も部下も成功体験を実感することができた。

 また社長に就任してから労働組合の委員長と話しをした際、「スーパードライ」発売当時の話題になり「当時はスーパードライの大ヒットにより増産増産で毎日くたくただったが、翌日はまた喜び勇んで会社に行っていた。あの時は本当に充実していた」とうれしそうに言われた。人が成長するというのはこういうことなのだなとその時にも思った。

 私自身、会社生活を振り返ると不本意な異動が何度もあるなど、決して順風とは言えないものであった。しかしそんななかでもそこで折り合いをつけず、「自分はもっと出来るはず」と信じることで、次の展開が開けるのだということを、後輩たちにも分かってもらいたい。

 「また次がある」という対応では、せっかくの失敗が生かされない

 また、失敗をしない人は成功もしないと思っている。成功する人は何か新しいことに挑戦している。しかし新しいことをやるにはやはり失敗はつきものだ。だから成功している人は多くの失敗を背負っている。

 管理職は部下が失敗をしたら怒るのは当然だが、その時になぜうまくいかなかったのか、どうすればよかったのかを指摘してやらなければならない。失敗しても「いいよいいよ、また次がある」という対応では、せっかくの失敗が生かされない。

 当社には社員が営業の現場で感じたことや、お客さまからの声などを共有する「情報カード」という仕組みがある。そこには失敗事例もあり、仕事につまずいた時にそれを見ることで、自分と同じようなことで苦労している人が他にもいることを知ったり、解決策を得たりするような使い方ができるようになっている。

 当社は「スーパードライ」の成功で急成長し、その後も総合酒類メーカーを目指して、M&A(合併・買収)で他社の事業を傘下に収め、海外にも展開するなど、この数年で業容が大きく変わった。社員も途中入社あり、他社からの移籍組ありと多種多様になってきた。

 古株の社員の中には、「アサヒビールがシェア10%を切る時代を知らない今時の社員は苦労知らずだ」と言うものもいるが、私はその体験が本当に必要だとは思わない。「スーパードライ」世代の社員に対するお客さまからの評価のハードルは我々の時代に比べて格段に高くなっており、「スーパードライ」発売以前とは異なる苦労を経験している。

 さらに食品業界は今、消費者の厳しい目にさらされ、世界規模の業界再編の渦に巻き込まれざるを得ない厳しい市場環境となっている。それを見れば、今の方が苦労はずっと多いのかもしれない。

 私は「とりあえずビール」という言葉が大好きだ。お客さまがどんな時でもビールを選んでおけば満足できるという信頼感があるからこそ、そういう言葉がでるのだと思うからだ。

 さまざまな社員がおり、今後は海外の人員も増えていくだろう。しかし共通しているのは、これからも本当においしいものを提供する努力を続けていくということ。そしてそのなかでお客さまに喜んでもらい、我々も成長できるような市場を造っていきたいと願っている。

日刊工業新聞2015年08月19日 1面の記事に加筆
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
三人の言葉はとても示唆に富む。総花的なアドバイスではなく、それぞれある問題に絞って1点突破で執行と一緒になって経営改革に取り組んでもらいたい。

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