国交省審議官のオープンデータ論「つべこべ言わずに出すべし」

由木文彦氏インタビュー

 政府はオープンデータ政策を推進し、イノベーションの起爆剤とするデータ駆動社会の実現を目指している。しかし実際に、役所の意識は変わったのだろうか。民間がデータを利用することに対して、どんな考え方を持っているのか。由木文彦国土交通審議官に、私見を交えた将来のあり方を聞いた。

—オープンデータに対するご自身の基本的な認識から聞かせ下さい。

 「公的なデータを単に開示するだけではなく、ビックデータ、つまり、大量で多様なデータを迅速に提供することが、インターネットや人工知能(AI)のような新しい技術と組み合わさって可能性を広げるということだと考えています。そうした全体像を念頭に置いた上で、個人的な考えを交えて話をしたいと思います。ビッグデータの活用は、これまでにない新しい価値を生み出すものだと考えます。同時に、国交省の行政としても、自らオープンデータ化を進めることは大変重要な政策ツールになると認識しています」

 「交通を例にすれば、従来のようなタイムテーブル情報だけでなく、今、運行が遅れているのかどうか、天候はどうかなど複数の情報と組み合わさってリアルタイムにデータが更新される時代になってきました。これから東京の国交省を出て博多の親戚の家に行く場合に、最も早く着く最適解や、安い値段で行く最適解がすぐに示される。そのスピード感が重要です。今までの統計の報告書というデータとは完全に、質的に変わっていくと思います」

 「国交省との関係では、これまで構築した社会資本のストックをどう再生していくか、スマートシティを実現して都市をどう過ごしやすく、かつ生産性を上げる場として活用していくかなど、行政としての課題があるわけですが、それと親和性が高い。ビッグデータと、それを利用する環境自体が、新たな社会資本になっていくように感じています」

—これまでの行政経験で、データ利用の新しい形に気付いたことはありますか。

 「総合政策局長の時にバリアフリーに取り組み、思ったことがあります。車椅子の方が街に出た時にどこに障害があるかという情報は、実際に車椅子で移動した方たちが積み上げていくアプリデータがあります。別の例では、オストメイト(人工肛門等保有者)の方はどこで利用できるかとか、子供と一緒の時に入れるレストランや一緒に使えるトイレがどこにあるかとか。そうした情報が一人の経験のみでは不可能なレベルで集まっていて、しかも日進月歩で良くなっています」

 「行政の側でも、駅にはどういう施設があるかとか、どこの歩道なら段差がないかといったデータは結構、持っているんです。そういうものと組み合わせればより便利になる。これは期待できるなと感じました」

マインドセットの過渡期


公共交通分野におけるオープンデータ化が進んでいる(国土交通省提供)

—ただ省庁はあまり熱心ではないという批判もあります。車いすのデータだって民間団体などが自分で集めて蓄積したもので、行政のデータを利用したものではありません。

 「厳しい指摘ですね。残念ですが行政の側も、情報公開という従来の枠組みをひきずっている部分があります。オープンデータの世界は、『つべこべ言わずに(データを)出すべし』ということだと思うんです。役人も、そういうふうにマインドセットを変えないといけない。今はその途上にあると思います」

 「もう一つ、理解していただきたいのはコストの問題があることです。すでに持っているデータにせよ、これから集めるデータにせよ、デジタル化しなければ利用しにくい。それにはコストがかかります。出したデータが間違っていないかどうかメンテナンスしないといけないし、もし間違ったことが起きたらその処理も必要です。役所も、これからの施策は最初からデータを出すことが前提に変わってきています。マインドセットとコストの両方で過渡期だと思っています」

 「行政の立場でいえば、役人は基本的に自分で行政をしたいんです。自分のデータも自分で使いたい。社会に問題があると現状を自分で把握して、処方箋まで書くという癖がついているんです。データについては、これを超えて、政府全体が新しい法律で、原則外に出すこと、出せない場合はその理由を明示することをルール化しました。それを役所に浸透させていくことが必要です」

 「今までは、行政が集めたデータを出して特定の個人や企業が金儲けする、ということでいいのかという批判もありました。それを、基本的にはどんどん使ってもらって、儲かった分は税金で返していただくという考え方に立てば、データをオープンにする意味が納得できると思います」

—一方で、個人情報保護のようにデータ利用を制限する要素もありますね。

 「出せる情報は全部、出すべきです。しかしながら個人情報のように出せない情報もあります。役所として一番、難しいのは両者の中間にあたる情報の扱いです」

 「例えば高齢者や障害者がどこに住んでいらっしゃるか。災害時には極めて重要な情報です。それを普通の時に出せと言われれば『待ってくれ』という話になる。災害が来れば間違いなく必要です。そんなグレー領域がどうしてもあって、そこはルールを作らなければいけません。ある情報を出したら、それが別の情報と結びついて個人情報が分かってしまうようなリスクもあるでしょう。そういう技術的な問題も含めて、まだ試行錯誤の状態にあります」

 

『つべこべ言わずに出すべし』と話しオープンデータに前向きな由木文彦国土交通審議官も、一方ではオープン化に行政上の制約があることを認めている。しかし、いくつかの事例を聞くとそうした環境も徐々に変わりつつあるようだ。

—国交省の関連では、ハザードマップの公開がかねてから問題でした。

 「2004年の新潟県中越地震などを受けて、盛り土の宅地が崩れる危険があるという情報をハザードマップに載せる事業をやりました。ところが、その情報をなかなかオープンにできない。危険が明らかになると地価が下がって、土地が売れなくなるからです」

 「それが今は、かなりオープンにできるように変わってきました。反対する人は今でもいると思います。しかし、災害リスクが認知されてくると、世の中は変わるんですね。一度ダメになったから、ずっとオープンにできないというわけではなく、試行錯誤を続けて答えを出していかないといけないと感じます」

—行政の制約として、間違った情報は出せないし全国一律でないといけない。だからオープンデータに積極的になれない面はありませんか?

 「国の出したデータが間違っていたらどうするのか、あるいはデータを更新しないで古いまま流通してしまい、結果的に間違いに結びついてしまう。そういう問題は常にあります。統計データなどは時々刻々と変わるものもありますし、利用者から見てデータのアップデートが期待するほど早くないものもあるかもしれません。そこはデータの性格や利用目的に応じて対応を常に考えていくしかありません。外部の方からは行政のオープン化の意思がシュリンク(萎縮)したように感じられることもあるかもしれません」

 「あくまで個人的意見ですが、役所としても『こういう理由でデータを出せない』と考えるのではなくて、『叱られたら直せばいいからまずはデータを出そう』という姿勢で臨んだ方がデータ利用社会に適した感じがします。とりあえず出して、必要があれば後から修正することを社会に認めてもらえるようにならないでしょうか」

オープン化の期待に応える


「ビッグデータ社会のいいところは、複雑な世界を複雑なままで見ることができること」

—地図情報などは、民間にもデータが豊富にあります。公的なデータはすべて出した上で、民間が補完すれば、低コストで迅速なサービスが出来るのではないでしょうか。

 「データの性格や利用目的によるので、一概には言えませんが、行政としては『可能なことはここまでです』ということ示した上でデータを出していくのが基本になると思います。そこに民間のデータが加わって、ある範囲でビジネスに利用できるというなら、どんどんやっていただけばいい。一方では、国の権力行為にかかわるデータもあります。国境線を画定するとか、公的な給付水準を決めるとか、そういうものです。それは何年かごとの公的な調査の結果をそのまま使うという以外にはないと思います」

 「これも個人の意見ですが、民間が日常的に使うデータについては、民間がデータを積み重ねていって補正できるようなプラットフォームを官の力で整備していくことが、これからの世の中では必要になっていくのではないでしょうか」

—ウェブ上のウィキペディアのようなものが出来れば面白いですね。多くの人が参加すれば情報の精度向上が期待できます。

 「行政自らは今でも自身のデータを積極的に活用して政策を進めているんです。例えば道路であれば、ITS(高度道路交通システム)などの情報をもとに道路の渋滞予測を行うとか交差点の改良や高速道路の登坂車線を整備しています。今後は行政がすべての情報を集めてコントロールするのではなくて、他の有用な情報を含めて、全体をマネジメントし、取捨選択できるように変わっていく。それは多分、止められない流れです。そうなって国民の利益が増えるのなら、そうすべきです」

 「世の中は、本来複雑なものです。ビッグデータ社会が『いいな』と思うのは、複雑な世界を複雑なままで見ることができることです。人間はなにか出来事があると、原因があって結果があってという因果関係のモデルで説明しがちです。しかし世の中は、必ずしもそうじゃない形でなんとなく調和してできあがっていることがある。実際の人の行動の結果をありのままに見て、どうしようかと考えることが出来るようになります。道路設計を考える時、何度の勾配にしてR(曲線の半径)を何メートルにすると速度がこうなるはずだと計算するのが工学の世界。でも実際に人間が運転した車が走ったら、想定外の場所でブレーキを踏んでいることが分かったりします。それはとても意味があると思うんですね。少し観念的ですが」

—国交省のデータのオープン化は進んでいるのでしょうか。

 「政府におけるオープンデータの推進状況について公表していますが、実は国交省は各省平均よりやや少ないんです。紙の書類はどっさりあって、道路や公共事業の図面は昔は全部紙でした。公共工事の施工管理のデータだって写真を撮ってアルバムに貼っていました。今までデジタルでないものをデジタル化するのは時間とコストがかかります。また、データを加工しないで生データだけを出すべきかどうか、悩ましい問題もあります」

 「昨年(2018年)開かれた内閣官房の『オープンデータ官民ラウンドテーブル』で、役所のこんなデータが欲しいという希望を民間の方と議論しました。その時に国交省に寄せられた希望がすごく多かったんです。交通データなどは必ずしも役所ではなくて事業者が持っているケースも多いのですが、交通機関には公的な役割があるので希望が多かったのだと思います。ほかにも交通事故関係のデータとか、災害関連データや地質データなどの希望もありました。国土交通省としても『公共交通分野におけるオープンデータ推進に関する検討会』を立ち上げたり、『インフラ・データプラットフォームの構築』を始めるなど、官民あげてオープンデータの推進に向けた機運醸成を図っているところです」

由木文彦国土交通審議官のメッセージ

■プロフィール
ゆき・ふみひこ 1960年島根県生まれ。83年建設省入省。国土交通省都市・地域整備局都市計画課長、京都市副市長、内閣官房行政改革推進室参事官、内閣官房審議官、国土交通省大臣官房総括審議官、住宅局長、総合政策局長を経て、2018年7月より現職。執務室には、出向経験がある福島県と、故郷、島根県のポスターを飾る。紙の本のページをめくる感覚が名残惜しく、ほぼ毎週末図書館に通う。幅広く手に取るが、特にミステリーや時代小説を愛読。

明 豊

明 豊
04月25日
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GRASP。次回のテーマは「激甚化する自然災害にいかに向き合うか」。防災や避難のあり方を多面的に検討します。

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