紙幣刷新「特需」に虎視眈々の企業たち

現金決済に再び脚光か

 財務省は9日、日本銀行券(紙幣)のうち1万円札、5千円札、千円札で新様式を製造すると発表した。偽造抵抗力の強化が狙い。併せて500円硬貨の素材なども変更する。新たな偽造防止対策として、現行のすき入れに加え、高精細すき入れ模様を導入する。新しい肖像は、1万円札が日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一、5千円札が現津田塾大学創始者の津田梅子、千円札が医学者・細菌学者の北里柴三郎になる。2024年度上期をめどに流通させる。

自販機・ATM・釣り銭機などに追い風


 紙幣刷新は、自動販売機や現金自動預払機(ATM)、紙幣・硬貨釣り銭機など関連業界に特需をもたらしそうだ。富士電機やグローリー、日本金銭機械などが機器の交換需要を享受する。クレジットカード決済などによるキャッシュレス化が進展する中、今回の刷新をきっかけに現金決済が再び脚光を浴びそうだ。

 富士電機は国内の飲料缶・ペットボトル自販機で約5割のシェアを握る大手。「紙幣刷新の詳細はまだ分からないが、紙幣の読み取り装置を交換することになりそう」(広報)と前回の2004年以来の特需に期待は大きい。

 一方、こちらも機器交換の特需が期待できそうなATMメーカーの口は重い。「現在は状況把握に努めている。紙幣の詳細な仕様や現物調査をするまではどんな対応が必要か分からない」(国内ATM関係者)と言葉少な。金融機関は管理コストのかさむATMの統合へ動きだしており、紙幣刷新による交換費用の追加発生に言及しにくい雰囲気が漂っているようだ。

 大手の富士通フロンテックも、主な取引先である金融機関の動き次第で見通しが立てづらいとする。1行につき1社が納入するシングルベンダー方式が主流ではなくなり、市場の動きを予測しづらくなったことが背景にある。

自動販売機は、紙幣読み取り装置の交換需要が生まれる見込み

 設置後7―10年が経過した機種については、機器の更新を提案する機会になるという。04年の際も古い機種では機器交換の需要が発生した。

 同社によると、絵柄の変更程度であれば大幅な改修とはならず、04年ほどの影響は発生しないと見ている。紙幣の大きさの変更や判別に関する新技術の導入がある場合は、技術面での対応が必要になるという。

キャッシュレス化で先読めず


 紙幣・硬貨釣り銭機や紙幣両替機などを手がけるグローリーは、04年の新紙幣の際、発表から流通まで約2年という限られた時間の中、対応に追われた。同社は「今回は5年後の流通なので前回より時間に余裕がある。紙幣の詳細が分かってからの対応になるだろう」(コーポレートコミュニケーション部)と話す。

 機器の中には、紙幣が本物か偽物かを識別する読み取り部がある。新たな紙幣ができると、読み取りに必要なソフトウエアへ、新紙幣を識別するプログラムを追記する必要がある。

 同社は「ソフト容量に追記の情報量が入らなければ、機器内部の電子基板を変更するなどハード面の変更が必要になる」とみており、「現時点の情報では既存機器で対応できるかは未定だ」(同)という。

04年3月期からの3カ年で機器の更新需要も含め約900億円の特需が発生したグローリー。「前回同様の特需になるか分からないが、何らかの影響があるのではないか」(同)とみる。

 遊技場など娯楽施設向けの紙幣装置を主力とする日本金銭機械も有力銘柄。金融機関や流通関連などの紙幣鑑別機も手がける。新紙幣について金融や流通、交通関連向けの釣り銭機などで需要が見込まれる。

 ただ、「キャッシュレス化が加速することもあり、(紙幣関連装置需要の)先行きは読みにくい」(経営企画部)とする。04年の刷新時は紙幣サイズが変更されたため、機器の入れ替え需要があった。

肖像画3人、ゆかりの大学で歓喜も


 新紙幣の肖像画に選ばれた3人は、大学や日本の科学技術にゆかりが深い。渋沢栄一は一橋大学や東京経済大学の設立に関わり、津田梅子は津田塾大学の創立者。北里柴三郎は北里大学の学祖。ノーベル生理学医学賞を受賞した大村智さんが北里大の特別栄誉教授を務める。3人の名を冠した表彰制度は、学術だけでなく産業分野の功績もたたえる。

 津田塾大の高橋裕子学長は9日、「大変光栄。津田梅子は女性の社会参画の機会を拡大したパイオニア。梅子のバトンを着実に引き継ぎ『変革を担う女性』たちをこれからも力強く育てたい」との内容のコメントを発表した。同大に通う地方出身の学生も「地元では大学の知名度がなく『塾イコール予備校』と勘違いされることも。お札になることで有名になる」と喜んだ。

 柴山昌彦文部科学相は同日の閣議後会見で渋沢栄一について「理化学研究所にゆかりがある人物。『論語と算盤』という著書もあり、経済倫理にも心を砕いた」と述べた。

 津田については「女性の社会進出や社会人の学び直し(リカレント)教育が取り上げられる中で素晴らしい人選」と語り、北里についても「細菌学の父として大きな功績を持っている」とたたえた。

渋沢栄一の生地(埼玉県深谷市)

 平井卓也科学技術担当相も閣議後会見で「渋沢さんは資本主義を日本に紹介したというイメージだが、日本の素晴らしい先人、科学者がお札になることは次の世代の励みになる」と期待した。

 渋沢が設立者総代だった理化学研究所の松本紘理事長は9日、日刊工業新聞のインタビューで「近代日本の立役者で理研にゆかりのある人物が選ばれたことは、いいニュースだと思う」と話した。

 埼玉県は2000年度に郷土の偉人を顕彰する「渋沢栄一賞」を創設、02年度からは全国の企業経営者が対象になり日刊工業新聞社も後援する。県内中小企業を表彰する「渋沢栄一ビジネス大賞」も11年度から始めた。

 津田塾大は10年に創立110周年を記念して「津田梅子賞」を創設。先駆的活動を展開した女性を表彰し、IBMの浅川智恵子フェロー、オリンパスの唐木幸子研究開発センター診断技術開発部長らが受賞している。さらに日本感染症学会は「北里柴三郎記念学術奨励賞」を設けて優れた研究者を表彰する。
津田塾大学(東京都小平市)

北里柴三郎の生家(熊本県小国町)

日刊工業新聞2019年4月10日

  

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