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大手志望だけが原因ではない、就活生を地方に振り向かせる処方箋

一企業から一地域への「就域」に活路
 新卒採用で地方企業が苦戦を強いられている。学生の安定志向が強まったことで地方就職を希望する学生が減少。人手不足による企業の人材獲得競争の激化も追い打ちをかけている。その中で、地方企業の新卒採用を促すため、就職支援サイトや政府による支援が進められている。

 マイナビの調査によると、2019年3月に卒業予定の学生7127人のうち、地元での就職を希望した割合は前年度比1.0%減の50.8%。9年前の調査と比較すると10%以上減少している。企業が採用に積極的な売り手市場の継続が見込まれていることや、先行きの不透明感による安定志向から、多くの就活生が大手企業を志望する傾向にある。

 さらに、地方就職を検討する学生の数も減少傾向にある。同社によると、19年3月に卒業予定の学生で、地元での就職(Uターン就職も含む)を希望、または検討していた学生は59.6%(18年4月時点)。2年連続の減少で、ついに6割を下回った。一因は、就職活動期間の短期化。同社就職情報事業本部の高橋誠人マイナビ編集長は、「大手企業の選考が3―4月のわずか2カ月間に集中している。選考が重なって忙しい学生は中小企業の情報収集まで手が回りにくい」と指摘する。

 そのため、多くの中小企業は大手・中堅企業の選考が落ち着く時期を狙って採用活動を本格化せざるを得ない。しかし、他社の内定を得たまま就職活動を続ける学生から内定を辞退されるケースも多い。高橋編集長によると、「地方の有力企業でさえも新卒採用の充足に不安を覚えている」状況だという。 

 このような地方企業の苦境を背景に、地方企業の情報発信を支援する取り組みが始まっている。就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアは、地方自治体や地元企業が一丸となって採用に取り組む「就域」を提示。企業単体ではなく、地域単位の情報発信を後押ししている。

 就域では、地域内の中小企業が地方自治体や地方銀行と連携して、合同の企業説明会や採用担当者の情報交換会などを実施する。リクルートキャリアでは、支援プロジェクトを通じて兵庫県の但馬地域や北海道の十勝地域など5地域の就域を支援している。合同説明会では、志望学生の希望を聞き分けて別の企業を紹介するなど、地域単位での採用機会の損失も防いでいるという。

 同社の調査機関である就職みらい研究所の増本全所長は、「地方企業は知名度の競争で苦戦を強いられる。地域という大きな枠組みを作ることで、企業情報の検索だけでは出会いづらかった学生とも接点が生まれやすい」と利点を説明する。


 政府も人口の一極集中を緩和するため、地方企業の採用活動の支援に取り組んでいる。その一つが、厚生労働省の「LO活」だ。満員電車の回避や、家族・友人との距離の近さから、地方就職に関心を抱く就活生と地方企業の確実なマッチングを図る。

 LO活では、都市部の大学で地方就職に関するセミナーなどを開催して、地方企業に就職するための活動方法を助言する。また、専門のウェブサイトでは就職活動の交通費や奨学金などを支援する企業の情報や、地方で就職した人へのインタビュー記事なども掲載している。LO活を運営するパーソルテンプスタッフの伊藤悠氏は、「地方企業への就職活動は(都市部での就職を希望する)周りの人と同じやり方が通用しない。どのように動けばいいのか、見本の提示に務めている」と語る。18年度は、約800人(2月時点、既卒者を含む)がLO活を通じて地方企業に応募した。

 一方で、伊藤氏は「(学生の地方就職を強く促す)処方箋はまだ見つかっていない」とため息を漏らす。地方就職に興味を抱く就活生でも、情報収集に消極的であれば必要な情報が手に入りにくく、企業側の努力だけでは克服できないからだ。ただ、その上で「(企業側が)待ちの姿勢では何も解決しない。試行錯誤を続けて効果的な解決策を探し続けるしかない」と指摘する。
LO活のホームページより
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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
リクルートキャリアの増本所長へ取材した時に「地元産業についてよく知らなければ学生はなかなかUターンしづらい」という話が挙がりました。地元就職は考えてるけど詳しい情報を得る機会が少ない、知らないから戻ることを諦める、という連鎖を断ち切る必要があるとは思いますが一筋縄ではいかなさそうです。

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