土俵際の国内太陽電池メーカー、起死回生託す“最後のとりで”
海外勢の勢い止まらず
日本の太陽電池メーカーが苦境に立たされている。2000年代初めに世界市場を席巻した日本メーカーはシェアを後退させ、牙城だった国内市場でも海外勢とのシェア逆転が迫る“土俵際”まで追い込まれた。最後のとりでが住宅用太陽電池だ。太陽電池と他の機器を組み合わせて家全体のエネルギーを最適化するシステムに起死回生を託す。
2月末、東京都内で開かれた展示会場は、中国や台湾の太陽電池メーカーのブースであふれていた。対照的に地元・日本メーカーの姿はかすんでいた。
「初めて名前を聞くメーカーが、まだ日本市場に参入してくる」。海外製太陽電池を輸入販売する日本企業の幹部は、衰え知らずの中国・台湾勢に脱帽する。太陽光発電協会によると、18年10―12月期の太陽光パネルの国内出荷量に占める輸入品は74%。12年の同期は30%だったので海外メーカーの躍進ぶりがうかがえる。
海外メーカーからOEM(相手先ブランド)供給を受ける日本企業も多い。ブランド別だと14年10―12月期の日本企業のシェアは68%だったが、直近の18年10―12月期は52%まで低下した。海外勢は自社ブランドも伸ばしており、シェアが均衡する。
振り返ると00年代初めはシャープ、京セラ、パナソニック(当時は三洋電機)、三菱電機の日本4社が世界上位に入っていた。10年代になると巨大な生産能力を持つ中国メーカーに世界大手の座を明け渡したが、国内市場は日本メーカーの独壇場だった。
それが12年に再生可能エネルギーで発電した電気の固定価格買い取り制度(FIT)が始まると勢力図が一変した。需要を見込んだ海外勢が雪崩を打って日本市場に参入し、世界大手が顔をそろえた。FITによって建設ラッシュが起きた大規模太陽光発電所(メガソーラー)は太陽光パネルが数十万枚と搭載されるため、コスト力のある海外製が独占した。それでも日本メーカーには余裕があった。「日本企業には技術力があり、性能では負けない」という声が多く聞かれていた。
しかし海外勢の勢いは止まらず、日本メーカーだけが生産縮小に追い込まれた。日刊工業新聞社の調査によると京セラは15年度に120万キロワットの販売を記録したが、今は60万キロワット前後となった。パナソニック、ソーラーフロンティアなども生産拠点を集約化した。逆にハンファQセルズ(韓国)やカナディアン・ソーラー(カナダ)が100万キロワット以上を供給するまでになった。
技術での優位性も揺らぐ。基幹部品である太陽電池セル内部を透過した太陽光を取り込んで発電に使う技術は、海外メーカーが先行して標準採用した。セルを短冊型にして高電圧化する技術、セル表面に極細配線を成形する技術も海外メーカーが次々に実用化。どれも製造工数が増えてコストアップとなる。高い加工精度も要求されるが、海外メーカーはこなしている。
日本メーカーの技術革新が途絶えていると感じる関係者は多い。カナディアン・ソーラー・ジャパン(東京都新宿区)の山本豊社長は「日本の技術は2世代遅れの印象。残念ながら研究・開発への投資をほとんどしていないのでは」と指摘する。山本社長は中国メーカーの日本法人代表も含め10年以上、日本の業界に精通する。
太陽光発電システム販売大手のエクソル(京都市中京区)の鈴木伸一社長も「中国メーカーは自国に巨大市場があり、設備投資費を回収できるのでコスト削減を継続できる。研究開発投資も続けられる」と分析する。鈴木社長は三菱電機出身で、太陽光発電協会の事務局長も務めた。
国内の太陽電池市場は19年以降、再びピークを迎える。着工が遅れていた発電所が次々と稼働するためだ。「21年まで大きな発電所の建設が続く。コスト力を持つ外資が太陽電池を供給する」(山本社長)と見通しており、日本勢は引き離されそうだ。
ただし「住宅用は日本ブランドが強い」(同)と認める。日本メーカーは工務店を通した販売・保守網を時間をかけて築き上げてきており、外資は簡単に参入できない。実際、パナソニックは住宅用の販売を伸ばしている。太陽電池と他の機器を組み合わせた提案の効果だ。同社は18年度、蓄電池も前年度比60%増の年1万台の販売を見込んでおり、ソーラーシステム商品営業部の庄野善雄部長は「早くから蓄電池の提案をしてきた成果」と強調する。
シャープ、三菱電機、京セラも太陽電池の電気を家全体で最適に使う人工知能(AI)システムを提案する。鈴木社長も「エネルギー制御などで日本企業は強みを発揮できる」と各社の取り組みに太鼓判を押す。
発電事業用では海外勢に太刀打ちできず、住宅用が日本メーカーの生き残りのカギとなっている。太陽電池と他の機器を組み合わせたシステムでは、海外メーカーの追随を許さない研究・開発の継続が求められる。
日本で存在感を増す中国メーカーの1社がトリナ・ソーラーだ。世界3位に入る大手で、日本最大のメガソーラーに太陽電池を納入するなど評価を高めている。高紀凡最高経営責任者(CEO)に躍進の理由を聞いた。
―日本に参入した10年前と現在の違いは。
「非常に変化した。10年前、トリナの知名度はなかったが、今は日本でのシェアが10%に迫ると思う。19年は日本で前年比20%増の販売を目標とする」
―日本で成功した理由は。
「多品種の製品を発売し、発電効率も向上させてきた。19年もマルチバスバー(網目状の極細配線)のパネルを発売予定だ」
―毎年、新商品を出せるのはなぜですか。
「顧客の収益向上につながるからだ。我々は技術のリーダーを目指しており、発電効率の世界記録を18回樹立し、1400件以上の特許を出した」
―日本メーカーは国内市場を悲観的に見ています。
「売電価格の低下は恐れることではない。電力の完全自由化を控える日本市場はチャンスだ。太陽光発電を増やす政府方針もあり、新しい製品・サービスを提供できる」
国内、シェア逆転迫る
2月末、東京都内で開かれた展示会場は、中国や台湾の太陽電池メーカーのブースであふれていた。対照的に地元・日本メーカーの姿はかすんでいた。
「初めて名前を聞くメーカーが、まだ日本市場に参入してくる」。海外製太陽電池を輸入販売する日本企業の幹部は、衰え知らずの中国・台湾勢に脱帽する。太陽光発電協会によると、18年10―12月期の太陽光パネルの国内出荷量に占める輸入品は74%。12年の同期は30%だったので海外メーカーの躍進ぶりがうかがえる。
海外メーカーからOEM(相手先ブランド)供給を受ける日本企業も多い。ブランド別だと14年10―12月期の日本企業のシェアは68%だったが、直近の18年10―12月期は52%まで低下した。海外勢は自社ブランドも伸ばしており、シェアが均衡する。
振り返ると00年代初めはシャープ、京セラ、パナソニック(当時は三洋電機)、三菱電機の日本4社が世界上位に入っていた。10年代になると巨大な生産能力を持つ中国メーカーに世界大手の座を明け渡したが、国内市場は日本メーカーの独壇場だった。
それが12年に再生可能エネルギーで発電した電気の固定価格買い取り制度(FIT)が始まると勢力図が一変した。需要を見込んだ海外勢が雪崩を打って日本市場に参入し、世界大手が顔をそろえた。FITによって建設ラッシュが起きた大規模太陽光発電所(メガソーラー)は太陽光パネルが数十万枚と搭載されるため、コスト力のある海外製が独占した。それでも日本メーカーには余裕があった。「日本企業には技術力があり、性能では負けない」という声が多く聞かれていた。
しかし海外勢の勢いは止まらず、日本メーカーだけが生産縮小に追い込まれた。日刊工業新聞社の調査によると京セラは15年度に120万キロワットの販売を記録したが、今は60万キロワット前後となった。パナソニック、ソーラーフロンティアなども生産拠点を集約化した。逆にハンファQセルズ(韓国)やカナディアン・ソーラー(カナダ)が100万キロワット以上を供給するまでになった。
技術での優位性も揺らぐ。基幹部品である太陽電池セル内部を透過した太陽光を取り込んで発電に使う技術は、海外メーカーが先行して標準採用した。セルを短冊型にして高電圧化する技術、セル表面に極細配線を成形する技術も海外メーカーが次々に実用化。どれも製造工数が増えてコストアップとなる。高い加工精度も要求されるが、海外メーカーはこなしている。
日本メーカーの技術革新が途絶えていると感じる関係者は多い。カナディアン・ソーラー・ジャパン(東京都新宿区)の山本豊社長は「日本の技術は2世代遅れの印象。残念ながら研究・開発への投資をほとんどしていないのでは」と指摘する。山本社長は中国メーカーの日本法人代表も含め10年以上、日本の業界に精通する。
太陽光発電システム販売大手のエクソル(京都市中京区)の鈴木伸一社長も「中国メーカーは自国に巨大市場があり、設備投資費を回収できるのでコスト削減を継続できる。研究開発投資も続けられる」と分析する。鈴木社長は三菱電機出身で、太陽光発電協会の事務局長も務めた。
日本勢、販売・保守網強み
国内の太陽電池市場は19年以降、再びピークを迎える。着工が遅れていた発電所が次々と稼働するためだ。「21年まで大きな発電所の建設が続く。コスト力を持つ外資が太陽電池を供給する」(山本社長)と見通しており、日本勢は引き離されそうだ。
ただし「住宅用は日本ブランドが強い」(同)と認める。日本メーカーは工務店を通した販売・保守網を時間をかけて築き上げてきており、外資は簡単に参入できない。実際、パナソニックは住宅用の販売を伸ばしている。太陽電池と他の機器を組み合わせた提案の効果だ。同社は18年度、蓄電池も前年度比60%増の年1万台の販売を見込んでおり、ソーラーシステム商品営業部の庄野善雄部長は「早くから蓄電池の提案をしてきた成果」と強調する。
シャープ、三菱電機、京セラも太陽電池の電気を家全体で最適に使う人工知能(AI)システムを提案する。鈴木社長も「エネルギー制御などで日本企業は強みを発揮できる」と各社の取り組みに太鼓判を押す。
発電事業用では海外勢に太刀打ちできず、住宅用が日本メーカーの生き残りのカギとなっている。太陽電池と他の機器を組み合わせたシステムでは、海外メーカーの追随を許さない研究・開発の継続が求められる。
電力完全自由化で商機 トリナ・ソーラーCEOの高紀凡氏
日本で存在感を増す中国メーカーの1社がトリナ・ソーラーだ。世界3位に入る大手で、日本最大のメガソーラーに太陽電池を納入するなど評価を高めている。高紀凡最高経営責任者(CEO)に躍進の理由を聞いた。
―日本に参入した10年前と現在の違いは。
「非常に変化した。10年前、トリナの知名度はなかったが、今は日本でのシェアが10%に迫ると思う。19年は日本で前年比20%増の販売を目標とする」
―日本で成功した理由は。
「多品種の製品を発売し、発電効率も向上させてきた。19年もマルチバスバー(網目状の極細配線)のパネルを発売予定だ」
―毎年、新商品を出せるのはなぜですか。
「顧客の収益向上につながるからだ。我々は技術のリーダーを目指しており、発電効率の世界記録を18回樹立し、1400件以上の特許を出した」
―日本メーカーは国内市場を悲観的に見ています。
「売電価格の低下は恐れることではない。電力の完全自由化を控える日本市場はチャンスだ。太陽光発電を増やす政府方針もあり、新しい製品・サービスを提供できる」
日刊工業新聞2019年4月3日