地域住民の健康づくりに有効!?官民連携の新たな仕組み「SIB」の可能性

徳島県美馬市でスタート

 地域が直面する課題や行政サービスに対するニーズが多様化する一方で、厳しさを増す自治体の財政事情-。打開策として注目されているのが、民間の資金やノウハウを行政が活用し、社会課題の解決につなげる新たな手法だ。「ソーシャルインパクトボンド(SIB)」と呼ばれるこの手法で、地域住民の健康にコミットする新たな取り組みが近く、徳島県美馬市で始まる。

Jリーグクラブから運動指導


 今月2日。美馬市の市地域交流センターに、市職員約30人が集まった。7月から始まる健康プロジェクトに向けた事前講習会だ。
 このプロジェクトは美馬市と大塚製薬、サッカーJ2・徳島ヴォルティスがSIBとして実施する健康増進事業。参加者はヴォルティスのコーチから週1回、ストレッチ中心のトレーニングを8週間受ける。運動後にはコンディショニング栄養食「ボディメンテゼリー」も活用。ヴォルティス側では、蓄積されたデータなども活用し、プログラムを他の地域や企業などに広げる計画だ。

 これまでに実施した事前講習では「仕事の合間にこまめに身体を動かすようになった」といった声が上がっているという。市では5年間で1800人の参加を目指しており、参加者の半数が65歳以上で運動習慣定着などの改善効果がみられた場合、医療費や介護給付費への効果が約1500万円と試算する。

 Jリーグクラブによるヘルスケア分野でのSIBとしては全国初の今回の取り組み。市はプログラムの運営はヴォルティスに委託するが、報酬の一部は成果連動型。プログラム終了後3週間後も参加者が、運動を継続しているかどうかや介護予防チェックリストの改善効果を評価した上で支払われる仕組みだ。ヴォルティスの報酬は成果次第で年60万円上積みされる。「プログラムを通じて、『美と健康のまちづくり』のお手伝いができれば」。連携協定の締結式で徳島ヴォルティスの岸田一宏社長は意気込みを語った。

他の事業でも実施


 「最初からSIBに強い関心があったわけではありません。大塚製薬さん、徳島ヴォルティスさんからの提案を受け、検討を重ねる過程で民間のアイデアや創意工夫を生かせるこの手法に対する関心が高まっていったのです」。美馬市企画総務部の吉田正孝次長は取り組みの経緯をこう語る。「成果を意識しない委託事業が多い中、(成果に応じて事業者に委託料を支払う)この仕組みを、他の事業へも生かせないかと考えるようになりました」(同)。2019年度からは、SIBではないがこうした成果連動型の発想を、シルバー人材センターが取り組む高齢者の雇用促進の補助金事業に生かす構えだ。

 SIBとは、社会的課題解決のための事業を民間資金で実施し、課題解決につながったと判断された時点で、自治体が資金提供者に支払いを行う成果報酬型契約の仕組み。教育や福祉などで用いられる「社会的インパクト投資」の一つとされ、行政は初期投資を民間資金で賄うことで財政リスクを抑えながら、成果が期待できる新たな取り組みを進められる利点がある。

 この手法が直面する自治体にとって、民間ノウハウの活用手段として期待されており、SIBに関するシンポジウムや勉強会はどこも盛況だ。
 

自治体の8割が「関心」


 日本総合研究所が全ての地方公共団体を対象に2018年1月に実施した調査によると、SIBの導入や検討などすでに具体的なアクションを起こしている自治体は興味・関心を持っているとの回答も含めると約8割に上る。関心のある課題領域としては美馬市の事例が象徴するように「高齢化」「健康」が圧倒的に多い。

 英国で始まったSIBの仕組み。日本では一部パイロット事業やモデル事業が実施されてきたが、機関投資家や個人投資家から資金調達する本格的なSIBの先駆けとなったのは、兵庫県神戸市と東京都八王子市の取り組みだ。神戸市は糖尿病性腎症の患者を対象に重症化や人工透析への移行を予防する事業、八王子市は大腸がん健診の受診率向上事業に取り組んだ。

連携協定を結んだ美馬市、徳島ヴォルティス、大塚製薬の3者。(2018年11月)

神崎 明子

神崎 明子
03月31日
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地域に根ざすクラブチームにとっても今回の取り組みは、健康を軸に住民との接点が増えファン獲得につながることが期待されます。

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