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「『軽』にここまで必要か?」、日産と三菱自が共同開発した新モデルの先進性

「ファーストカー」利用照準
「『軽』にここまで必要か?」、日産と三菱自が共同開発した新モデルの先進性

「eKクロス」を紹介する益子三菱自CEO(左)と竹内涼真さん

 日産自動車と三菱自動車は28日、共同開発した軽自動車の新モデルをそれぞれのブランドで発売したと発表した。軽自動車を唯一所有する「ファーストカー」として利用する消費者の増加に対応し、自動運転など先進技術を多く搭載したのが特徴。自動車業界で日産は自動運転技術の競争で先頭集団におり、その成果を三菱自と分け合った格好となる。一方、三菱自は培った軽生産技術を生かしコスト低減に貢献した。

 新型軽は日産「デイズ」、三菱自「eK」の6年ぶりの全面改良モデルとなる。基本性能は同じで、内外装デザインで両社の個性を出した。

 最大の売りは自動運転・安全機能が充実したことだ。高速道路の単一車線で走る・曲がる・止まるを自動で行う自動運転機能のほか、踏み間違い衝突防止支援、事故時に自動でオペレーターに発信する緊急通報システムなどを用意した。

 日産の川底順哉日本商品企画部リージョナルプロダクトマネージャーは「『軽にここまで必要か?』という議論はあったが、最終的に盛り込んだ」と明かす。背景にあるのは軽の使われ方の変化。軽しか所有しない消費者が増え、日常の買い物からレジャーの遠出まで役割が広がっている。星野朝子日産専務執行役員は、デイズについて「安全・便利・快適・ワクワクを実現すべく開発した」と力を込める。

 日産は自動運転技術を搭載したミニバンを世界で初めて2016年に投入するなど同技術に注力し、自動車業界で優位を保ってきた。日産と三菱自の共同開発の軽では、初代は三菱自が開発、生産ともに主導した。2代目となる今回は、開発は日産がリードする形に改め、車両の電子システムも三菱自仕様から日産仕様に切り替えた。これにより登録車で実績を積んだ日産の先進の自動運転技術「プロパイロット」を導入できた。三菱自のeKでは「マイパイロット」の名称で展開する。

 一方、先進技術をつぎ込めば車両価格は上がってしまう。ここで知恵を絞ったのは三菱自。設計段階から三菱自の生産技術を反映させることで、試行生産を専用工場ではなく、水島製作所(岡山県倉敷市)の量産ラインで実施し工程を短縮するなど工夫し、全体のコストを削減した。

 車両価格は日産デイズのグレード「ハイウェイスターX」のプロパイロット標準搭載モデル(2輪駆動)は156万7080円(消費税込み)で、標準搭載なしのモデルとの差は10万円以下に抑えている。「日産の先進技術と三菱自の生産ノウハウを融合した」と益子修三菱自最高経営責任者(CEO)は胸を張る。 

 新開発したエンジンには仏ルノーの基盤設計を採り入れており、新型軽は3社連合の深化の証でもある。月販目標はデイズは8000台、eKは4000台。軽市場でのシェアは日産は10%前後に留まる状況が続き、三菱自は3%程度に留まる。

 新型デイズ、eKでシェアを高められるかは、連合の共同事業の成否を測る物差しでもある。
(文=後藤信之、渡辺光太)
日刊工業新聞2019年3月29日

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