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金融で勝負、「不動産テック」提唱者の2つの挑戦は実るか

NRIとケネディクスのJV「ビットリアルティ」本格始動
金融で勝負、「不動産テック」提唱者の2つの挑戦は実るか

2件目の投資対象となった東京・六本木のホテル(ビットリアルティ提供)

 インターネットを通して個人が不動産に投資できる不動産クラウドファンティング(CF)のプラットフォームを運営するビットリアルティ(東京都港区)が本格始動した。東京・六本木のホテルを投資対象にした2件目の案件が、3月18日に満額を達成した。募集総額は、試行的に実施した1件目の5倍に上る約5億円だったが、投資家は順調に集まった。同社を旗揚げした谷山智彦取締役は2件目の成立を踏まえて「まだまだ歩き始めたばかりの段階だが、新しい不動産投資市場を真摯に切り拓いていきたい」と力を込めた。

 野村総合研究所(NRI)上級研究員だった谷山氏が2017年6月に不動産ファンド運営大手のケネディクスとジョイントベンチャー(JV)「ビットリアルティ」を旗揚げした理由は二つある。一つは株式などと価格連動性が低く、分散投資の効果が得られる個人向けのオルタナティブ投資市場を日本に根付かせ、資産を安定して運用できる環境を整えること。もう一つはシンクタンクの研究員として、IT(情報技術)を活用して不動産業を変革する「不動産テック」の勃興の可能性を提唱していた中で、自ら事業者になり、それを証明したいと考えたことだ。

 不動産テックは16年頃から注目され始めた。不動産関連業務の効率化という面でIT活用は進んだが、「業界を変革するような新しい不動産ビジネスの誕生というフェースはまだこれから」。NRI初のJVを設立した提唱者の挑戦は実を結ぶか。

真のオルタナティブ投資市場を創造


 ビットリアルティは都心のAクラスビルなどを対象に最低100万円からで投資家を募集する。実物不動産を小口化してファンドを設立し、一定の金融リテラシーを持つ投資家向けにミドルリスク・ミドルリターンの投資機会を提供する。今後、案件を増やして年100億円規模の不動産投資を扱う体制を目指す。

 個人向けの不動産投資市場は現状、「アパート経営かJリートしかない。前者は多額の資金が必要で、後者は株式市場と連動して価格が変動する。(分散投資の効果が得られる)真のオルタナティブ投資市場がない」(谷山氏)。このため、この市場を創造して投資家の需要を喚起し、自ら摘み取る構えだ。

 目標はプラットフォームを大きくするだけではない。谷山氏は「ベンチャー企業が提供する新しいテクノロジーサービスなどを貪欲に取り込み、面白い世界観を作りたい」と意気込む。人工知能(AI)やビッグデータ(大量データ)分析を活用してロボットが投資について助言したり、投資ポートフォリオを提案したりするイメージだ。AIなど多様な先端テクノロジーを生かしてイノベーションを生み出す「土台」の運営企業として業界の変革を狙う。

研究者からプレーヤーに


 研究者でありながら、事業のプレーヤーとしての挑戦を決心したのは16年8月。谷山氏は当時、NRIの上級研究員として不動産業者向けに年間約60回もの講演を行い、不動産テックの可能性を説いていた。その中で多くの聴講者から「それだけ熱弁するのなら自分で事業をやればよい」と指摘されるようになった。この言葉に感じた「しょせんは研究者」というニュアンスに発奮し、プレーヤーとなって不動産テックの可能性を自ら証明したいという思いが湧き上がっていた。そんな折に、聴講者でもあったケネディクスから共同事業の提案があり、プレーヤーへの一歩を踏み出した。

              

 不動産CFの領域で勝負する考えは、共同事業の話が持ち上がる前から持っていた。「仮に不動産テックのプレーヤーになるならSI(システムインテグレーター)大手であるNRIのリソースを使った新規事業で挑みたいと考えていた。不動産の『金融』分野か『流通』か『情報』かを検討する中で、NRIのリソースを最も生かせる『金融』は自然の選択肢だった」。こうした考えを基に、ケネディクスとJVを立ち上げ、不動産CF事業を展開する構想を固めた。

社内説得に1年半


 ただ、NRIでのJV立ち上げは一筋縄ではいかなかった。NRIにはJV設立の前例がなく、不動産業は門外漢だったため、当初は大半の役員から賛成が得られなかった。それでも地道に各役員の下に通い、1年半をかけて説得した。「社内の意思決定のプロセスにはこれほど多くの階段があるのかと打ちのめされる日々だった。『いざとなれば退社して起業すればよい』という覚悟と開き直りがあったからやり遂げられた」。

 一方、説得を繰り替えす1年半は直属の上司など一部の賛同者に支えられた。実はその中には此本臣吾NRI社長も名を連ねていた。説得作業が佳境を迎えた17年5月に届いたメールは特に思い出深いという。そこにはたった1行『石にかじりついてでもやり遂げろ』と記されていた。「多くの役員に何度も提案を突き返されていた当時の自分にとって強い励ましになった」。

 長い助走を経て、本当の勝負のスタートを切ったビットリアルティの今後が注目される。
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葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
野村総合研究所はビットリアルティ設立以降、KDDIとの「KDDIデジタルデザイン」やJALとの「JALデジタルエクスペリエンス」などジョイントベンチャーを立て続けに設立しています。谷山さんの努力はそうした道を切り開いたのかもしれません。

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