トヨタも参画、月面探査へ日本の現在地は?

有人拠点構想も動き出す

 人類が月へ活動領域を本格的に広げようとしている。米国が中心となって進める月を周回する「月近傍有人拠点」(ゲートウェー)構想が具体化し始め、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)も参加する方向で調整する。日本の技術力をオールジャパン体制で生かすため、従来の宇宙開発メーカーに加え、トヨタ自動車といった大手企業やベンチャーとも協力。宇宙探査の基盤技術の確立を目指す。

【月近傍有人拠点】月を周回する有人拠点。2026年ごろの完成を目指し、米航空宇宙局(NASA)が中心となって進めており、居住スペースや発電設備などを備える。月面の探索や開発だけでなく、火星有人探査の中継基地としての役割も視野に入れる。


日米欧など、共同声明


JAXA、居住・補給で貢献
 5日、米国や日本、欧州、カナダ、ロシアが参加する国際宇宙ステーション(ISS)計画の会合で、月近傍有人拠点の開発に向けた共同声明が採択され、併せて各国の技術的な役割分担の案が出された。

 JAXAは二酸化炭素(CO2)除去技術などを利用し居住空間を作ることを目的とした「有人宇宙滞在技術」や、ISSへの物資補給船「こうのとり」の技術を基にした「深宇宙補給技術」を担うことになった。

 人類の宇宙での活動拠点であるISSは、2024年までの運用が決まっているものの、その後は商業利用を前提に民間へと管理を移管する流れが想定されている。各国の宇宙活動の拠点は、地球上空約400キロメートルを周回するISSから舞台を移し、地球から約38万キロメートル離れた同拠点となる。計画では4人の宇宙飛行士が常駐し、月面着陸を目指す。さらに地球からは見えない月の裏側の観測やロボット技術を利用した月面着陸機の遠隔操作などをする。28年までに月面に基地を構築する計画もある。

 共同声明では、「国際パートナーおよび産業界による有人宇宙探査への参加、研究、技術開発を可能とし、月周回と月面における人類の持続的な活動の基盤となる」と同拠点を位置付ける。その上で、「宇宙探査での新たな成果をもたらし、月以遠の持続的な探査に向けた次のステップとなり、科学技術の国際協力の象徴として次世代を鼓舞する」と期待している。

 実は日本は同拠点に参加する方針は示しているものの、正式な参加表明には至っていない。柴山昌彦文部科学相は「有識者などにより同拠点の費用対効果を議論していきたい」としている。巨額の費用が予想される同拠点の開発・建設費の具体的な費用分担が決まっておらず、あくまで慎重な立場だ。

 すでにカナダは2月に正式な参加表明をしており、ISSに搭載したロボットシステムで培った技術を同拠点に生かそうとしている。同拠点に参加すれば宇宙開発や産業への波及効果だけではなく、日本人宇宙飛行士が月面に降り立つことも夢ではない。政府の決断が待たれる。

水の探索、ベンチャーも参画


 一方、月の探査では日本は世界をリードする一角だ。17年10月には、JAXAの月周回衛星「かぐや」搭載のレーダーが月に巨大な地下空洞を発見したと発表している。将来の月面基地候補になる。

 さらに21年度には誤差100メートル以内のピンポイント着陸を目指す月着陸実証機「SLIM(スリム)」の打ち上げを計画。23年度にはインドと共同で月面に着陸し資源の可能性を検討する「月極域探査」、26年度には月面の試料を採取し地球に持ち帰る「HERACLES(ヘラクレス)」の探査機の打ち上げをそれぞれ計画する。

月着陸実証機「スリム」の月着陸のイメージ(池下章裕氏提供)

 民間も月探査ビジネスの実現を目指す。宇宙ベンチャーのアイスペース(東京都港区)は21年にも月着陸船を月周回軌道から月に着陸させ、探査車(ローバー)で月面を調査する予定だ。

 月で最も大きな資源は60億トンともいわれる水。同社は水を求めて多数のローバーを月面で展開し、水を探すという構想を打ち立てている。水は飲料だけでなく、水素としても活用できる。

 同社の袴田武史最高経営責任者は、「水資源を確保し月面基地ができれば、定期的に地球との輸送便ができる。40年には1000人が月で暮らせるのではないか」と話す。同社が掲げる壮大な“ムーンビレッジ(月の村)”構想の一環だ。

 同社と米3機関が合同提案した月面輸送サービスはNASAのプログラムに採択されており、同社は月探査ビジネスの拡大を狙う。

トヨタの先端技術、月で磨く


 月近傍有人拠点とは別にJAXAはトヨタと組んで月面探査に乗り出す。トヨタは燃料電池車(FCV)技術を活用し、ローバーを開発する。狙いは主に2点ある。燃料電池(FC)技術の用途拡大と、過酷な環境下での車両開発を通じた高度な技術ノウハウの蓄積だ。

 トヨタはJAXAとの共同開発の発表を通じ、リチウムイオン電池よりも質量が5分の1で容積も20%減らせ、空気汚染の低減にもつながるといったFCの有用性をアピール。寺師茂樹副社長は、「長距離移動や月面での長い夜にも対応できるFC技術を磨かないといけない。水素社会の絵を描けるのではないか」と期待を込めた。技術の高度化だけでなく、プロジェクトを契機にFCへの注目が高まれば、普及への追い風となる。

握手を交わす若田光一JAXA理事(左)、寺師茂樹トヨタ副社長

 また月面は地球との重力が異なる上、昼と夜の温度差が激しく、細かい砂状の粒子「レゴリス」にも覆われるなど過酷な環境だ。探査機がスムーズに走るには、車体バランスや車輪の制御などの高度な技術が必要だ。開発を通じて車両開発力の向上も見込める。

 将来の自動運転社会も見据える。寺師副社長は「耐久性や信頼性といったリアルの技術とFC技術、ここに自動運転や人工知能(AI)といったバーチャルの技術を加えた総合力の勝負。実現すれば開発中の車にも応用できる」と説明した。

 宇宙線にも耐えられるセンシング技術など課題は多いが、月面で通用するモノができれば、地球の道路に落とし込む技術的ハードルは下がる。

 30年以降の未来は、月への移動が今より身近なものになっているかもしれない。「モビリティーカンパニー」へのシフトを宣言し、あらゆる移動に関わるサービスを視野に入れるトヨタにとって、その一歩となりうる月面探査に布石を打つのは自然な話だろう。すぐにはビジネスにつながらなくても、「夢のある話だ」(トヨタ幹部)。自動車メーカーとしての知見をどう生かし、宇宙ビジネスに関わっていくのか注目される。
(文=冨井哲雄、名古屋・政年佐貴恵)
トヨタとJAXAが共同開発するローバーのイメージ(トヨタ提供)

日刊工業新聞2019年3月18日

  

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