根本治癒や個人に最適化も…新しい「花粉症対策」の可能性

国民の4分の1を救う

 花粉の襲来が本格化している。国民の4分の1が花粉症ともいわれ、日本で一番患者数が多いアレルギー疾患だ。マスクや眼鏡による予防や、くしゃみや目のかゆみといったアレルギー症状を薬の服用で抑えるのが一般的な治療法だ。こうした中、根本的な治療や個人に最適化した予防法などを提案する、新しい花粉症対策の研究が進んでいる。

腸内フローラ 免疫分子活用でアレルギー反応抑制


 近年、アレルギー症状との関係が注目されるのが腸内の細菌群「腸内フローラ」だ。腸内フローラが、生活習慣病やがんの発症に関係していることが報告されている。東京大学の新蔵礼子教授は、腸内の免疫分子を活用し、粘膜バリアーを増強すると同時にアレルギー反応を抑制する新たな治療戦略を研究する。

 新蔵教授が注目するのは腸の粘膜に存在する「IgA抗体」だ。IgA抗体は腸管腔に分泌されて体にとって害となるものを認識し、腸の細胞を病原菌など外敵の攻撃から守っている。

 現在の治療では、アレルギー症状や炎症といった免疫が過剰に働いた状態を抑えるために、全身の免疫を抑制する手法がとられる。しかしこの治療法では本来必要な免疫機能まで抑制されるのに加えて、炎症の原因が体内に残っていると、治療後に症状を繰り返してしまうことがある。

 IgA抗体は病原菌などの外敵を認識して結合し、活性を押さえ込むが、炎症反応を起こす細胞を引き寄せずにそのまま体外へ排出させる特徴がある。そのため、IgA抗体を活用すれば炎症で細胞を傷つけることなく、体にとって有害な細菌などを取り除くことができる。

 一方でIgA抗体がない状態や、もしくはIgA抗体の働きが悪いと外敵に対するバリアーが弱くなるため、腸の細胞が傷付きやすくなり、免疫が過剰に反応して炎症が起きる。腸内で起きているこうした慢性的な炎症が、花粉症をはじめとするアレルギーにも関係している可能性があるという。

 IgA抗体は、腸管腔だけではなく口や鼻、目などの粘膜にも分泌されている。新蔵教授は「抗体をつくる免疫細胞『B細胞』が、炎症に関わる『IgG抗体』や『IgE抗体』ではなくIgA抗体だけを作るように誘導する化合物を見つけた。この化合物を目や鼻の粘膜にスプレーしてIgA抗体を増やす薬剤の開発を目指している」と話す。

スマホアプリ 効率的に重症化を防止


 花粉症の重症化リスクの特定や効果的な予防法の解明について、新たな試みが始まっている。順天堂大学の猪俣武範助教は、2018年に花粉症患者向けのスマートフォン用アプリ「アレルサーチ」の配信を開始した。花粉や微小粒子状物質(PM2・5)の飛散量の情報が見られるのに加え、全国の利用者から現在の花粉症レベルの情報がリアルタイムで提供される。スマートフォンのアプリを使って、手軽に花粉症症状の重症化を防ぐのが狙いだ。

 さらに猪俣助教は、このアプリで得られたデータを活用して患者個人に最適な予防対策を提案する研究を進めている。アプリ利用者はまず年齢や性別、生活習慣や病気の既往歴、そして普段の目の状態といった情報を登録し、その後、目の赤みや花粉症の症状などを日々記録する。こうした情報を解析することで、何が原因で症状が悪化するのか、効率的な予防方法は何かが個別に分かるようになるという。

 スマートフォンアプリを使った研究について猪俣助教は「被験者は毎日病院に来る必要もなく、多くの人が参加しやすいという利点がある。頻回にデータが集められるので、個人に対してビッグデータが構築される」と話す。

 アレルサーチは現在までに約8000人が使用しており、20年の花粉シーズンで予防策の提案ができるように解析を進める。

 花粉症は全国に3000万人いるとされ、労働生産性の低下や重症化した場合の医療費など経済損失は5000億円を超えるともいわれている。薬剤による対症療法が一般的だが、今後、個人に最適化した予防や根治を目指した薬剤など、花粉症対策が多様化しそうだ。
アプリ画面イメージ(順天堂大提供)

(文=安川結野)

日刊工業新聞2019年3月5日

  

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