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ナガシマスパーランドの横に“農園”が誕生した理由

6次産業でレジャーランドに新たな魅力
ナガシマスパーランドの横に“農園”が誕生した理由

1800本ものオリーブを植樹。収穫の時を待つ

 長島観光開発は、三重県桑名市の旧長島町の一帯でレジャー施設や宿泊施設、商業施設などが集まった「ナガシマリゾート」の運営を手がけている。ナガシマリゾートの年間来場者数は約1530万人。その中核を担う遊園地「ナガシマスパーランド」は、国内屈指の“絶叫マシンの聖地”として名高い。そんな同社はいま、レジャースポットに農業を融合させることで新たな魅力を生み出そうとしている。

温泉から一大レジャースポットへ


 長島観光開発の創業は1963(昭和38)年。旧長島町で天然ガスを採掘していた創業者の大谷伊佐氏(故人)が源泉を掘り当て、翌年の1939年に温泉施設「グランスパー長島温泉」を開業した。開業当初は1日で1万5000人ほどの利用を見込んでいたが、予想以上に人気を博した。旧長島町の1帯は、もともと有識者から「地質学的に源泉はない」と言われていた地域。「当時は周辺に温泉施設が少なく、名古屋市から近かったこともあり多くの人が訪れたようだ」と水野正信社長は振り返る。

 その後、温泉を待つ利用客に待機時間を楽しんでもらうため、1966年にナガシマスパーランドを開園。大型プールや絶叫マシンなどを相次ぎ導入。若年層やファミリー層の支持を集めた。さらに、「より多くの人に足を運んでもらうためには親子3世代で楽しめる工夫が欠かせない」(水野社長)と、高級和風旅館やゴルフ場、アウトレットモールなど、ライフスタイルの変化や流行に合わせて施設を拡充してきた。

 水野社長は、1973年に長島観光開発に入社。以来、開発事業で土地取得の交渉などに携わってきた。入社のきっかけは、学生時代に見たドキュメンタリー番組。「たしか、ナガシマスパーランドが開業して間もないころの番組だった。そこに映っていた大谷氏の姿がとても印象的だった」(同)。
水野正信社長

オリーブに込められた想い


 温泉に始まり、遊園地やホテル、アウトレット、パーキングエリアなど第3次産業の事業を展開した長島観光開発。ナガシマリゾートは、国内でも有数の売上高を記録するレジャースポットに成長した。

 同社では、「旧長島町一帯のリゾート化」の実現に向けて新たな試みに取り組んでいる。その一つが、2017年に営業を開始した観光農園「ナガシマファーム」を通じた6次産業への参入だ。リゾート内で農作物を栽培し、来場者向けに収穫体験のプログラムを提供。さらに、食品に加工して施設内の飲食店のメニューや土産物として販売して楽しんでもらうことで、レジャースポットに新たな価値を見いだす。

 現在のナガシマファームでは、ナガシマスパーランドに隣接した約5万8500平方メートルの広大な土地で、2種類のイチゴと1800本のオリーブの木を育てている。ハウス栽培のイチゴは、イチゴ狩りを楽しめるほか、ナガシマリゾート内のレストランで食材として提供されている。オリーブの木が十分に成長した暁には、ナガシマリゾート産のオリーブオイルとして提供・販売を本格化する。

 一連の取り組みについて、水野社長は「(旧長島町の一帯は)もともと木曽川と長良川、揖斐川に囲まれた砂地で、創業者が『緑が少ない』と嘆いていた。現会長が緑化に造詣が深く、もともとはリゾート内の緑を増やしたいという思いで施設名にちなんだオリーブを植えた」と語る。ナガシマファームが営業を始めて約1年。水野社長は、「息の長い計画で畑としてはまだこれからだ」としているが、桑名市の新たな魅力としてブランド化の構想を描く。

誰からも愛される場所に


 国内では、2019年のラグビーW杯や2020年の東京五輪・パラリンピック、2025年に大阪で開催される国際博覧会(万博)など世界的なビッグイベントが続く。観光産業に期待が寄せられる中で、水野社長は今後について「多くの人が楽しめる健康的で大衆的なレジャー施設でありたい」と語る。

 外国人観光客の取り込みを念頭に、全国の自治体によるカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致にも社会の関心が集まっているが、「ナガシマリゾートの目指す姿に一致するとは限らない」(同)と一線を画す。世代や国の枠を超えて誰からも愛される施設として、創業来の理念を貫く構えだ。

 2019年春には、木と鋼鉄を組み合わせた日本初の複合型コースター「白鯨」の開業を控えている。白鯨は、多くの人に惜しまれつつも営業を終了した木製コースター「ホワイトサイクロン」の後継機。一面に広がるオリーブ畑の奥で、完成間近の巨大な白色の構造物が悠々とそびえている。「真っ白な外観はライトアップした時の姿が特に美しいんですよ」(水野社長)と開業を心待ちにしている。
【企業情報】
▽所在地=三重県桑名市長島町浦安333▽社長=水野正信氏▽創業=1963年12月▽売上高=260億円(2016年度)

コンシェルジュの目


          

【中部経済産業局 地域振興室長 末吉敏弘氏】
 当地域出身の者にとって「長島温泉」と言えば、地域の多くの人たちが何度も訪れるレジャーの代名詞であり、地方でありながら全国区のメジャーな歌手が常にライブを開催する別世界のような場所でした。地元でなじみが深いナガシマスパーランド(長島観光開発)を支援する仕事をさせていただくことになろうとは、云十年前?の私は夢にも思っていませんでした。

 キラーコンテンツである温泉リゾートや遊園地の飽くなき開発にとどまらず、アウトレットモールや6次産業等多角展開を実現するなど、時代を先読みした事業を実施しており、その取組の中に地域未来投資促進法のメニューを有効に活用し、国内のみならず、国策であるインバウンドの増加・取り込みにもいち早く対応しておられます。今後も癒やしの空間を創出し続ける“夢のエリア”として輝き続けることでしょう。

 東海地域はものづくりに強みがある地域ですが観光産業等の様々な分野への支援も引き続き実施して参ります。(談)
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
真っ白なジェットコースターの足元にオリーブ畑が広がる風景はとても不思議でした。成長するとどのような光景に変わるのか、どのような商品やサービスが生まれるのかとても楽しみです。

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