ニュースイッチ

“スマート農業”が探るビジネスチャンス

各地で開発・実証実験が加速、ビジネスモデル構築の動きも
“スマート農業”が探るビジネスチャンス

新潟市のプロジェクトでは、井関農機製の収量センサー付きコンバインで稲を刈り取り、取得したデータをアグリノートで一元管理する

 人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)、ロボットなどの先端技術を駆使したスマート農業が加速している。各地域で開発・実証実験プロジェクトが進む中、新たなビジネスモデルとして構築する動きも出ている。スマート農業は、農家の生産性向上や農業の担い手不足解消の切り札となるか。動向を探った。

生産性向上・人手不足解消の切り札


 北海道でスマート農業の実現を目指す任意団体「スマート農業共同体(SAc)」が2018年11月、発足した。情報通信技術(ICT)やIoTなどの技術やシステムを有する企業と農家などの生産者をネットワークし、農業のICT化や6次産業化を進める。1月上旬までに60社・団体が参加した。

 SAcは「コントラクト」「ドローン」など5部会を設けて課題を検討する。スマート農業のほか、農業の分業化による農業経営の近代化・大規模化や就農支援などにも取り組む。SAcのステアリングコミッティ委員長、サングリン太陽園(札幌市白石区)の北浜宏一社長は「農業を最も夢のあるビジネスにしたい」と語る。

 新潟市は18年5月に「スマート農業 企業間連携実証プロジェクト」をスタートした。同市と井関農機、同社の販売会社であるヰセキ信越(現ヰセキ関東甲信越、茨城県阿見町)、産業用リモートセンシングサービスを展開するスカイマティクス(東京都中央区)、国際航業(同千代田区)、グーグルマップ上で農業記録を作成できるシステム「アグリノート」を開発したウォーターセル(新潟市中央区)が連携した。

 プロジェクトのメーンに据えたテーマは「水稲の栽培管理」。井関農機とヰセキ関東甲信越が提供した情報通信技術を駆使した農機で田植えや収穫をし、スカイマティクスはドローンを用いて、国際航業は人工衛星からリモートセンシングを実施する。収穫量や肥料の与えた量などの情報はアグリノートで一元管理する。「アグリノートに全て集めることで、データが見える化でき、データを活用した農業が可能になる。どれだけ数量がアップするか、生産コストを下げられるかにも道筋を付けやすくなる」と市の担当者は説明する。

 現在はアグリノートを普段から使用している米八(新潟市南区)で、県の新品種「新之助」の生育で実証実験中。実証実験用の場所(面積計7200平方メートル)と、通常の方法で栽培する場所(同1000平方メートル)を設けて2年をかけて比較検証中。「現時点まで順調に進んでいる」と市の担当者。今後も実験を進めて、さらなる可能性を探る。

栽培管理方法、数値化して分析


イチゴのビニールハウス内に設置して環境情報を自動計測するセンサー(千葉県山武市)

 イチゴ狩りシーズンが始まった千葉県山武市内のイチゴ園で、IoTを活用してイチゴ栽培を効率化する実証実験が進められている。同実証実験は千葉県の「スマート農業導入実証事業」の一環で、NTT東日本千葉事業部などが参画。センサーやカメラ、通信機器などをセットで提供するNTT東の農業向けIoTサービスをイチゴ狩り農園の小手苺園(千葉県山武市)に導入し、その有効性を検証している。

 18年10月に始まった同実証実験では、ビニールハウス内に設置した環境モニタリングセンサーや小型カメラでハウス内の環境データやイチゴの生育データを自動で計測。データは常にクラウド上に蓄積し、関係者間で共有する。

 従来は農家の経験や勘に頼っていた栽培管理方法を数値化して分析することで、収穫量の増加などに結びつけるのが狙いだ。

 これまでに、ハウス内の二酸化炭素濃度を一定に保ってイチゴの栽培環境を最適化することなどに、計測データが役立ったという。NTT東は今後、実証実験の成果を農家対象の勉強会などで報告しながら、農業向けIoTサービスの認知度向上を図る方針だ。

収穫に適したサイズ判断


アスパラガスの成長を判断し1本15秒で収穫する(佐賀県)

 佐賀県では人工知能(AI)を搭載したロボットがアスパラガスの収穫を始める。同県鹿島市にオフィスを開設したベンチャー、inaho(神奈川県鎌倉市)と農家による実証で2月からの予定だ。

 同社は野菜の自動収穫ロボットを軸に農業支援を目指すアグリベンチャー。ロボットを販売するのではなく、貸し出して収穫に応じた手数料を得るビジネスモデルを目指す。

 ロボットは線に沿って進むライントレースによる自走式。収穫に適したサイズの野菜をAIが画像で判断、アームでつかんで切断して容器に載せる。アスパラガスの場合、1本15秒で収穫できる。アームを変えれば形状が異なる作物でも1台で対応する汎用性が強みだ。

 収穫の際に目視で成長度合いを判断する必要がある作物は作業に時間がかかる。ロボット導入で農家はブランディングや品質向上などにかける時間が生み出せる。

 inahoは農業が基幹産業の一つである九州でのロボット普及に「まずは大きな市場を取りにいく」と意気込む。

 19年はアスパラガスとキュウリに焦点を当てる計画。鹿島オフィスはロボットのメンテナンスだけでなく、収穫した野菜を使う料理教室など農家と地域の交流企画も手がける考えだ。
(文=札幌支局長・村山茂樹、新潟・山田諒、千葉・陶山陽久、西部・増重直樹)
日刊工業新聞2019年2月4日

編集部のおすすめ