公共インフラ維持のカギは赤ちゃんが握る

出口 治明氏に聞く。「日本がとるべき政策は1から9までずっと少子化」

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 国や地方の厳しい財政状況が続く中で、道路や橋、トンネル、鉄道、ダム、公共施設などのインフラの維持・管理が問題になりつつある。高度経済成長期に全国に作られたインフラが老朽化した時、すべてを補修したり作り直したりするのは困難だ。我々は、この難しい問題にどう向き合えばいいのか。立命館アジア太平洋大学(APU、大分県別府市)学長の出口治明氏は、生命保険業界でキャリアを積み、ライフネット生命保険を創業。そこからAPUの第4代学長に転じた異色の経歴を持つ。歴史に関する深い考察と多様なバックグラウンドをお持ちの同氏にインフラマネジメントに対する方策を聞いた。

 ーインフラの将来コストが大変だということは誰でも分かります。そこを打破する知恵はありませんか?
 「僕の考えをまとめて話してしまっていいでしょうか。マクロで考えたら、人口が減るとコンパクトシティにならざるを得ません。現在の日本の一極集中、つまり東京集中は経済合理性から考えると自然なんです」

 「僕は歴史が好きなのですが、歴史をみると中長期的に人口が減って栄えた国や地域はありません。エマニュエル・トッド(フランスの歴史人口学の専門家)を信じる訳ではないけれど、日本がとるべき政策は1に少子化、2に少子化、3から9までずっと少子化で、やっと10番目に財政再建がくる。そのくらい少子化対策が根本です」

 ーいま政府は外国人労働者を増やそうとしています。
  「目先の労働力を確保して一時しのぎにはなっても、赤ちゃんを産みにくい社会をそのまま放置していては中長期的にはダメです。それは女性の地位に現れています。男女平等の目安となる国連のジェンダー・ギャップ指数の2018年版で、日本は149か国中110位。先進国で一番、女性の地位が低いんです」

 「だから、まず取り組むべきは男女の差別をなくし、赤ちゃんを産みやすい社会を作っていくことです。女性に社会的地位を割り当てるクオーター制を欧州以上に推進し、フランスの『シラク三原則』のように『生みたいときに生む』『待機児童ゼロ』『育児休業をキャリアダウンの理由にしない』という政策をとる。人間は動物ですから、女性が赤ちゃんを産みにくい社会を放置しておいて栄えるはずがない。これが1番です」

 ー将来の国を担う人材づくりが最優先ということですね。
 「2番目に言いたいのは、平成の30年間の国の財政を見ると、社会保障費は増えている。これは高齢化の結果ですね。しかし政策投資である教育費や公共投資、防衛費などの合計額は、あまり増えていない。それはおカネがないからです。ない袖を振れないからインフラの維持・補修に不安を感じるわけです」

 「一方で先進国の集まりであるOECD(経済開発協力機構)の加盟国の中で、日本の国民負担率は下の方です。つまり“小さな政府”です。政府がちょっとしかおカネを集めずに、いっぱい配って借金で賄うやり方は、もう限界です。僕は税金は大嫌いですが(笑)そういう個人の感情は脇に置いて、しかるべき増税をして国のプライマリー・バランス(基礎的財政収支)を一刻も早く黒字に戻して、将来の投資におカネを回すしかない。インフラ投資ができないのはプライマリーバランスが崩れているのが最大の理由です」

 ー非常に分かりやすいご意見です。
 「3番目の大きなファクターは成長力です。先進国で最も高齢化が進んでいるのは日本です。医療や介護におカネがかかるのは仕方がない。だったら日本は成長しなければ相対的には貧しくなっていくしかないんです。ところが、この30年間をみると、日本の実質GDPの成長率は1%前後。これが閉塞感の原因です。この国は成長しなきゃいけないのに、成長していないんです」

 「平成元年の世界のトップ企業ベスト20には、NTTを筆頭に日系が14社も入っていました。今はゼロです。デフレが原因とか、人口減少の問題とかいう分析もあります。けれど普通に考えたら、ランキングの顔ぶれの変化を見るべきでしょう。ランキングの上位を占める米国の巨大IT産業、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンはGAFAと呼ばれますが、たとえばフェイスブックは設立10数年で株の時価総額はトヨタ自動車の倍です。日本はGAFAを育ててこなかった。そして、将来のリーディング産業の予備軍である未上場の“ユニコーン企業”も米国や中国、欧州、インドばかり。日本はゼロです」

子連れ出勤、生産性が上がる


 ーそうした経済環境の中で、インフラ政策をどう考えるべきでしょう。
 「インフラに話を戻すと、新規の事業や起業のためにもインフラはとても大事です。きれいな道でどこにでも行けて、ライフラインが整っている社会を維持するにはおカネがかかる」

 「日本は世界の中で見るとそんなに小さな国ではありません。欧州連合で最も人口の多いドイツよりずっと大きいのです。日本が人口1億人を維持するには出生率が1.8%にならないといけません。まずは人口減少を止める。財政を健全化する。そして経済成長して新しいおカネを生む。この日本の三つの課題は、長い目で見たらインフラを保つための前提条件でもあるというのが僕の意見です」

 ー人の住まない山奥のトンネルなど、無駄なインフラとの指摘もあります。
 「トンネルを掘ったから人が住めたともいえるんです。日本がコンパクトシティ化しつつあるのは、人々がそういう地方を捨てて都市に集まってくるからです。人口を増やしてかつプライマリーバランスを回復させて予算をつけない限り、過疎地域は捨てられることになります」

 ー女性の働きやすい都市とは?
 「東京では子連れ出勤が増えていますね。例えば頭脳労働を考えると、脳の集中力の限度は2時間です。大学なら2時間の講義ですね。これはお母さんの授乳サイクルとも似ているんです。子連れ出勤を認めた企業を訪問すると、生産性が上がったと話しています。そういうことを認めず、根拠のない精神論を振りかざす職場は、これからは大変になるでしょう」

出口治明氏インタビュー 後編はこちらから
<プロフィール>
でぐち・はるあき 1948年三重県出身。京都大学法学部を卒業後、1972年日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退職し、国内では74年ぶりとなる独立系の生命保険会社ネットライフ企画株式会社(現ライフネット生命保険株式会社)を設立した。2012年に上場。社長・会長を10年勤めて、2017年に退任。2018年より立命館アジア太平洋大学(APU)学長。学校法人立命館副総長・理事も務める。旅と読書が好きで、世界の1200以上の都市を訪問し、読んだ本は1万冊を超える。歴史への造詣も深く、京都大学で歴史の講座を受け持った経験も持つ。著書に『仕事に効く 教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)『人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎新書)『全世界史 (上下)』(新潮文庫)『人類5000年史 Ⅰ、Ⅱ』(ちくま新書)などがある。

COMMENT

明豊
執行役員 DX担当
デジタルメディア局長

国交省ウェブマガジン「Grasp」の特集インタビュー、今月は「公共インフラは、財政圧迫要因か? 新たな社会資産か?」です。1人目は出口さん。後編もぜひお読み下さい。

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