宇宙の謎解明へ勝負のとき、「はやぶさ2」が挑む世界初の試み
1月下旬にも小惑星「リュウグウ」に着陸
日本の小惑星探査技術の集大成である宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ2」が勝負の時を迎えた。1月下旬にも小惑星「リュウグウ」にタッチダウン(着陸)し、惑星表面の試料を採取する。地球に持ち帰ることができれば、太陽系の進化や生命誕生の謎に迫れる。地球から約3億キロメートル離れた深宇宙で、はやぶさ2最大のミッションが始まろうとしている。
はやぶさ2で実施する3回の着陸の目的はリュウグウ表面および地下の試料を採取することにある。まず1月下旬以降に2回の着陸を実施し、表面試料を採取。次にリュウグウに人工クレーターを形成し、4月から5月にかけて3回目の着陸を行い、小惑星内部の試料の入手に挑戦する。
内部は宇宙線などにさらされていないため、今から46億年前の太陽系が生まれたころの水や有機物がそのまま残されていると考えられる。これをくわしく調べれば、地球を構成する水や生物を構成する有機物がどこから来たのか分かる可能性がある。また、初期太陽系の痕跡が残っているため、小惑星の衝突を通じて地球などの惑星がどうできたのかも調べられるかもしれない。
2回を予定するリュウグウ表面の試料採取で活躍するのがサンプリング装置(SMP)だ。筒状のホーン部先端がリュウグウ表面に触れると、ホーンの内部から小さな弾丸を発射する。
衝突によってリュウグウ表面から飛び出した試料がホーンの上部に昇り、はやぶさ2の格納庫へ入る。津田雄一プロジェクトマネージャは、「硬い岩であれ砂であれ、採取できる仕組みを採用した」と自信を見せる。
SMPの基本設計は初代の探査機「はやぶさ」と同じだが、ガスを密閉して持ち帰るための密閉性の高いシールを搭載したほか、試料の格納庫を3部屋に増やし、3回分の採取を可能にするなど、随所に工夫を凝らした。
さらにホーンの先端には小さな折り返し部分があり、折り返しの上に1ミリ―5ミリメートルの砂利を引っかけられる機構を新たに採用した。探査機の上昇中に急停止することで砂利は上昇を続け、格納庫に収まる仕組みだ。
さらに、はやぶさ2を降りたい場所に高精度で着陸させる「ピンポイント・タッチダウン」を実現するため、着地の目印となる「ターゲットマーカー(TM)」をはやぶさより2個増やして5個とし、着地精度の向上を図った。
着陸ミッションで最大のイベントである3回目の着陸では、その前に表面に人工クレーターを作る必要がある。はやぶさ2には火薬の衝撃でクレーターを作る衝突装置(インパクター)を搭載しており、これをリュウグウに投下する。小惑星に人工クレーターを形成するのは世界初の試みだ。
佐伯孝尚プロジェクトエンジニアは、「投下し、その衝撃に巻き込まれないようにはやぶさ2を数十メートルの精度で逃がす必要がある」と困難さを強調する。
プロジェクトチームは2018年8月、着陸の候補地点を、リュウグウの赤道を中心に、南北それぞれ約200メートルまでの領域で岩石が少ないなどの良好な条件を満たす3カ所に絞った。津田プロジェクトマネージャは「どこに降りても科学的な価値がある」と説明する。
同年10月に行われた着陸の3回目のリハーサル運用では、リュウグウの高度5キロメートルの位置から、リュウグウとの距離を測定する2種類のレーザー高度計「LIDAR(ライダー)」「レーザーレンジファインダー(LRF)」を利用し、降下。
TMを1個分離後、最低高度12メートルまで降下し、最後にホームポジションである高度20キロメートルに戻った。このリハーサルではLRFによる6自由度制御のほか、TM分離と表面に落とした後の追跡にも成功した。
現在想定する着陸方法は2種類。まず投下したTMを目印にそのままリュウグウ表面に降下して試料を採取する方法。もう一つは、TMを目印にリュウグウ近くまで降下した後、別のTMをさらに放出し、それを新たな目印に降下と試料採取する方法だ。
複数のTMを使った着陸は、人工クレーターを作る3回目の着陸での実施を見込んでいた。だが、観測機器による実際のリュウグウの画像から、大小の岩石や多数のくぼみが確認され、着陸の難易度が想定より高いことが判明。1回目の着陸からピンポイント・タッチダウンを検討することになった。
着陸のシミュレーションを担当する吉川健人研究開発員は、「もし地面が砂などで柔らかいと機体のバランスが崩れ、難しいミッションになるかもしれない。探査機の画像解析などである程度の予測はできるが、実際にやってみないと分からない」と心境を明かす。津田プロジェクトマネージャも、「着陸地点のでこぼこや、試料の収量が減ることなどが心配だ」と漏らす。
一方で、はやぶさ2は降下や3回の着陸リハーサルをすでに終えており、プロジェクトチームは運用に自信を深める。チームは地形をあらゆる角度から分析し、着陸計画を作り込んでいる。
トラブル続きで満身創痍ながら、世界初の小惑星からの試料採取と帰還に成功した初代はやぶさと違い、はやぶさ2の道のりは順調そのものだ。その分、ドラマチックさにはやや欠けるが、はやぶさの運用実績が生かされた結果でもある。はやぶさ2の運用も、日本のこれからの宇宙探査に必要な膨大な経験値をもたらすはずだ。
順調に試料採取を終えれば、はやぶさ2は11月にもリュウグウを出発する。20年末ごろに帰還して地球へ試料を含んだカプセルを投下し、ミッションを終える。
(文=冨井哲雄)
惑星表面・地下の試料採取
はやぶさ2で実施する3回の着陸の目的はリュウグウ表面および地下の試料を採取することにある。まず1月下旬以降に2回の着陸を実施し、表面試料を採取。次にリュウグウに人工クレーターを形成し、4月から5月にかけて3回目の着陸を行い、小惑星内部の試料の入手に挑戦する。
内部は宇宙線などにさらされていないため、今から46億年前の太陽系が生まれたころの水や有機物がそのまま残されていると考えられる。これをくわしく調べれば、地球を構成する水や生物を構成する有機物がどこから来たのか分かる可能性がある。また、初期太陽系の痕跡が残っているため、小惑星の衝突を通じて地球などの惑星がどうできたのかも調べられるかもしれない。
2回を予定するリュウグウ表面の試料採取で活躍するのがサンプリング装置(SMP)だ。筒状のホーン部先端がリュウグウ表面に触れると、ホーンの内部から小さな弾丸を発射する。
衝突によってリュウグウ表面から飛び出した試料がホーンの上部に昇り、はやぶさ2の格納庫へ入る。津田雄一プロジェクトマネージャは、「硬い岩であれ砂であれ、採取できる仕組みを採用した」と自信を見せる。
SMPの基本設計は初代の探査機「はやぶさ」と同じだが、ガスを密閉して持ち帰るための密閉性の高いシールを搭載したほか、試料の格納庫を3部屋に増やし、3回分の採取を可能にするなど、随所に工夫を凝らした。
さらにホーンの先端には小さな折り返し部分があり、折り返しの上に1ミリ―5ミリメートルの砂利を引っかけられる機構を新たに採用した。探査機の上昇中に急停止することで砂利は上昇を続け、格納庫に収まる仕組みだ。
さらに、はやぶさ2を降りたい場所に高精度で着陸させる「ピンポイント・タッチダウン」を実現するため、着地の目印となる「ターゲットマーカー(TM)」をはやぶさより2個増やして5個とし、着地精度の向上を図った。
着陸ミッションで最大のイベントである3回目の着陸では、その前に表面に人工クレーターを作る必要がある。はやぶさ2には火薬の衝撃でクレーターを作る衝突装置(インパクター)を搭載しており、これをリュウグウに投下する。小惑星に人工クレーターを形成するのは世界初の試みだ。
佐伯孝尚プロジェクトエンジニアは、「投下し、その衝撃に巻き込まれないようにはやぶさ2を数十メートルの精度で逃がす必要がある」と困難さを強調する。
プロジェクトチームは2018年8月、着陸の候補地点を、リュウグウの赤道を中心に、南北それぞれ約200メートルまでの領域で岩石が少ないなどの良好な条件を満たす3カ所に絞った。津田プロジェクトマネージャは「どこに降りても科学的な価値がある」と説明する。
同年10月に行われた着陸の3回目のリハーサル運用では、リュウグウの高度5キロメートルの位置から、リュウグウとの距離を測定する2種類のレーザー高度計「LIDAR(ライダー)」「レーザーレンジファインダー(LRF)」を利用し、降下。
TMを1個分離後、最低高度12メートルまで降下し、最後にホームポジションである高度20キロメートルに戻った。このリハーサルではLRFによる6自由度制御のほか、TM分離と表面に落とした後の追跡にも成功した。
想定より高い難易度
現在想定する着陸方法は2種類。まず投下したTMを目印にそのままリュウグウ表面に降下して試料を採取する方法。もう一つは、TMを目印にリュウグウ近くまで降下した後、別のTMをさらに放出し、それを新たな目印に降下と試料採取する方法だ。
複数のTMを使った着陸は、人工クレーターを作る3回目の着陸での実施を見込んでいた。だが、観測機器による実際のリュウグウの画像から、大小の岩石や多数のくぼみが確認され、着陸の難易度が想定より高いことが判明。1回目の着陸からピンポイント・タッチダウンを検討することになった。
着陸のシミュレーションを担当する吉川健人研究開発員は、「もし地面が砂などで柔らかいと機体のバランスが崩れ、難しいミッションになるかもしれない。探査機の画像解析などである程度の予測はできるが、実際にやってみないと分からない」と心境を明かす。津田プロジェクトマネージャも、「着陸地点のでこぼこや、試料の収量が減ることなどが心配だ」と漏らす。
一方で、はやぶさ2は降下や3回の着陸リハーサルをすでに終えており、プロジェクトチームは運用に自信を深める。チームは地形をあらゆる角度から分析し、着陸計画を作り込んでいる。
トラブル続きで満身創痍ながら、世界初の小惑星からの試料採取と帰還に成功した初代はやぶさと違い、はやぶさ2の道のりは順調そのものだ。その分、ドラマチックさにはやや欠けるが、はやぶさの運用実績が生かされた結果でもある。はやぶさ2の運用も、日本のこれからの宇宙探査に必要な膨大な経験値をもたらすはずだ。
順調に試料採取を終えれば、はやぶさ2は11月にもリュウグウを出発する。20年末ごろに帰還して地球へ試料を含んだカプセルを投下し、ミッションを終える。
(文=冨井哲雄)
日刊工業新聞2019年1月7日