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中小企業が3Dプリンターで国際宇宙ステーション向けのノズル開発

コイワイがJAXAと連携。実験した成果物を回収する部品に
中小企業が3Dプリンターで国際宇宙ステーション向けのノズル開発

小型カプセルの部品「スカーフノズル」

 コイワイ(神奈川県小田原市、小岩井豊己社長)は国際宇宙ステーション(ISS)で実験した成果物を回収する小型カプセルの部品「スカーフノズル」を3Dプリンターで製作した。宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと連携して生産手法を開発。部材を溶接して製作する既存品と同等の性能で、重量を65%削減の67グラムとした。今後、JAXAに採用を働きかける。

 同ノズルは宇宙ステーション補給機(HTV)に搭載する小型回収カプセルの姿勢制御を行う。内部は二重構造で、推進力となる高圧窒素ガスなど流体が通る微細な管が屈折している。ノズルの出口は噴射軸に対して斜めにカットされている。

 素材はアルミニウム6%、バナジウム4%を含む64(ロクヨン)チタンを使用。3Dプリンターを使うことで、ムダを最大限省いた設計が可能になった。

製作には経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)を利用。由紀精密(神奈川県茅ケ崎市)が仕上げの精密切削加工を担当した。東北大学金属材料研究所の千葉晶彦教授と早稲田大学輸送機器・エネルギー材料工学研究室の吉田誠教授が材料面で、IHIエアロスペースと三菱重工業が航空宇宙関連で知見を提供した。

日刊工業新聞2016年11月11日



由紀精密「夢の宇宙でビジネス」


大坪正人由紀精密社長
 由紀精密が宇宙分野を目指したのは、今から8年ほど前。当時は電気業界向けの部品がほとんどで、人工衛星、ロケットなどの宇宙向けの部品など夢のまた夢であった。2008年の航空宇宙産業展への出展で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のテストパーツを受注できたことが業界参入の初めの一歩となる。

 以後JAXAとの取引を継続してはいたが、実際のフライト品に関わることになったのは、そこからまた数年。人工衛星を製造するベンチャー企業、アクセルスペース社からの1本のメールが超小型衛星の構造部品を1機分丸ごと製造するきっかけとなった。

 超小型衛星の世界は関係者が横でつながっている、とっても狭い世界で、アクセルスペース社からの衛星受注実績のおかげで、多くの衛星部品を手がけられるようになった。変わったものでは多摩美術大学の久保田先生の考案した「ARTSAT―2 DESPATCH」というものがある。

 こちらは名前の通り、一つの芸術作品となっており、3次元プリンターで造形されたスパイラル形の変わった外観を持つ。この衛星は、はやぶさ2とともに地球の重力圏を脱出し、深宇宙をまさに今も航海している。

多くの知見を得る幸運


 宇宙部品に求められる性能は他の業種の部品と何が違うのであろうか。実績の多い超小型衛星の構造部品について考えてみよう。まず、素材はアルミニウム合金を使うことが多い。これは宇宙に持っていく部品には軽さが求められるからである。重量に対する強さを表す比強度でもアルミ合金は高い値を示す。

 このアルミ合金の表面にアルマイト、アロジンといったコーティングを行うことで、耐食性(錆(さ)びにくさ)を上げたり、熱に対する特性をコントロールしたりする。精度はどうだろう。

 構造部品に高い精度が求められる部分は、宇宙空間で動かす必要がある部分になる。摺動(しゅうどう)させた時に引っかかってしまっては大変だし、逆にガタついてしまうと、ロケットの打ち上げの振動で故障してしまう場合も出てくるだろう。

 また、宇宙空間では、真空、温度環境、放射線、原子状酸素など、軌道の高さによっても影響の度合いは異なるが、さまざまな耐環境性能が要求される。これらは打ち上げ前に地球上で十分に試験されることになる。

 こういった宇宙特有の問題を把握しつつ、加工屋的な視点で、コスト的にも高くなり過ぎないような提案を行いながら設計に反映させることになる。何度も衛星に関わるチャンスが持てたことで、その衛星の持つミッション固有の問題にも対応しながら、多くの知見を得ることができたのは本当に幸運であった。

未開の地に踏み込むことは経営者の幸せ


 そんな中、大変に興味深い話が舞い込んできた。大学の先輩にもあたる、アストロスケール社創業者の岡田さんから、現在も宇宙開発においての大きな課題となっている宇宙のゴミ掃除を一緒にやりませんか、というお誘いだった。アストロスケール社はシンガポールに本社を持ち、衛星は国内の子会社で作っている。

 実はアストロスケール社の創業前から岡田さんとは知り合い、宇宙のゴミ掃除に関して熱く語っていた。これがまだわずか3年ほど前であろうか。そこから意気投合して衛星開発の協力をすることになり、宇宙のゴミ掃除衛星に深く関わっていくことになった。

 アストロスケール社はそこから飛ぶ鳥を落とす勢いで成長し、数十億円もの資金調達に成功することになり、さらにこの勢いは加速している。

 数年前には夢の世界だった宇宙機器の開発にこうしていくつも深く関わることになれたのも、もともと由紀精密が持っている信頼性の高い部品加工の技術、さらにそれを活用するために困難な課題にも可能性を考えて立ち向かっていくチャレンジ精神がお客さまから評価を受けた結果であろう。

 未開の地に踏み込むこと、これを自社で挑戦できることは経営者としてとても幸せなことだ。

日刊工業新聞2016年8月8日

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
コイワイは「次の世代の鋳物工場をつくる!」をモットーに革新的な鋳物技術の開発に取り組んでいる。文中に出てくる由紀精密も茅ヶ崎にあり宇宙関連の仕事をし始めている。中小企業のたくましい連携を応援したい。

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