米の保護主義政策の標的に…、国内鉄鋼業界の先行きに暗雲

正念場の日米交渉

 大山鳴動してネズミ一匹―。米トランプ政権が世界の反発を顧みずに2018年3月から鉄鋼製品に課した25%の関税の影響は、今のところほとんど見られない。だがこの間に米国が進める保護主義的政策の標的は、日本製を含む自動車や、世界の覇権を狙う中国の先端技術にも広がろうとしている。こうした政策が世界貿易に地殻変動をもたらせば、国内鉄鋼業界への影響は避けられない。大山の火口から灼熱(しゃくねつ)のマグマが顔をのぞかせている。

 財務省の貿易統計に基づく日本鉄鋼連盟の集計によると、日本の対米鉄鋼輸出は18年4―6月期に全品目の合計で前年同期比14・7%減、同7―9月期も同33・8%減と、ともに前年実績を割り込んだ。だがこの時期は国内鉄鋼メーカー各社の生産トラブルや、自然災害の影響で輸出全体が減っており、米国向けの落ち込みが顕著だったわけではない。

鋼材市況が高騰
 影響が軽微にとどまっているのは、米国向け鋼材の大半が自動車の重要保安部品などに使われる高付加価値品で、代替品を見つけにくいためだ。関税賦課に伴う品薄感の強まりから、米国の鋼材市況が高騰し、輸入制限措置としての効果が薄れたという事情もある。

影響読み切れず
 それでも国内メーカーが、トランプ政権の強硬な通商政策に対する警戒を緩める気配はない。鉄連の柿木厚司会長(JFEスチール社長)は「(米国の保護主義的な政策が国内製造業のサプライチェーン全体に与える影響は)まだ途上だ」と警告する。第三国・地域の加工拠点や半製品メーカーを含め、最終製品を仕上げるまでの工程のどこにどう影響が及ぶかは、まだ読み切れないとの指摘だ。

関税90日間凍結
 追加関税の問題に輪をかけて、日米貿易や世界貿易をかく乱しかねないのが、米中貿易摩擦と日米貿易協議の行方だ。米中摩擦をめぐっては、両国首脳が18年12月に行った会談で、米国が年明け後を予定していた中国製品への関税上乗せを、90日間凍結することで合意。米国側の発表によると両国は3月1日を期限とし、中国経済の構造的な課題について協議する。だが知的財産保護やサイバー攻撃など米国側が挙げる問題の短期決着は期待しにくく、関係改善への道は険しそうだ。

中国経済の減速感が鮮明に
 対米貿易摩擦の先行き不透明感が強まる中で、中国経済の減速感も鮮明になった。自動車を中心に個人消費が落ち込んでおり、新日鉄住金の進藤孝生社長も「我々の自動車用鋼板も、中国向けが減ってきた」と明かす。専門家の間では「中国の消費は、明らかに変調を来している」との見方が強く、「企業の投資マインドにも、悪化の傾向が見られる」といった指摘もある。

 中国ではこの間、鉄鋼生産が記録的な高水準で推移してきた。景気が腰折れすれば、だぶついた鋼材が海外市場へ大量に流出し、市況を悪化させる可能性がある。すでに中国内では鋼材市況の悪化が顕著だ。鉄連の柿木会長は「中国経済が減速すれば(日本の鉄鋼業にも)大きな影響が出る。米中貿易摩擦の行方を注視する必要がある」と警戒する。

 一方、日米間の協議では日本側が「物品貿易協定(TAG)」と呼ぶ2国間協定をめぐる政府間交渉が近く始まる。米国側がちらつかせる日本車の輸入数量制限が実行される事態になれば、日本の鉄鋼業界にとっても大きな痛手となる。一方で交渉がまとまらなければ、日本の自動車・同部品に高率の関税が課される。自動車・同部品は日本の対米輸出額全体の4割を占める重要な輸出品だけに影響は計り知れず、交渉は難航が予想される。

 鉄連は19年度の日本の粗鋼生産量が、18年度をやや上回るとの見通しを示している。鉄鋼の国内需要は投資の一巡や消費税率引き上げの影響で前年度を下回るものの、堅調な世界経済に支えられて外需が底堅く推移し、輸出が増えるという。だが米中貿易摩擦を引き金に中国経済の減速が深刻化したり、日米間の貿易摩擦が本格化したりすれば、こうしたシナリオも大幅な修正を求められる。

             

(文・宇田川智大)

日刊工業新聞2019 年1月4日

  

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