横にも移動、独社が仕掛けるエレベーター革命

独ティッセンクルップが2021年に製品化へ

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水平にも動く次世代エレベーターは建物のデザインも一変させる(イメージ)
 独ティッセンクルップがエレベーターの産業史に革命を起こそうとしている。人を乗せる箱(キャビン)をワイヤでつるさずにリニアモーターで動かし、上下だけでなく横にも移動が可能な製品を2021年に実用化する。約160年間、構造に大きな変化がなかったエレベーターが変われば、建物や街のありかたも一変させる可能性も秘める。

上下左右、最短ルートで移動


 「我々が業界のイノベーションのリーダーになるだろう」。ティッセンクルップ・エレベーターのアンドレアス・シーレンベック最高経営責任者(CEO)は「革命」への手応えを示す。

 開発した新型エレベーター「マルチ」はキャビンをつるすケーブルはなく、壁に取り付けられたガイドに沿ってリニアモーターで動く。ビルの中には多数のシャフト(エレベーターが走行する縦穴状の空間)が縦横に設置され、同じシャフト内を複数のキャビンが同時に稼働する。縦方向だけでなく、横方向にもシャフトが伸びていて、上下左右、自在に移動できる。

 エレベーターに乗る人が行きたい階の場所を指定すると、ソフトウエアが他のキャビンの混雑状況を勘案しながら最短移動ルートを計算する。建物の高さを問わず、15―30秒の待ち時間で乗ることができる。

 「500トンの鉄道を動かせるのならば、1トンのキャビンを動かせるだろうと考えた」。シーレンベックCEOは開発の経緯を語る。同社はエレベーターの売り上げは世界4位、欧州で最大のシェアを握るが、鉄鋼を中心とした複合企業グループの一角でもある。中国のリニアモーターカーの開発で培った技術を横展開した。

デザイン制約を減らす


 課題はコスト。価格は従来機の3―5倍ともいわれ、競合他社幹部は「果たして普及するか」と首をひねる。こうした指摘にシーレンベックCEOは「設置スペースが半分になるメリットの方が大きい」と自信をのぞかせる。有効利用できるようになったスペースを貸し出せば初期投資の回収も難しくない。ニューヨーク・マンハッタンの100階建てビルで試算すると従来のエレベーターに比べて、10年で1億―1億5000万ドルの費用効果があるという。

 大都市では土地が限られる中、開発を建物の高層化で対応してきた。ビルが高くなればなるほどキャビンをつり上げるための機構なども大きくなり、床面積に占めるエレベーターの設置スペースは今では4割にも達する。

 一つのシャフトに1台のキャビンを置き、ケーブルでつりあげる。19世紀半ばから変わらない構造が建物のデザインの制約にもなっていた。

 新型エレベーターは21年にドイツのベルリンで初号機が稼働予定。約20プロジェクトが控えており、日本の案件も進んでいる。

(2018年9月5日)

COMMENT

栗下直也
デジタルメディア局
編集委員

ティッセンクルップはグループ全体では祖業の鉄鋼事業に陰りが見える。エレベーター事業を強化する今、米オーチス、スイスのシンドラーを脅かす存在になれるか。「マルチ」が受け入れられるかが、試金石になる。

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