VRエンタメ、シニアもいかが?
懐かしの場所・観光地に一瞬で
仮想現実(VR)は、目元を覆うゴーグルを装着する姿から、若者が楽しむイメージがあるかもしれない。でも、時間や空間を超えた光景に入り込んで疑似体験ができるなど、シニア世代に意外な楽しみをもたらしそうだ。ちょっと遠いけど行ってみたい観光地、今は戻れない懐かしの風景も。自由自在に面白さを味わってみては―。
上下左右に風景が映し出されるVRは、行ったことのない場所の雰囲気をリアルに味わうことができる。ましてや、行ったことのある場所なら、懐かしい記憶がどっとよみがえってくる。豊富な思い出を持つシニア世代には、素晴らしいエンターテインメント体験だ。
「あっ、そうそう、こういう感じなのよねえ!」。東京都文京区の東京大学の一室。段ボール製の簡素なゴーグルの中に360度、3D(3次元)の視界で映し出される岐阜県の白川郷の映像に、東京都大田区在住の三井多摩さんが楽しげな声を上げた。
ゴーグルをのぞかせてもらうと、日の光に照らされている合掌造りの特徴的な家屋の前を、興味深げに眺めている軽装の外国人観光客がゆっくりと通り過ぎていく。映像自体はそれほど精細なものではないが、家屋や人とのリアルな距離感が「現地はこういう感じなのだ」と感じさせてくれる。
このVR映像を製作したのは、同大先端科学技術研究センターの学術支援専門職員、登嶋健太さん。介護施設の機能訓練指導員として働いていた時に、国内外を旅行して撮影したVR映像を入居者に楽しんでもらう活動を始め、現在は同大でVR映像製作の講座を開いている。
シニア世代の受講者も多く、活発に意見を交換しながらVRの技術を学んでいる。「VRの機器や技術は日進月歩で、シニアの方でも少し学べば、手軽に扱えるものになっています。旅行先の風景をVR撮影してくれば、自分の体験を家族や友人と簡単に共有できますよ」と登嶋さんは話す。
VRを使えば、遠く離れた場所だけでなく、もう失われてしまった過去の懐かしい風景の中に身を置くことも可能だ。2020年の東京五輪を見据え、前回の五輪開催当時の渋谷の街並みをVRで再現するプロジェクトが着々と進行している。
スタッフに渡されたゴーグルを装着すると、眼前に渋谷駅前のハチ公像が現れた。でも、何か妙だ。「64年のハチ公はセンター街の方を向いています。現在のハチ公は移動して渋谷駅の方を向いていますよね」。耳元のスピーカーから流れる音声ガイドが違和感の正体を教えてくれた。
東口には、03年に解体された、プラネタリウムのドームを屋上に頂く東急文化会館がある。ガード下をくぐれば、若者ファッションの中心地「SHIBUYA109」…がない。「開業は15年後の79年です。64年のこの辺には洋品店が店を構えていました」。まさにタイムスリップだ。
これは、東京五輪が開催された64年当時の渋谷駅周辺の街並みを、個人や団体から収集した過去の写真を基に3D技術でVR化したもの。製作を進めている団体「1964 TOKYO VR」事務局長の宮田正秀さんは「前回の五輪から、東京がどれほど急激な発展を遂げたのかを体感してもらえたら」と話す。
現在はまだイベントなどで限定的に体験することしかできないが、将来的には常設展示を計画している。宮田さんは「前回の五輪当時の鮮明な記憶を持っている今のシニア世代には、このVRを一番楽しんでもらえるはず」と期待している。
VRがどういうものなのかを知るのにうってつけなのが、NHKがインターネット上で公開している「NHK―VR」だ。パソコンやスマートフォンの画面上で、ニュースや番組の映像を360度の視界で楽しむことができる。
ゴーグルを使う必要がないので、その場にいるような没入感はないが、画面上のボタンを操作するだけで上下左右に映像が動き、現場の様子を空間として見ることができる。見たい箇所をズームして大きく表示させることも可能だ。
現在、ニュースやスポーツなど100本以上のVR映像が視聴でき、週に1、2本程度のペースで新作がアップされている。
報道局ネットワーク報道部の足立義則副部長は「テレビ画面で区切られない現場の臨場感を体感してもらえたら」と話す。
VRを使ったユニークなビジネスも行われている。飛行機の内部を模した部屋の中に設置されたファーストクラスのシートに腰掛け、海外の観光地の情景をVRで見学。豪華な「機内食」も楽しむという約110分の「バーチャル海外旅行」だ。
提供しているのは、東京・池袋にある「FIRST AIRLINES」。約20分のVRではフランスやイタリア、フィンランド、ハワイ、ニューヨークなどの観光名所を360度の視界で足早に見て回る。「体感するパンフレット」という印象だ。
プログラムは、飛行機で離陸し、元の空港に着陸するという設定。離陸時には、客室乗務員の姿のスタッフがシートベルトの着用を求め、救命胴衣の使用方法を説明。
滑走路を走っているかのようにシートが振動するなどの細かい演出も楽しい。
懐かしい記憶よみがえる 思い出の場所を再訪
上下左右に風景が映し出されるVRは、行ったことのない場所の雰囲気をリアルに味わうことができる。ましてや、行ったことのある場所なら、懐かしい記憶がどっとよみがえってくる。豊富な思い出を持つシニア世代には、素晴らしいエンターテインメント体験だ。
「あっ、そうそう、こういう感じなのよねえ!」。東京都文京区の東京大学の一室。段ボール製の簡素なゴーグルの中に360度、3D(3次元)の視界で映し出される岐阜県の白川郷の映像に、東京都大田区在住の三井多摩さんが楽しげな声を上げた。
ゴーグルをのぞかせてもらうと、日の光に照らされている合掌造りの特徴的な家屋の前を、興味深げに眺めている軽装の外国人観光客がゆっくりと通り過ぎていく。映像自体はそれほど精細なものではないが、家屋や人とのリアルな距離感が「現地はこういう感じなのだ」と感じさせてくれる。
このVR映像を製作したのは、同大先端科学技術研究センターの学術支援専門職員、登嶋健太さん。介護施設の機能訓練指導員として働いていた時に、国内外を旅行して撮影したVR映像を入居者に楽しんでもらう活動を始め、現在は同大でVR映像製作の講座を開いている。
シニア世代の受講者も多く、活発に意見を交換しながらVRの技術を学んでいる。「VRの機器や技術は日進月歩で、シニアの方でも少し学べば、手軽に扱えるものになっています。旅行先の風景をVR撮影してくれば、自分の体験を家族や友人と簡単に共有できますよ」と登嶋さんは話す。
ハチ公像の向き違う渋谷駅
VRを使えば、遠く離れた場所だけでなく、もう失われてしまった過去の懐かしい風景の中に身を置くことも可能だ。2020年の東京五輪を見据え、前回の五輪開催当時の渋谷の街並みをVRで再現するプロジェクトが着々と進行している。
スタッフに渡されたゴーグルを装着すると、眼前に渋谷駅前のハチ公像が現れた。でも、何か妙だ。「64年のハチ公はセンター街の方を向いています。現在のハチ公は移動して渋谷駅の方を向いていますよね」。耳元のスピーカーから流れる音声ガイドが違和感の正体を教えてくれた。
東口には、03年に解体された、プラネタリウムのドームを屋上に頂く東急文化会館がある。ガード下をくぐれば、若者ファッションの中心地「SHIBUYA109」…がない。「開業は15年後の79年です。64年のこの辺には洋品店が店を構えていました」。まさにタイムスリップだ。
これは、東京五輪が開催された64年当時の渋谷駅周辺の街並みを、個人や団体から収集した過去の写真を基に3D技術でVR化したもの。製作を進めている団体「1964 TOKYO VR」事務局長の宮田正秀さんは「前回の五輪から、東京がどれほど急激な発展を遂げたのかを体感してもらえたら」と話す。
現在はまだイベントなどで限定的に体験することしかできないが、将来的には常設展示を計画している。宮田さんは「前回の五輪当時の鮮明な記憶を持っている今のシニア世代には、このVRを一番楽しんでもらえるはず」と期待している。
ニュースやスポーツ
VRがどういうものなのかを知るのにうってつけなのが、NHKがインターネット上で公開している「NHK―VR」だ。パソコンやスマートフォンの画面上で、ニュースや番組の映像を360度の視界で楽しむことができる。
ゴーグルを使う必要がないので、その場にいるような没入感はないが、画面上のボタンを操作するだけで上下左右に映像が動き、現場の様子を空間として見ることができる。見たい箇所をズームして大きく表示させることも可能だ。
現在、ニュースやスポーツなど100本以上のVR映像が視聴でき、週に1、2本程度のペースで新作がアップされている。
報道局ネットワーク報道部の足立義則副部長は「テレビ画面で区切られない現場の臨場感を体感してもらえたら」と話す。
ファーストクラスでごちそう
VRを使ったユニークなビジネスも行われている。飛行機の内部を模した部屋の中に設置されたファーストクラスのシートに腰掛け、海外の観光地の情景をVRで見学。豪華な「機内食」も楽しむという約110分の「バーチャル海外旅行」だ。
提供しているのは、東京・池袋にある「FIRST AIRLINES」。約20分のVRではフランスやイタリア、フィンランド、ハワイ、ニューヨークなどの観光名所を360度の視界で足早に見て回る。「体感するパンフレット」という印象だ。
プログラムは、飛行機で離陸し、元の空港に着陸するという設定。離陸時には、客室乗務員の姿のスタッフがシートベルトの着用を求め、救命胴衣の使用方法を説明。
滑走路を走っているかのようにシートが振動するなどの細かい演出も楽しい。
日刊工業新聞2019年1月4日