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アリババが築く「中国デジタル経済圏」、すり寄る日本企業

越境ECなどに可能性
アリババが築く「中国デジタル経済圏」、すり寄る日本企業

支払いはスマホの2次元コードを活用した非接触決済方法で簡単に行える(アリババのスーパーマーケット)

 “世界の工場”だけの中国のイメージはもはや過去の姿だ。今の成長をけん引するのは情報通信技術(ICT)であり、中国3大インターネット企業である阿里巴巴(アリババ)集団、百度(バイドゥ)、騰訊(テンセント)を中心にさまざまな企業がデジタルを活用したサービスを提供する。人口14億人のうち8億人がネットユーザーであり、中産階級の増加で市場はさらに拡大。一方、日本企業はこの商機をいかそうと戦略を駆使する。

金融・交通にも手を広げる


 ネット通販の総取引額を2020年に6兆元(約120兆円)へ―。世界一の流通企業を目指す電子商取引(EC)と物流ネットワーク大手のアリババは、こんな壮大な目標を掲げる。16年実績(3兆元)を4年で倍増する計画だが、中国のデジタル市場の巨大さを考えれば、決して夢物語ではない。アリババは毎年11月11日を「独身の日」としてセールイベントを開くが、18年は過去最高となる2135億元(約3兆5000億円)を記録している。

 アリババはECだけでなく、「アント・フィナンシャル」などの自社金融サービスのほか、都市の信号やカメラのデータを分析して渋滞の緩和を実現するプラットフォームの提供など、事業の拡大を進める。

 さらに実店舗と物流システムを組み合わせた小売りビジネスも展開する。本社に隣接するスーパーマーケット「盒馬(フーマー)鮮生」はアリババが手がける店舗のひとつだ。

スマホで注文・決済、新鮮な食材提供


 広報担当の趙亞楠マネージャーは、「新形態の小売りを理解できる」とアピールする。ビッグデータ(大量データ)を活用し、新鮮な食材を提供するのが特徴だ。

 販売されている牛肉には中国の曜日が記載してある。例えば木曜日なら4だが、「産地から売り場までその日のうちに届く」(趙マネージャー)ようにしているため、消費者は曜日で確かめられる。肉自体もその日のうちに売り切れるよう最適化している。

 値札はすべて電子化している。スマートフォンでかざせば、産地やおすすめの調理法などが表示される。会計はもちろんスマホの2次元コードを活用した非接触決済方法のアリババの「アリペイ」などで支払いができる。

 店舗ではオンラインで食材を注文することも可能。注文を受けてスタッフが商品を専用バックに詰めると、スーパーの天井下に設置したレーンにぶら下がった袋が移動し、配送エリアに運ぶ。店舗から3キロメートル以内の利用者には注文から30分以内に届く。

 アリババさえあれば日常生活のすべてをまかなえる―。アリババの戦略からはそんな野心がうかがえる。
アリババの食品スーパー。産地からその日のうちに入荷

 中国政府をけん引役に拡大を続けるデジタル経済。中国で検索エンジン最大手のバイドゥの担当者は「国家代表チームの一員として自動運転や人工知能(AI)の開発に取り組んでいる」と政府との一体感を口にする。

 現在、同社が力を入れているのが自動運転事業「Apollo(アポロ)」だ。社内の試験走行ではスタートボタンを押すだけで走行をはじめ、前方にいる人や車両、建物を検知しながら20キロ―30キロメートルの速度で走らせるなど、開発は順調だという。

 中国では公道での自動運転の実証実験も積極的に取り組まれている。例えばベンチャーの深セン市海梁科技(広東省深セン市)はバスの自動運転を手がける。同社の「アルファバス」はこれまで1万8000キロメートルの公道を走行した実績を持つ。

 同社担当者は、「1度も事故を起こしていない」と強調する。アルファバスが試験走行する地区は第5世代通信(5G)のモデル地区にもなっており、先端技術を実証できるフィールドが整っている。
スマホをかざせば、おすすめ料理や産地が表示される

参入障壁厳しいが


 中国市場は確かに巨大でデジタル市場は魅力的だが、中国以外の国の企業が参入するには障壁がある。

 例えば17年6月施行の中国のサイバーセキュリティー法では、個人情報や業務データなどは政府の許可なく持ち出せない。

 国境をまたぐ「越境EC」によるビジネスを支援する伊藤忠テクノソリューションズは、この問題に対応するためアリババと11月に連携し、中国へ進出する日本企業に向けたサービスを開始した。

 伊藤忠テクノのクラウドインテグレーションビジネス推進部の鈴木一史部長は、「例えば表示するサイトは日本にあるが、決済サイトは中国にあるというように構築する。サイバーセキュリティー法に対応することで、企業の中国進出を支援できる」と説明する。

 さらに、決済サービスを中心とする中国のデジタル経済の成長を積極的に取り込もうとする日本企業も多い。

 日本ユニシス子会社のキャナルペイメントサービス(東京都江東区)は、アリペイやテンセントの「ウィーチャットペイ」など、2次元コードを使った非接触型決済を日本の百貨店やコンビニエンスストアなどで使用できる環境の整備を手がける。

 キャナルでは法人化する前の15年12月からアリペイを取り扱う。若鍋幸太社長は、「具体的な数字は公開していないが、当社の取扱高は18年度の上半期で17年度の年間を上回った」と説明する。

 アリババはインドや韓国のコード決済サービス事業者へ出資しており、相互連携によりアリペイをアジア圏で利用できる日も近い。

 日本総研調査部上席主任研究員の三浦有史氏は、中国のデジタル市場について、「アリババが日本にデータセンターを設置したことで越境ECが成長している。日本企業がドメインを持つことに制約はあるが、消費市場としては近づいており、大きなチャンスだ」と指摘。その上で、「東南アジアの一部ではアリババのクラウドサービスが米アマゾンと競合している。決済サービスを中心に事業を着実に広げている」と可能性を示す。

 日本企業にはさまざまな制約を回避しつつ、巨大市場に食い込むしたたかな戦略が問われることになる。

中国では自動運転バスの実証実験も進む

(文=川口拓洋)
日刊工業新聞2018年12月21日

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