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幻の航空兵器(下)国産初のロケットエンジン搭載機「秋水」

幻の航空兵器(下)国産初のロケットエンジン搭載機「秋水」

B29対策を狙ったロケット推進式の戦闘機「秋水」(三菱重工業提供)


 「秋水」の開発にあたり、従来は別々の航空機を開発してきた陸海軍は、共同で開発作業にあたった。ロケットエンジン「特呂」の開発は、機体と同様に三菱重工業が担当したが、本連載前半でも指摘したようにドイツから取り寄せた資料は概念図程度のものしかなかったため、ほとんど自主開発に近かったという。三菱重工は当初、自社の航空機拠点がある名古屋で開発していたがB29による空襲に遭い、神奈川・横須賀の海軍施設に移動して開発を続けた。

初飛行に失敗


 1945年7月7日、秋水は横須賀の追浜飛行場で初飛行に臨んだ。開発開始から1年足らずの"早業"だった。テストパイロットを務めたのは海軍の犬塚豊彦大尉。多くの関係者が見守る中、犬塚大尉が操縦する「秋水」は滑走路を無事に離陸し、約45度の角度で急上昇を始めた。初飛行は成功したかに思われた。

 地上では技術者らが歓喜の声を上げたというが、約16秒後には高度400メートルでロケット噴射が停止してしまう。犬塚大尉は滑空状態で何とか飛行場に戻ろうとしたが、かなわず墜落。重篤状態で医務室に運び込まれたが、翌日、殉職した。
この時の状況は、海軍航空隊の軍医を務めていた神田恭一氏の著書『横須賀海軍航空隊始末記』に詳しい。

 「海軍航空の研究の精華ともいうべき新世紀の航空機『秋水』は日本海軍最後の切り札であった。(中略)いよいよ実験開始の時刻が迫ってきた。私は救急車のエンジンをかけ最高潮を保つように運転員に指示した。(中略)秋水は45度の角度をもって斜めに東京湾の上空をさしていった。続いて一段と高いロケット噴射の轟音が空気を裂いて飛行場をびりびりとふるわせる。秋水は離陸に成功した。一斉に歓声と大きな拍手がわき起こり、水平飛行に移ると再び歓声の波が起こった」

 「滑空している『秋水』は高度と速力がだいぶ落ちてきた。飛行場の南西上空で右に旋回すると右翼が大きく傾いた。秋水は浮力を失ったのである。パイロットの犬塚大尉の必死の修正作業もむなしく『秋水』は右翼を下げたまま、航空隊の拡張工事中の労務者用宿舎の屋根に激突し墜落した」

その後、「秋水」は再び飛び立つことはなく、開発は終戦とともに終わった。
ニュースイッチオリジナル
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
今回は戦前に開発された2つの特殊な航空機を特集しました。ちなみに「秋水」の復元模型は、三菱重工業名古屋航空宇宙システム製作所の史料室(愛知県豊山町)に展示されています。

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