伸び悩む「ラジコ」、データ活用でブレークスルーはあるか

連載・デジマ新機軸(4)radiko・青木貴博社長インタビュー

radikoの青木貴博社長
 スマートフォンなどでラジオが聞ける「radiko(ラジコ)」が大きな一歩を踏み出した。これまで蓄積してきた聴取ログや有料会員の属性データなどを基にラジコDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を構築し、利用者ごとに内容が違う広告を配信するサービスの実証実験を7月に始めた。DMPは今後、広告配信だけでなく、機能の拡充に向けた活用が期待される。一方、ラジコはここ5年以上、利用者数が伸び悩んでいる。ラジオ業界の課題である聴取率の下落傾向に歯止めをかけ、業界を活性化する目標は果たせていない。DMPによってラジコをどう進化させ、どのように目標達成を目指すか。radiko(東京都中央区)の青木貴博社長に今後の戦略を聞いた。

無料会員制度が必要


 ―7月に音声によるターゲティング広告サービス「ラジコオーディオアド(※1)」の実証実験をはじめました。
 個人をターゲティングして広告を配信できるようになり、デジタルメディアへの一歩を踏み出した感覚だ。広告主にとってさらに価値の高いサービスになるようターゲティングの精度を上げたい。

※1ラジコオーディオアド:各ラジオ放送局が持つ自社広告枠に利用者の年代や性別などに応じた広告を配信する。ラジコDMPを活用し、ターゲティングしている。自動車メーカーや製薬会社など10―15社の広告主が参加しており、広告収益は放送局とラジコでシェアする。
 ―どのように精度を上げますか。
 一般の利用者にもログインして使ってもらう無料会員のモデルを構築し、より多くの顧客情報を取得できる体制が必要と考えている。無料会員になる動機は何か、特別な機能が必要かなどを検討している。

 ―音声広告では接触した消費者が企業のサイトに遷移して行動したかなどを示すコンバージョン率を定量化できない弱みがあります。
 現状は(広告がどのくらい聞かれているかの)インプレッションが指標のため、まずは広告主が求めるターゲットにしっかり届けることが重要だ。ただ、コンバージョン率が示せれば広告価値は高まる。広告と連動したクーポンをスマホ画面に配信し、それを入手して店頭に来店したかなどを定量化する仕組みの構築にも取り組みたい。

 ―音声を楽しむ利用者にスマホ画面を見るよう促すきっかけ作りは重要になりそうですね。
 楽曲が流れたり、広告が流れたりすればスマホ画面に何かが表示されるといった認知を広げ、画面を見ても楽しめる文化を創っていかないといけない。また、利用者が必ず画面を見るアプリ立ち上げ時や聞く放送局を変える時に広告を提供するという形も一つの方法だろう。

 ―一方で音声広告ならでは価値をどのように考えていますか。
 ラジコはテレビでのザッピングのようにCMだから放送局を変えるということはほとんどない。96%ほどが完全聴取している点は強みだ。

 
 ―DMPは広告の配信だけでなく、サービスの拡充にも生かせそうです。
 ラジコの利用者は特定の番組だけを聴く人がいる。そうした利用者に適した他の番組をレコメンドして聴取時間を上げるのは課題だ。また、今のユーザー・インターフェース(UI)を見ると、初めてアクセスした人は何を聞いたらよいかわからないという課題がある。DMPによって利用者が可視化されればこうした課題を改善できる。

新規利用者が定着しない


 ―ラジコの月間ユニークユーザー数(※2)は約700万人。サービス開始から8年を振り返って、この利用者数をどう評価していますか。
 残念ながら踊り場にいる。現在の水準に達したのは2012年頃だ。ここからのブレークスルーは大変だと感じている。毎日の利用者数や延べ聴取時間は上がっているので利用者の聞く頻度は増えているのだろう。ただ、新規利用者が定着していない。

※2ラジコのユーザー数:ラジコでは月間ユニークユーザー数の計測方法について7月に変更し、より正確なデータを取得できるようにした。従来の計測方法の月間ユニークユーザー数は約1000万人。12年6月に初めて1000万人を突破したが、それ以来、1000万―1200万人程度で推移していた。
 ―過去1週間以内に放送された番組を後から聴取できるタイムフリー機能を16年10月に導入しましたが、利用者の拡大にはつながらなかったのですか。
 タイムフリーや(有料会員向けの)エリアフリー視聴はあくまで最低限の機能だ。ここから何を載せていくかが大事。一つはレコメンドかもしれないし、より良い音質で聞ける機能が求められているのかもしれない。多様な機能を積み重ねていきたい。

 ―16年10月にはSNS(会員制交流サイト)などを通じて利用者がお気に入りの番組を紹介できるシェアラジオ機能も導入しました。
 毎月のシェア回数は5万―7万程度で大きくは伸びていないのが現状だ。SNSマーケティングは若年層を獲得する上でカギになる。拡散施策を実施しているのだが、数字に表れていない苦しさがある。限られた予算の中で合理的なプロモーションを行いたい。

 ―有料会員は55万人まで伸びました。好調ですね。
 嬉しい誤算だ。14年4月に提供を始めたのだが、利用者の数が想定以上に伸び続けている。この収益によってタイムフリー機能などを実装できた。今はむしろいつこの上昇傾向が止まるのかが恐怖だ。

 ―今後の目標は。
 短期的には月間ユニークユーザー数1000万人。その達成に向けたベースとなる環境はある。それがスマホだ。スマホの普及によってみなが気軽にラジオを聞けるようになった。それまでは受信機を持っていないと聞けず、それを持ってもらうこと自体が至難の業だった。今後多様な機能を実装し、放送局が制作した優良なコンテンツがあると伝えていけば、(目標達成の)可能性は十分にある。ラジオという音だけの世界は本当に想像力を駆り立てる。若者にもぜひ触れてもらい、映像を思い浮かべる想像力を鍛えて欲しい。

      

連載・デジマ新機軸


【01】ネット動画全盛時代、CM制作会社のピンチかチャンスか(2018年12月10日配信)
【02】テレビ関係者も前のめり、動画に“触れる”新技術が拓く市場(2018年12月11日配信)
【03】“ツイッター"の成長をけん引する動画の威力(2018年12月12日配信)
【04】伸び悩む「ラジコ」、データ活用でブレークスルーはあるか(2018年12月13日配信)
【05】メガネスーパー再建にも貢献、DMはデジタルで再成長する(2018年12月14日配信)

ニュースイッチオリジナル

COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局
ニュースイッチ編集長

ラジコユーザーの1人としては、青木社長の話を伺いつつ、スマホ画面を見る文化の醸成はかなりハードルが高いだろうなぁと感じていました。やはりラジオは「ながらメディア」という性格が強いので。とはいえ、そこを突破する策を期待したいところです。一方で私の周辺では、高い音質を求める利用者がかなりいます。青木社長は「音質を上げるとなると、無料とはいかない」とおっしゃっていたので、果たしてどうなるか。

関連する記事はこちら

特集