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サンドブラストで新たな価値創造に挑む不二製作所

サンドブラストで新たな価値創造に挑む不二製作所

次代を担う若手社員とともに。写真中央が杉山博己社長

 サンドブラスト装置メーカーの不二製作所。サンドブラスト加工法そのものは、1世紀以上前に発明され、ガラス工芸や鋳物の砂落としなどには戦前から利用されるなど広く知られた技術だが、同社はその潜在的な可能性に着目し、産業分野への応用を進め日本のものづくりを下支えしてきた。

航空機や自動車分野にも


 セラミックやガラス、金属などの素材でできた微少な研磨材を加工対象物に吹きつけるサンドブラスト加工は、下地処理やクリーニング、材料表面に凹凸を付ける加工やバリの除去などに用いられる。同社は1957年に日本で初めてキャビネット型のサンドブラスト装置を開発し、国内シェア約3割を持つ。

 同社の装置は、研磨材を吹き付けた後にそれを回収して循環利用するもので、ほこりの出ないサンドブラスト装置として作業環境を大幅に向上させたのが特徴だ。かつてのサンドブラストは、粉じんの中での作業が当たり前だったが、これを改善し、さらにその用途をメッキや塗装、アルマイトの前処理などに実用化することで一気に産業分野に普及した。その背景には装置開発にとどまらず、ブラストの可能性を追求する同社の開発姿勢がある。

 近年は、装置や研磨材を工夫し研究を重ね、さまざまな加工技術を確立してきた。これまでに、航空機・自動車部品向けのショットピーニング、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の加工処理や3Dプリンター造形品表面の積層段差除去にも採用分野が拡大している。

 2012年には、東京大学発のベンチャー企業と協業。「シリウスZ」と称する弾力性のある微細研磨剤でブラスト加工することで、金属の鏡面仕上げができる加工技術を確立した。日本のエレクトロニクス技術の進展とともに、技術力を磨き上げ、業績を順調に拡大。装置の輸出先は約50カ国に上る。

さらなる用途拡大目指して


 将来戦略について杉山博己社長は、より厳格な品質管理体制が求められる「医療や食品分野での用途開拓を進めたい」と語る。研磨材ではなく、粒状のドライアイスを吹きつけて、金型や医療器具を水や薬品を使用せずに洗浄することで、顧客企業の環境対策への貢献が期待されるからだ。また、食品の生産ラインで用いられる機器の金属表面にブラスト加工を施し粉体などの滑りを良くする「GEMINI(ジェミニ)」と称する加工技術も開発。この技術では、素材そのものを加工するため、一般的なコーティング材による表面処理で懸念される剥離のリスクがない点もセールスポイントという。

杉山社長

 ロボットや人工知能(AI)といった最新テクノロジーとの融合も大きなテーマだ。2002年にロボット搭載型のサンドブラスト装置を開発したのに続き、現在はロボットアーム型の自動機を市場投入している。噴射式装置の機構とロボットの親和性に着目し、早い時期から開発に取り組んできた成果が花開いた形だ。これまで人手に依存していた噴射作業をロボットに置き換えることで、作業負担を軽減。多品種少量加工への対応も可能になることで、生産性向上につながる。将来は、データの分析、制御においてAIの活用も視野に入れている。

アイデア支える職場風土


 同社にとって技術的な接点を持つ産業分野は多岐にわたる。それだけに顧客が直面する課題や潜在的なニーズをいかに顕在化させることが次なる開発の原動力となる。ブラスト装置はオーダーメード生産が基本。このため、獲得した受注をいかに拡大、発展させていけるかは「社員一人一人のアイデア勝負、その提案力にかかっている」(杉山社長)。それゆえに、人材育成やそれぞれが能力を発揮できる組織づくりには心を砕いている。同社では300人に上る従業員のうち、約80人が技術・用途の開発に携わっている。装置一台ごとに、設計と組み立てを行う技術者を配置し、専門分野が異なる視点で、現場を捉えることで、アイデアや改良点を生み出しやすい職場風土が醸成されている。

 社内に専門のチームを設置。専門知識の集約や技術の取りまとめを行う社内研修も定期的に実施している。技術部門の社員以外も受講して専門的な知識を身につけ、技術的提案力を養う。

 自身の経営目標に「社員が楽しく、働きがいを持って仕事に取り組める会社を目指す」と掲げる杉山社長。社長に就任して2年目。従業員とのコミュニケーションを重視しながら、長年培われてきた豊富な“アイデア力”が生み出される職場風土を次代に継承する構えだ。

地域とともに


 創業の地で、現在も本社を構える東京都江戸川区は、製造業を営む中小企業が集積する地域。ブラスト装置の製造では、金属部品のメッキ処理や一部自社で対応できない加工は江戸川区内の協力会社に長年委託している。また、周辺地域(江戸川、墨田、葛飾区内)の工業高校から毎年卒業生の採用を継続。2018年度からはインターンシップ(職場体験)も受け入れるなど地域に根ざしている。
【企業情報】
▽所在地=東京都江戸川区松江5-2-24▽社長=杉山博己氏▽設立=1950年▽売上高=59億円(2018年3月期)
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
「ブラストの可能性は、まだ夜明け前」。創業者が残した言葉を現代に受け継ぎ、これからもブラストがもたらす新たな価値を追求する。

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