ニュースイッチ

日本の技術が貢献、キログラム定義の130年ぶり改定は世の中をどう変えるか

2019年5月20日から適用
日本の技術が貢献、キログラム定義の130年ぶり改定は世の中をどう変えるか

プランク定数を決めるために必要なシリコン球の直径を測る装置

 重さや温度などの物理単位の定義が新しくなる。フランスで16日に開かれた国際度量衡総会は、国際的な標準として決められている国際単位系(SI)の中で、質量の単位であるキログラムを含む4種類の単位の定義改定を審議し、新定義を採択した。キログラムの単位が改定されるのは約130年ぶり。新定義は2019年5月20日から適用される。精密な“物差し”は世の中をどのように変えるのか。

 長さや重さ、距離、温度など我々の生活や産業を支える基盤としてさまざまな物差しが必要になる。今回改定されたのは質量のキログラムのほか、物質量のモル、熱力学温度のケルビン、電流のアンペアの四つの物差しだ。その中のキログラムは産業技術総合研究所が関連する実験を行い、定義改定に貢献した。

 量子力学の重要な物理定数で、光が持つエネルギーの最小単位「プランク定数(h)」を「6・62607015×10のマイナス34乗ジュール秒」と定め、この値を基にキログラムを定義する。産総研はプランク定数の精密な計測に成功。使用した8個のデータのうちの4種類の測定に産総研が関わった。「プランク定数の測定に貢献したことは日本の測定技術が世界的に高い水準にあることを意味する」(中鉢良治産総研理事長)。

 今までは1キログラムを「キログラム原器」と呼ばれる物差しで決めていた。だが原器の質量が100年で指紋1個分の質量となる50マイクログラム(マイクロは100万分の1)程度減少している可能性が出てきた。産総研の臼田孝計量標準総合センター長は「原器という器物は世界に一つしかなく誤差のリスクが大きい」と指摘する。

 今回のキログラムの定義の改定で、SI単位系のすべてが原器を使わず定義できるようになった。物理現象に関わる基礎物理定数から単位を導くことで恣意(しい)的な要素が排除される。

 こうした定義の改定はすぐに我々の生活に影響することはない。だが中長期的な効果として、原子時計による全地球測位システム(GPS)、微小電気機械システム(MEMS)デバイスや電気自動車(EV)の性能向上などへの利用が期待される。物差しの定義が変わることで、新しい物理現象の解明や新産業の発展にも期待が高まる。
(文=冨井哲雄)
日刊工業新聞2018年11月21日

編集部のおすすめ