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ライフサイエンス産業で地元をけん引するアイカムス・ラボの挑戦

地域一帯で下請け構造からの脱却を目指す
ライフサイエンス産業で地元をけん引するアイカムス・ラボの挑戦

ペンのように持って作業し、使用者の負担を軽減する電動ピペット

**地元をリード
 岩手をライフサイエンス産業の集積地に―。アイカムス・ラボは、ペン型電動ピペットやラボスケールの培養液交換装置などを手がけ、売り上げの8割を医薬・バイオ向けが占める。同分野の機器開発では地元中小企業をリードする存在だ。

 技術の核は、岩手大学と共同開発した微細なプラスチック歯車によるマイクロアクチュエーター。岩手大の持つ精密金型技術で、金属では加工が難しい直径5ミリメートル以下の小型歯車の量産に成功。少ない段数で大きな減速比を得られる機構を採用して部品点数を抑え、低コスト、小型軽量を強みとする。

 片野圭二社長は盛岡市生まれ。上智大学理工学部を卒業後、アルプス電気に就職し、地元の盛岡工場でプリンターの設計開発に携わった。同工場は研究開発拠点としての側面が強く、「起業意識を持つ人が多かった」と片野社長は振り返る。2002年に工場閉鎖が決まると、18年間勤めた会社を退職。翌03年に同僚らとアイカムス・ラボを設立した。

精度悪化防ぐ


 マイクロピペットは、理化学実験で微量の液体を計量、分注する器具。研究所や病院で使われるピペットの大半が手動タイプで、精度がばらつきやすい。「研究員の負担を軽減し、有意義な研究に時間を使ってほしい」との思いから、13年に電動ピペットを発売。誰でも一定の精度で連続分注でき、センサーで機器内部の温度上昇を自動制御して手の熱による精度悪化を防ぐ。

 今後は医療分野の取り組みを強化する。医療機器製造販売業許可を取得し、19年内にも歯科用医療機器の生産を始める。また、再生医療の普及を見越し、理化学研究所と共同でiPS細胞(人工多能性幹細胞)移植装置の研究にも取り組む。

 片野社長の視線の先には、自社だけでなく岩手や東北の未来がある。15年に地域の工学技術と医学知識による医療関連機器の共同開発を手がける団体「TOLIC(トリック)」を地元企業4社で設立。参加企業は3年間で14社に増え、共同開発製品も複数生まれている。「企業が主体となり、学官金が支援する体制ができつつある」と片野社長は語る。

輸出拡大目指す


 16年にはメードイン東北の機器の販売、マーケティングを手がける「TOLIMS(トリムス)」を設立した。独自に海外販社と取引し、輸出拡大を目指す。

 地域一体で下請け構造から脱却し、自立的発展を遂げるための取り組みが実を結び始めている。
(文=仙台・苦瓜朋子)

【企業プロフィル】▽所在地=盛岡市北飯岡1の8の25▽売上高=約4億円(17年9月期)▽設立=03年(平15)5月

片野圭二社長
日刊工業新聞2018年10月15日

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