“有機ELのシャープ”、まず自社製スマホに搭載し強さアピール
液晶より軽いパネル、自社開発・量産にめど
高精細で軽量が特徴の有機ELパネル。近年、海外メーカーの高級スマートフォンでは搭載が進んできたが、日本メーカーも採用に乗り出した。中でもシャープが3日発表したスマホ「アクオス ゼロ」はパネルも自社製で、「日本初の国産有機EL搭載スマホ」をうたう。液晶に次ぐ主力事業になるか。
「有機ELを安定生産できることの証明でもある」―。シャープが3日、都内で開いた発表会で、中野吉朗通信事業本部長はそう宣言した。年内に新たな旗艦(フラッグシップ)モデルとして、自社開発の有機ELパネルを搭載したスマホ「アクオス ゼロ」を発売する。量産に必要な歩留まりや設備の安定稼働などの達成にめどを付けたと自信を深めるシャープ。「優れたデバイスは外に出していくのが当社の姿勢」(中野本部長)と、有機ELの外販も視野に入る。
液晶より軽い有機ELパネルに置き換えたほか、筐体(きょうたい)素材を軽量化した。比較対象のスマホは200グラムに達するが、シャープは146グラム。さらにパネルも曲面状であり、立体形状に設計できるのも有機ELの特徴だ。
小林繁パーソナル通信事業部長は、「スマホで一番大きい部品のディスプレーは、デザイン性を左右する存在でもある」と話す。液晶だけをスマホに採用し続けてきたシャープも、有機ELの強みを認めつつある。
新スマホの価格は未定だが、中核部材の有機ELパネルが自社開発であることもあり、「そこまで高くならない」(小林部長)と米アップルなどとの競合に自信をみせる。
加えて、自社開発を生かし、画質にきめ細かい味付けを加えた。有機ELは鮮やかさが強みだが、わずかな明るさの変化を表現することが苦手だ。「有機ELは液晶と色合いが大きく違う。『アクオス』ブランドのイメージが崩れる懸念があった」と小林部長。画像エンジンと有機ELパネル間で調整し、シャープらしい自然な色合いになるように工夫した。
解像度やコントラスト比といった基本性能でみても、シャープ製有機ELパネルは、アップルや韓国サムスン電子など高級スマホのパネルと同等かそれ以上の水準を実現した。
スマホ用有機ELは、サムスンが独占し続けてきた。かねてより、シャープの戴正呉会長兼社長は、「サムスンと張り合う気はない」と、世界シェアを追求しない方針を示してきた。ただ、姿勢を転換し、親会社である台湾の鴻海精密工業の資本力を借りて増産に踏み切る可能性もある。そうなればシャープにとって有機ELが液晶に次ぐ新たな主力事業となる展望も開ける。
動画やゲームのニーズの高まりもあり、近年のスマホは高機能・大型化が進む。それを象徴するのが有機ELへのシフトだ。
世界シェア首位のサムスンは、早くから自社製の有機ELパネルを搭載した「ギャラクシー」シリーズを展開。日本市場では今冬には最新モデル「ギャラクシーノート9」を投入する。
2位の米アップルは2017年のアイフォーン「X」から有機ELを採用。18年の新モデルでも「Xs MAX」など2機種に搭載した。この2社を猛追する華為技術(ファーウェイ)など中国勢も有機ELモデルを強化するなど、今や世界では高機能モデルで有機ELスマホが主流になりつつある。
こうした世界の潮流に合わせ、日本勢でもシャープのほか、ソニーも他社製パネルを搭載した「エクスペリア XZ3」を今冬に市場投入するなど、有機ELシフトが進む。
サムスンやLGディスプレイの韓国勢が席巻する中小型有機EL市場にくさびを打ち込もうとしているのがJOLEDだ。20年にも世界初となる印刷式の有機ELディスプレーの量産に乗り出す。コスト削減に直結する「印刷式」という武器で有機ELパネルの世界を変える可能性を秘める。
有機ELパネルの製造には、真空環境で気化した有機EL材料を型を使って塗り分ける「蒸着式」と、赤、緑、青の液体発光材料を必要な部分に印刷する方式がある。印刷方式は型や真空環境が不要なため、蒸着方式より製造コストを2―3割程度削減できるといわれている。
現在、中小型有機EL市場のシェア約90%をサムスンが握る。さらに最近では中国で安値攻勢を仕掛けており、液晶市場も着実に奪い、ますますシェアを広げている。しかし、JOLEDにも勝機はある。スマホメーカーがサムスン1社供給に懸念を示しているからだ。実際、米アップルが今秋に発売した新機種では、LGからもパネルを調達した。サムスン1強に食い入る余地は十分にある。
業界では、「印刷式は大型パネルでこそ蒸着式より有利」との見方が支配的だ。JOLEDは大型パネルへの技術供与も視野に入れる。ただ、そのためには中小型でサムスンを脅かすような存在感を発揮できるかが問われる。
(文=大阪・平岡乾、編集委員・栗下直也、杉浦武士)
「有機ELを安定生産できることの証明でもある」―。シャープが3日、都内で開いた発表会で、中野吉朗通信事業本部長はそう宣言した。年内に新たな旗艦(フラッグシップ)モデルとして、自社開発の有機ELパネルを搭載したスマホ「アクオス ゼロ」を発売する。量産に必要な歩留まりや設備の安定稼働などの達成にめどを付けたと自信を深めるシャープ。「優れたデバイスは外に出していくのが当社の姿勢」(中野本部長)と、有機ELの外販も視野に入る。
液晶より軽い有機ELパネルに置き換えたほか、筐体(きょうたい)素材を軽量化した。比較対象のスマホは200グラムに達するが、シャープは146グラム。さらにパネルも曲面状であり、立体形状に設計できるのも有機ELの特徴だ。
小林繁パーソナル通信事業部長は、「スマホで一番大きい部品のディスプレーは、デザイン性を左右する存在でもある」と話す。液晶だけをスマホに採用し続けてきたシャープも、有機ELの強みを認めつつある。
新スマホの価格は未定だが、中核部材の有機ELパネルが自社開発であることもあり、「そこまで高くならない」(小林部長)と米アップルなどとの競合に自信をみせる。
加えて、自社開発を生かし、画質にきめ細かい味付けを加えた。有機ELは鮮やかさが強みだが、わずかな明るさの変化を表現することが苦手だ。「有機ELは液晶と色合いが大きく違う。『アクオス』ブランドのイメージが崩れる懸念があった」と小林部長。画像エンジンと有機ELパネル間で調整し、シャープらしい自然な色合いになるように工夫した。
解像度やコントラスト比といった基本性能でみても、シャープ製有機ELパネルは、アップルや韓国サムスン電子など高級スマホのパネルと同等かそれ以上の水準を実現した。
スマホ用有機ELは、サムスンが独占し続けてきた。かねてより、シャープの戴正呉会長兼社長は、「サムスンと張り合う気はない」と、世界シェアを追求しない方針を示してきた。ただ、姿勢を転換し、親会社である台湾の鴻海精密工業の資本力を借りて増産に踏み切る可能性もある。そうなればシャープにとって有機ELが液晶に次ぐ新たな主力事業となる展望も開ける。
高性能・大型化シフト 動画・ゲーム…新たなニーズ
動画やゲームのニーズの高まりもあり、近年のスマホは高機能・大型化が進む。それを象徴するのが有機ELへのシフトだ。
世界シェア首位のサムスンは、早くから自社製の有機ELパネルを搭載した「ギャラクシー」シリーズを展開。日本市場では今冬には最新モデル「ギャラクシーノート9」を投入する。
2位の米アップルは2017年のアイフォーン「X」から有機ELを採用。18年の新モデルでも「Xs MAX」など2機種に搭載した。この2社を猛追する華為技術(ファーウェイ)など中国勢も有機ELモデルを強化するなど、今や世界では高機能モデルで有機ELスマホが主流になりつつある。
こうした世界の潮流に合わせ、日本勢でもシャープのほか、ソニーも他社製パネルを搭載した「エクスペリア XZ3」を今冬に市場投入するなど、有機ELシフトが進む。
JOLEDに好機 コスト削減「印刷式」有利
サムスンやLGディスプレイの韓国勢が席巻する中小型有機EL市場にくさびを打ち込もうとしているのがJOLEDだ。20年にも世界初となる印刷式の有機ELディスプレーの量産に乗り出す。コスト削減に直結する「印刷式」という武器で有機ELパネルの世界を変える可能性を秘める。
有機ELパネルの製造には、真空環境で気化した有機EL材料を型を使って塗り分ける「蒸着式」と、赤、緑、青の液体発光材料を必要な部分に印刷する方式がある。印刷方式は型や真空環境が不要なため、蒸着方式より製造コストを2―3割程度削減できるといわれている。
現在、中小型有機EL市場のシェア約90%をサムスンが握る。さらに最近では中国で安値攻勢を仕掛けており、液晶市場も着実に奪い、ますますシェアを広げている。しかし、JOLEDにも勝機はある。スマホメーカーがサムスン1社供給に懸念を示しているからだ。実際、米アップルが今秋に発売した新機種では、LGからもパネルを調達した。サムスン1強に食い入る余地は十分にある。
業界では、「印刷式は大型パネルでこそ蒸着式より有利」との見方が支配的だ。JOLEDは大型パネルへの技術供与も視野に入れる。ただ、そのためには中小型でサムスンを脅かすような存在感を発揮できるかが問われる。
(文=大阪・平岡乾、編集委員・栗下直也、杉浦武士)
日刊工業新聞2018年10月4日