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関西で交通系ICカード普及へ、距離を縮めるJRと阪急

長年のライバルがタッグ
長年ライバル関係にあったJR西日本と阪急電鉄が、急速に距離を縮めている。両社は京都―大阪―神戸間などで競合路線を有し、速達性や移動快適性、料金の各面で激しい競争を繰り広げてきた。人口減少社会や都市間競争を見据え、関西を支える鉄道事業者として協調は不可欠だ。首都圏に比べて大幅に遅れている交通系ICカードの普及に向けて、足並みをそろえた。

 JR西日本は1日、阪急電鉄など関西私鉄による交通系ICカード「PiTaPa(ピタパ)」に対してポストペイ(後払い)サービスを始めた。これまでピタパを使ってJR西を利用するには、他の交通系ICと同様、カードへのチャージ(入金)が必要だった。

 JR西の「ICOCA(イコカ)」やJR東日本の「Suica(スイカ)」など交通系ICの多くでは、カードに入金しておき改札通過時に運賃分を減額するストアードフェア(SF)方式を採用する。ピタパは唯一、毎月の利用代金をまとめてクレジットカードや銀行口座から自動で引き落とす方式だ。

 JR西の来島達夫社長は「(関西では)15年間、それぞれの仕組みでやってきた。大きな転換点だ」と話す。ピタパのポストペイ対応に加え、阪急との競争の象徴でもあった時間帯指定の格安回数券「昼間特割きっぷ(昼特きっぷ)」を廃止。ピタパやイコカで利用実績に応じた割引・ポイントサービスを導入し、昼特きっぷや普通回数乗車券などの磁気券レスを促す考えだ。

 一方、阪急阪神ホールディングス(HD)傘下の阪急や阪神電気鉄道など4社は2019年春からSF方式の磁気カードの販売を終了しイコカとイコカ定期券を発行する。後払い方式のピタパは発行に手間がかかるのが難点で、イコカは定期利用者にも広がりそうだ。

 4社は他の私鉄が共通磁気カードを廃止した後も、独自の「レールウェイカード」を維持してきた。阪急阪神HDの杉山健博社長は「IC化をノーと言っていたわけではない。磁気カードを支持する利用客が多かった」と説明。当面の磁気カード維持で「ソフトランディング」(杉山社長)を狙ったと明かす。

 現状でJR西のIC化率は約7割。9割超に達した首都圏では、改札機の簡素化や発券窓口の縮小といった目に見える効果が出ている。JR西の来島社長は「22年度には(IC化率を)85%まで高める。ピタパ陣営と一緒にやっていきたい」と巻き返しを誓う。
(文=小林広幸)
日刊工業新聞2018年10月3日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
JR西と阪急が協調路線を歩み始めたのは数年前。当時のJR西の首脳が阪急の首脳を訪ねて、未来志向の関係を築いていくことを話し合ったという。従来通りサービスを競う一方で、きっぷのIC化や神戸市中心部の三ノ宮再開発などでは連携を深める両社。新たな関係の下で、共通の課題解決や地域活性化に取り組んでいる。 (日刊工業新聞社・小林広幸)

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