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アウェー感満載の有識者会議、夏野さんの主張が通った宇宙産業ビジョンとは?

夏野剛氏インタビュー「衛星データの利用拡大で日本は変わる」
 世界初の携帯電話向けインターネット接続サービス「iモード」の生みの親である夏野剛(慶応義塾大学特別招聘教授)さん。いま、日本の宇宙産業の振興に力を注いでいる。IT業界に精通したその目に宇宙ビジネスの可能性はどう映るのか-。宇宙とIT・ビッグデータの融合が社会に与えるインパクトについて語ってもらった。

宇宙村にやってきた地球人


 -夏野さんと宇宙。意外な組み合わせのようにも感じるのですが。
 「直接のきっかけは、元・特許庁長官の小宮義則さんです。経済産業省時代にも審議会などを通じて仕事をご一緒する機会はあったのですが、内閣府の宇宙開発戦略推進事務局長になられた折に、宇宙産業のすそ野拡大には、異なる産業からの視点が必要だと声をかけられたんです」

 -宇宙に関心はあったのですか。
 「昔からSF小説は好きでアーサー・C・クラークの作品はほとんど読んでいますし、宇宙を題材にしたマンガやアニメも大好きです。『王立宇宙軍オネアビスの翼』やスペースデブリ(宇宙ゴミ)を題材にした『プラネテス』なんて作品もありましたね。こんなに発想力が豊かで宇宙を扱ったコンテンツを誇る日本としては、もっと大胆な宇宙政策を展開するべきじゃないか-。そんな思いは以前から抱いていました」

 -政策立案に関わるようになってまず、どんな印象を持ちましたか。
 「宇宙産業ビジョンを検討する有識者会議の委員に就任したのですが、『アウェー感』満載でした。僕以外の委員は宇宙村の宇宙人。そこに地球人が送り込まれたようなものです。しかし、議論を聞くにつれ、これはかつての日本の電気通信業界と同じ構造だと感じるようになりました」

これは同じ構造だ


 -どういうことですか。
 「政府からの需要に大きく依存し、新規参入が進まずイノベーションが生まれにくい点においてです。通信業界もかつては特定の企業を中心に市場を分け合っていた時代がありました。宇宙産業も官から民へ転換することで、大きな可能性を秘めているにもかかわらず宇宙機器製造産業の売上高は3000億円規模。畳産業の市場規模と同じですよ。こうした構造を打破することが小宮さんの問題意識だったのかと実感しました」

 -「宇宙産業ビジョン2030」では、これからの施策の方向性を「宇宙産業は第4次産業革命を進展させる駆動力。他産業の生産性向上に加え、成長産業を創出するフロンティア」と位置づけています。

 「僕はビジョン策定をめぐる議論の中で、大きく3点を主張しました。ひとつは、衛星データの利用拡大。もうひとつは新たな宇宙ビジネスを見据えたリスクマネーの供給強化。さらに思い切った産業再編です。三つ目以外はビジョンに反映されました(笑)」

産業利用の可能性


 -ビジョンを踏まえ、新たなビジネスや産業の効率化をもたらす衛星データの利用環境が近く整備されるそうですね。具体的に教えて下さい。
 「一部の政府衛星データは主に研究用途として、すでにオープン化されていますが、産業利用を想定していませんでした。そもそも地球観測衛星データは、膨大で各社のサーバーで処理するには負荷が大きすぎますし、入手してもすぐに使えるわけではありません。しかし現代社会においてデータが価値を生むことは周知の事実です。こうした衛星データをユーザーが使いやすい形で無料公開することは、大きな意味があります」

 -どんな産業利用が見込まれますか。
 「あらゆる産業分野に効率化や新サービスをもたらすでしょう。地図情報の更新頻度が高まれば、施設や地形の状況をリアルタイムで把握することが可能です。衛星データのような面的な情報に自然状況や人やものの動きを組み合わせることで分析精度は飛躍的に高まるでしょう。個人的には2020年の東京五輪・パラリンピックの暑さ対策など円滑な大会運営にも寄与できるのではと考えています」

 -こうした衛星データの産業利用はいつから可能になるのですか。
 「現在、国がユーザーフレンドリーなデータプラットフォームの開発、整備を進めています。2018年度中にはプロトタイプが公開予定です。最初の利用者は日本企業であってほしいですね」

「資源」使わない手はない


 -GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)と呼ばれる巨大プラットフォーマーが市場を席巻するように、データの持つ意味は極めて高まっています。衛星データの利用拡大は日本にとってどんな意味があるのでしょう。
 「過去20年の間、諸外国はITを先進的に活用することで、生産性を高めてきましたが、日本だけがうまくいっていない。衛星データ活用はその遅れを挽回するチャンスなんです。自国で衛星を打ち上げ、観測もできる日本としてはそこから得られるデータを『資源』として使わない手はない」

 -データコンテストも開催されるとか。新たな「資源」をテコにイノベーションを創出してほしいとの思いがあるのですか。
 「そうです。だって、地球のリアルデータが自由に使えるなんてすごくわくわくすることだと思いませんか。ハッカソンやアイデアソンと称されますが、ソフトウエア開発者が一定期間集中的に共同作業を行い、技能やアイデアを競うスタイルはIT業界ではごく一般的なんです。衛星データを通じてこうした取り組みを宇宙産業にも広げ、オープンイノベーションにつなげたいと考えています」
                 
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
夏野さんのSFオタクぶりはリンクのロボット対談でも分かります。そちらもぜひお読み下さい。

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